秋野深 「交通の要衝という価値は永遠か」【森町】(2日目)
マイクロ・アート・ワーケーション滞在2日目は、森町のホストである「森と町づくりの会」の皆様と共に、町内散策。
午前中に訪れた森町歴史民俗資料館では、町の歴史について、産業事業や交通事情の変遷を交え、ご専門の方に詳細にご説明いただいた。
特に興味深かったのは、交通の要衝として栄えた森町の変遷についての解説だった。
森町は東西に南北に人や物が行き交う街道の交差点として地理的に重要な位置にあった。
現在の静岡県の位置を想像しただけでも東西の人や物の流れは想像できるが、南北の流れについては、今回、森町の歴史を知って初めて知ることができた。
静岡と長野を結ぶ信州街道は海から内陸へとつながる塩の道でもあり、秋葉神社へと向かう信仰の道でもあった。
ところが時代と共に街道の存在意義が薄れると、それはそのまま交通の要衝地としての衰退を招くことになる。
これは洋の東西を問わず、そして何世紀という単位で歴史を考えても時代を問わず共通することだろう。
私が思い出したのは、海外での自分のメインフィールドでもあるシルクロード、そしてウズベキスタンだ。
シルクロードは、「かつて東洋と西洋をつなぐ道として栄えた交易ルート」と表現される。ウズベキスタンはちょうどその中間地点にあたり、現にウズベキスタンでも「シルクロードの中央」という表現で観光PRがなされている。
さらには、インドから北上してこのシルクロードにつながるエリアが現在のウズベキスタンにあたり、ウズベキスタン第2の都市で、かつて15世紀頃ティムール帝国の首都として繁栄を極めたサマルカンドは、まさに世界一の交通の要衝でもあった。
サマルカンドという都市の名前がそれを如実に表している。
都市の名の語源は、サンスクリット語で「十字路、交差点」なのである。
広大なユーラシア大陸の最深部に位置し、海からもっと離れたエリアだと言っていい現在のウズベキスタンが交通の要衝として栄えた理由は、シンプル
に人や物の輸送経路が陸路に限られていたからだろう。
東洋と西洋を最も効率よく結ぶルートは、大陸の中央を最短距離で横断するルートだということになる。
その状況を一変させるのは、海上交通の発達に他ならない。
船の航海技術の発展とともに、シルクロードは、「かつて栄えた交易ルート」へと変遷せざるをえなかったということになる。
そんなことにもあれこれと思いを巡らせながら、森町の歴史についての解説をうかがっていたのだけれど、興味深いことに、解説は「かつて交通の要衝として栄えた森町」では終わらなかった。
最近、森町の歴史民俗資料館では、目に見えて来館者が増えているのだという。
理由は、新東名高速道路の開通である。
最寄りの森掛川ICから森町までは10分とかからない。
少々大袈裟な言い方であることは重々承知の上だけれど、アクセスの良さを獲得して、人の流れが復活の兆しを見せていると言えなくもないだろう。
けれど、私の頭の中ではさらにこんな方向にも想像が膨らんでいた。
一般的な交通の要衝という町の存在意義や価値は、人や物の流れ、その交通量によって生み出されていることはいつの時代も変わらなかったはず。
だとしたら、昨今の「リモート(ワーク)化」はその概念にどんな影響を与えていくことになるのだろう。
おそらく、これまでの人や物の流れを根本的に覆すようなボリュームの変化は起こらないまでも、「リモート化」の傾向には、これまでの交通の概念にはない「人や物の地理的な分散」という現象はある程度ついて回ると言えはしないだろうか。
町の歴史、変遷、交通、人や物の流れ・・・そんなことを考えてみると、人々の生活が仮に一部であれ「リモート化」することよって、ほんの少しずつかもしれないけれど、世界や日本の都市や町は、その存在意義を変えていっているのではないかと、そんな気もしてくる。「交通の要衝」という長くゆらぐことなく重宝されてきた価値が、少し形を変えはじめる分岐点のようにも思えてくる。
マイクロ・アート・ワーケーションは、1週間、人的交流を含め、1つの自治体を徹底して掘り下げる体験でもある。
(少なくとも私は一応そう受け取っているし、いつもの自分の撮影活動と比較してもそれが大きな違いでもある)
でも、だからこそなのだろうか。エリアの意識を厳密に持つことなく漠然とどこかを訪れる時より、かえって自分の頭の中の想像や比較が別のところへも柔軟に自然に広がりやすい感覚がある。この感覚はなんとも不思議なものだ。
これから先に他の自治体に滞在する他の旅人アーティストの方々はどうなのだろう。うかがってみたい気がしている。
【森町1日目】 「ひかえめな魅力」
【森町2日目】 「交通の要衝という価値は永遠か」
【森町3日目】 「ドローンと共に森の奥へ」
【森町4日目】 「私の小さな挑戦」
【森町5日目】 「森と町と太田川」
【森町6日目】 「塩の道をゆく」
【森町7日目】 「二歩目を踏み出す行動力」
【まとめ】 「この森と町のゆくえ」