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橋本誠「目的なきインプットの贅沢」(三島滞在まとめ)
9月13日(火)から18日(日)にかけて、三島市に滞在させていただきました。滞在中は簡単な写真+キャプションのみでご報告していましたので、滞在中のいくつかの出来事についてのレポートと、プログラムへの参加を通して考えたトピックについてのメモでまとめ報告とさせていただきたいと思います。
三島の印象1「水辺を向いたまち」
来訪者はどなたでもそう思うのでしょうが、富士山からの伏流水である湧水がとにかく豊富で、まちの中心部を清流がいくつも流れている光景に驚きました。それを生かした遊歩道や公園があり、家やお店も水辺を向いているし、小さな橋には柵が無かったりする。高い建物が少なくて、路地や古いお店が残っていて、空いた建物は意外に少ない(ように見える)。だから歩いていて楽しい。
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三島入り初日に駅から歩いていたら目の前に現れた、白滝公園に足を踏み入れた時も感動がありましたが、これをより深く感じられたのは翌日の朝散歩。滞在中にも様々な場所をご案内いただいた、NPO法人みしまびと・國原さんのお陰でもあります。ご案内ありがとうございました。
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富士山の麓だし、湧水スポットがあるんだろうなぁ、と予想はしていたのですがここまでだとは思っていませんでした。水辺を生かしたまちづくりは、今でこそ見直されて様々な取り組みが各地で見られるようになりましたが、ずっと意識的に(あるいは無意識に)取り組んできたのだろう厚みのようなものを感じることができました。
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私は育ちの土地が岡山の雄町という場所なのですが、田んぼ(酒米を育ている)が多く「まち」っぽさはないけど、一級河川からの引き込み水路や伏流水など、思い返せばやはり水が豊富な環境だったことを思い出しました。近くに水のある生活は何だか落ち着きます。先日の台風のように危険も隣り合わせでもありますが、人間らしくいやすい環境なのかもしれません。
三島の印象2「余所者を受け入れるまち」
ホストを務めてくださったのは、ゲストハウス giwa 三島やワーカーズリビング 三島クロケットを運営する山森達也さん。コロナ禍も手伝い、東京あるいはリモートで仕事をしながら三島を生活拠点に選ぶ方、移住される方が近年増えてきているそうで、山森さんの拠点にもそのような方や移住を検討されている方がよく訪れていらっしゃるとのことです。giwaでは毎日1時間だけオープンするバーの運営もされていて、宿泊者や来訪者とまちの方がつながるきっかけもつくっていらっしゃいました。
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そして山森さん周りの方々をはじめ、お会いする方がおすすめのお店や場所をたくさん教えてくれて、Google Mapが緑色の「行ってみたい」ピンであっという間に埋め尽くされてしまいました。そんな中なぜか3回も行ってしまったカフェバール リトルノでも、隣にいらした、数年前に移住されてきたという方におすすめのコーヒー屋さんを教えていただいたり、老舗のお店をされているというまちの方に声をかけられ一杯ご馳走いただいたりしました。
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程よい距離感でお節介くださる方がいたり、老舗だけでなく少し都会的な雰囲気があり、余所者でも入りやすい新しめのお店があるお店のあるまちはついリピートしてしまいます。現代の宿場町ですね。
「化粧品店で焼酎を売る」千歳屋の樋口純一さん
訪問先での予定は、余裕があれば現地入りしてから決めるのが好きな派なのですが、山森さんにご紹介いただき3人の方には、お話しを聞いたり活動を拝見する時間をあらかじめいただいていました。おひとり目は、三島クロケットの近くで化粧品屋を営む株式会社千歳屋の樋口純一さんです。
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元々は資生堂のポスターをかけるために使っていたという、立派なショーウィンドウを使って作品展示を行う「千歳屋空中ギャラリー」をご自身でも行うほか、三嶋大社に続く三島大通り商店街約700mを使ったストリートギャラリー、取り壊し前のネクステージ三島ビル(旧ヤオハン)を使った展覧会「ネクステージ・アートリニューアル in みしま」の実施に携わられたことがあります(いずれもアーティストのコーディネートに携わったのは加藤哲夫さん)。
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まちを舞台にしてアート活動に取り組む際に、アーティストとそれを受け入れるまち側の意識にギャップが出てしまうこともあること。子供の絵は地域の人に納得してもらいやすいけど、企画として質を伴うものにするのが難しいなど。これまでの取り組みを通して得られている実感が非常に的確だと感じられました。
