新造真人「道標の因数分解(1日目)」
はじめまして、新造真人といいます。シンゾウマコトと読みます。良い苗字を与えられて、名前に育てられたような四半世紀を送ってきました。小さいころから描くことや、作ることが好きでした。幼稚園の頃、「なりたい職業は?」と聞かれたら「大工さん」と答えていました。大きなものを作りたかったのだと思います。今、思い返すと、世界にどんな仕事があるのかも全然知らないのに、子供に職業を聞くのは、無責任な重圧を与えているのでは?と慎重になります。
去年に引き続き、2年目の参加です。前回、すごくいい体験をさせていただいので今年も参加しました。前回は伊東市を中心とする伊豆半島に1週間滞在し、今回は函南(カンナミ)エリアを探索します。この、函 という字は調べてみると、函館の函であり、箱という意味があるそう。しかも、公共的な箱。函南は、JRで言えば熱海駅と三島駅の間にあるエリアです。
初日の今日は、日中は三島で過ごし、夜は熱海に宿泊をします。というのも、函南にはちょっと高いホテル(コテージ?一人で泊まる感じではない)とキャンプ場しかなく、キャンプ経験も素人で、車もない私は、その近辺に宿を取ることにしました。行きは根府川から三島に行き、函南を通り過ぎ、夕方は三島から熱海に向かい函南を通り過ぎ。三島、熱海は比較的大きな駅ですが、函南はとても静かな駅という印象です。明日、初めて函南駅に降り立ち、フィールドワークをします。どんな場所なんでしょうか。
今回のワーケーションが決まり、少し前に函南の事前調査をしました。ウェブで色々と調べること。そして、調べるうちに行ってみないと分からないだろうと思い、2週間ほど前に、函南の十国峠というところに足を運びました。その際に、地下水(湧き水、温泉)、断層(函南には丹那断層がある)と地球の生産活動がこの地域の特色だということがわかりました。おそらく伊豆半島自体が、この大きな2つのキーワード。いや、日本全体がこの2つか。そして、実際に足を運んだことで得たキーワードは、この2つ以外には、道標。自分以外に登山者のいない、霧のかかかる山を進む中、どれだけ道標の存在に助けられたか。
道標は、行く先に確かさを与える装置である。そこには現在地と、こちらの方向に進めば、何があると書いてある。信じられる。霧が深く、不安になる道中の中で、この道でいいんだ。この道は間違っていないなんだ。この道を進めば目的地にたどり着くんだ。その感覚はとても暖かい。現在の自分の葛藤とも重なるような気がする。
自分が行きたい方向は、こちらであっている。しかし、それは道標の言語がわかるからである。道標は、日本語で書かれていた。もし自分が異国から来た、日本語に明るくない旅人だったらどうだろう。私は、英語を少し扱える。他には、イタリア語、フランス語、スペイン語も多少わかる。去年からは、あまり知られていないエスペラント語の学習を始めた。この言語は、国土を持たない、1888年に生まれた、比較的新しい言語である。山中にある道標という確かな安心感を与える装置を、日本語以外の、つまりは読めないということで不安感を与えてしまうような記号によって再構成して見たいと思った。この感覚は、普段からあるように思う。目を通されることのない長ったらしい規約書、家電の説明書、聞いたことはあるが読んだことのない憲法、民法、人権白書。確からしい安心感を保証する文章を、その分量によって圧倒されて、実際には手触りのある安堵から距離をとっている。道標、道路標識、そういったことに強く関心が沸いた。
写真は以前作った、小高い丘のために作った看板。
話を戻す。
函南でユニークなのは、地下水や断層とは別に酪農地帯であること(実際には、この2つによって酪農地帯と言うユニークさが生まれたわけだが)。 この土地はもともと水の豊かな土地だったそうですが、鉄道を走らせる為の函南トンネルを開通させるための山の採掘作業をしている際に、この当たりの水が抜けてしまったそう。それは大変な事故だったそうで、亡くなられた方も沢山いたということがわかりました。今日、JRに乗って熱海から函南を抜けて三島に入ると、そこそこ長いトンネルを抜けるのですが、それがこの函南トンネル。新幹線で関東と関西を行き来する方々も、ここを通っている。トンネルに入ると、特有の音と、規則的なトンネルないの照明が、リズムを刻む。
真っ暗なトンネルを突き進むとき、私たちは、ここの中で、トンネルが終わることを、暗闇が終わることを予測している。知っている。なぜなら、今の自分は、どこにいて、それは、ある地点からある地点へと向かっていると、そのベクトルのいく先を知っているから。常に道標を持って、それによって安心感を、安堵を、生活を、生存を、存在を、担保している。道標を、もっと多方面に分解してそれは何を抽象化しているのか、何に接続できるのか、考えてみたい。
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