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もちろん、アート以外の活動にも様々に取り組まれていて、三島甘薯を使った芋焼酎「チットラッツ」のデザインのお話などもうかがいました。三島出身のイラストレーター、デザイナー、画家の方に思い切って任せたとのこと。これに関しては三島商工会議所のプロジェクトだったそうですが、特に行政と協働する事業など合意形成を重ねて行う取り組みは、冒険ができず無難な結果に終わることが多いから時には「勝手に動く」のがモットーだそうです。ちなみにチットラッツを自分のお店でも売るために、酒飯免許も取得したそうです。
御礼に自身の編著書『危機の時代を生き延びるアートプロジェクト』も差し上げたのですが、そこで取り上げている長者町山車プロジェクト(名古屋)の取材でも感じたように、コーディネーターの力だけでなく地域の方なりの新しいことに取り組む理解やセンスがないといい企画が生まれない(そして継続しない)なと、勉強になりました。
「まちの色気としての文化」加和太建設の河田亮一さん
土木、建築にはじまり住まい探しのサービス、商業施設や飲食店、高齢者施設などの運営も手がける加和太建設株式会社の河田亮一さんにもお話をうかがいました。アート系に限らず、地域の活動を伝えるフリーペーパーなどローカルメディアがあれば、それを手がけている方にもお会いしたいと山森さんにお願いしていたのです。
加和太建設が発行しているのは、三島のきっかけマガジン『ハレノヒ』。地域の今や引き継がれているものを丁寧な取材と編集で伝えるコンテンツはもちろん(しかも日英バイリンガル!)、A5サイズで横開き、質感のある表紙を使っているこだわりが既に冊子そのものから伝わっていましたが、やはりそこには熱い思いがありました。
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河田さんの名刺には「つくっているのは、元気です」というコピーがありました。会社での多様な取り組みは全て、三島をはじめとする静岡県東部地域のまちを元気にすることだそうです。
『ハレノヒ』は2018年から年4回発行。大事にしているのは、若い人にもまちにあるものに気づいてもらうこと。地域の外への情報発信というよりは、地域の中でその魅力を深掘りして伝えていくことが軸足にあることがよく分かりました。しかし表面的な情報がネット検索で簡単に手に入るようになったいま、わたしたちのような来訪者にとってもここで取り上げられているような一歩踏み込んだ情報。地域の人の声や視点がわかるメディアというのは非常に魅力があります。
また河田さんは、ビジネスも大事だけど、それだけではまちが元気にならない。清流のせせらぎ、豊かな食、音楽やアートなどまちの色気としての文化が共にあることが必要だと言います。効率化が進む首都圏ではなく、自然も身近だけれども人の営みとしての文化がきちんと感じられる三島を拠点としている意味が、この姿勢に現れていると感じることができました。
「学びの場としての自然と創作」Lab Qrioの榎本亜子さん
アートを軸に子ども向けの創作プログラムなどを提供しているLab Qrio(ラボ キュリオ)のワークショップがちょうど行われているとのことで、こちらもお手伝いしながら見学させていただきました。
タイトルは「80年もの⁉︎タイムカプセルにいのちをふきこもう!」です。三島には80年前から近年まで、陶器を川に捨てる風習があったとのことで、そのかけら「チャンカケ」をたくさん拾うことができる場所があります。ワークショップでは、川に入りチャンカケを拾って、それを素材に作品に仕上げるという内容でした。
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会場(集合場所)は旧三島測候所庁舎エコセンター。国の登録有形文化財にも指定されている建物は、普段は環境学習などに使われているそうです。集まった子ども(小学生)8人を連れて、まずはチャンカケ拾いのポイントへ向かいました。
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気持ちいい冷たさの水に浸かりながらチャンカケを拾う途中、川に関する説明タイムも設けられます。チャンカケにくっついて巣をつくっていることもあるトビゲラは、水のきれいな場所にいるということ。三島梅花藻(ミシマバイカモ)もまた清流の中に育ち、白い花をつけるということ。エコセンターに戻ってからも、三島の川について学ぶ時間が少しだけ設けられました。
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三島ならではの身近にあるもので何かをつくる、という企画もですが、三島にいるなら知っておいて欲しいことをその中にさり気なく盛り込む構成が素敵です。
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制作は、皮や金具とホットボンドなどで組み合わせて作るストラップが例示されつつ、アクセサリー、モビールなど好きなものを思い思いに制作。私も、写真撮影や少し難しそうに作業している子を手伝いつつ、自分でもひとつストラップを制作してみました。
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ワークショップ後、主宰の榎本亜子さん、講師の水野哲雄さんに活動や三島のこと、子どもの居場所についてなどの話をうかがいました。榎本さんは、三島には旦那さんの転勤がきっかけで十数年前に移住されたとのことです。沼津など近隣も候補地だったそうですが、千歳屋さんもある大通りや三嶋大社の雰囲気で「ここだ」と思ったそうです。Lab Qrioは、母親仲間と一緒に2019年に立ち上げた活動で、レッジョ・エミリア教育の考え方を参考にされているそうです。単なる子供教室ということではなく、母親視点、地域ぐるみで子供を育てられる環境にしていきたいとのことでした。
中間支援としての「マイクロアートワーケーション」の可能性と課題
最後に、マイクロアートワーケーション(MAW)のプログラムそのものに関する印象です。今回プログラムに参加した理由、三島への滞在を希望した理由を整理すると以下の3点だったと思います。
1.縁もなく、行ったことのないまちに滞在してみたい
2.用件や先入観抜きで、そこで活動している人に出会いたい
3.自身が中間支援に携わる際に参考になる視点を得ておきたい
普段から、各地の芸術祭・アートプロジェクト・アーツカウンシルへの取材など何らかの目的やご縁があって地域を訪れることが多いので、とにかく違う形で滞在したかったのです。そういう意味では、三島ではなくても良かったのですが、「現代の宿場町」的な環境で地域の人や偶然訪れた方に会いやすかったのは良かったです。
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ホストの山森さんにもっと頼って、よりたくさんのアート関係者やまちづくりの活動などに携わられている方に会うこともできたのですが、偶発的な予定もしっかり入れていきたかったのであえてそれはしませんでした。
プログラムの成果としてきちんと定められているのは、日々のnote記事(写真1枚でも可)とこのまとめ記事だけなのでとても気楽な滞在でした。ホストがいて人の紹介やイベントの企画など何らかのアレンジをお願いすることもしやすい仕組みですが、基本的には目的なきインプットのみに自由に時間を使える。その結果として何かをしてみたくなる(滞在する旅人もですが、旅人が出会った人たちも)というのがポイントだと思います。
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同時期に滞在していた坂井さんはパフォーマンスをしながらまちを歩き、金さんはトークイベントもしていました。地域の人たちがそれを面白がり、その反応がまた、それぞれのインプットになっている様子をうかがうことができました。
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ではプログラムの主催者であるアーツカウンシルしずおかにとっての価値・成果は何でしょうか。まずは上記でも触れたように、大きく3点に集約されるのではないかと思います。
1.旅人(静岡県内外)としてのアーティスト・クリエイターへの支援になる
2.彼らの視点を通した地域の魅力がnoteと口コミ等で発信される
3.滞在がきっかけとなり、新たな文化的活動が生まれる
特に2に関しては、滞在の自由度が高いので「アーツカウンシルしずおか」という県単位の組織ではなかなか手がまわらないであろう、各地域の情報や人へ出会うことができる「間接的な調査」にもつながると思いました。それが偏った視点だとしても、MAWを通して見えた各地域の状況が、新たな事業を検討する材料のひとつにはなるはずです。
しかしこれは課題と対になっていて、まず仕組み上ネガティブな情報がシェアされにくいという点。それから旅人が出会った人に「お前のことはわかったがそれで ”アーツカウンシルしずおか” は何なんだ」と思われてしまいがちだという点。それを実感するひと幕もありました。
三島のように、ホストが文化系の団体だとは限らないので、特に「既存の文化団体」の理解が追いつかず、「自分たちにはあまり関係なさそうだけど、中間支援事業が行われている(自分たちを支援する仕組みも考えて欲しい)」となりがちでもあるなと思いました。少々大変でしょうが、アーツカウンシル側としても、並行して各地域での調査なり事業に取り組むというのがいいバランス感なのかもしれません。
そういったわけで、各地の芸術祭・アートプロジェクトの様子を追っている者として。アーツカウンシルをはじめとする中間支援事業に携わることも多い身としては、大変充実したインプットの時間をいただくことができました。これをまた静岡にお返しできる機会がつくれるのかは分かりませんが、三島はまた遊びに行きたい場所になりました。
お付き合いいただきました皆様、ありがとうございました!