清水玲「南伊豆歩道 妻良-吉田-入間(5日目)」
下賀茂バス停から7:05発松崎高校行きのバスに乗り、妻良(めら)に向かう。下賀茂バス停では小学生たちがどっと降り、空っぽになったバスに高校生たちが乗り込む。地元の高校生たちに囲まれたバスに揺られて約30分。妻良で降りたのは僕だけだった。
妻良港にはすでに沢山の釣り人たちがいた。港から鯛ケ岬を撮影していると動物の鳴き声がして、鳴き声のする方に目を向けると小さなトイプードルが泳いでいるのか溺れているのか、今にも流されそうな不安定な犬かき。あたりを見渡すとペットを探している様子の釣りをしていた中年夫婦がいたので呼びとめ、トイプードルを助ける。いやはや、最先から思いもしない展開にこの先が思いやられる。
妻良港から少し登り南伊豆歩道に入る。普段の山歩きはかなり速いペースなのだけど、今日は意識的にいつもよりかなりゆっくり歩き、周囲をよく見ることを強く意識して歩いた。
途中、猪や鹿に遭遇したがカメラにはおさめることができず。南伊豆歩道沿いには標高200〜300メートルほどの山が連なっていて、それらはそれほど高くないものの、歩く道のりは海岸に出ては山を越え、また下りて海岸に出るような登り下りが続く。
森を下ったら水冷破砕溶岩や水底土石流、火山岩頸などの海底火山時代の痕跡が残るダイナミックな岩肌が連なった風景が突然ひらけたりする。歩道沿いにはツワブキやクサギがたくさん咲いていた。
お昼頃に吉田海岸に到着。アロエ畑が広がるなかに住居が点在する。携帯の電波は入らない。どこか離島に来たような雰囲気。
吉田集落の外れにある白鳥神社は独特な形をしたビャクシンはもちろん、社殿の配置や境内にある巨石など、何とも言えない気配が漂う。
吉田海岸から一気に200メールほど登り、そこからまた下りきると富戸ノ浜にでる。
ある種の秘境感に期待していたが、流れ着いたプラスチック系のゴミが散乱していて、どこか現実を見せつけられたかんじ。フジツボなどの貝化石がたくさん挟まる凝灰岩や凝灰角礫岩に貫入する岩脈などを確認。
そこからさらにひと山ふた山超えて下りきると千畳敷に辿り着く。伊豆石の採石痕の痕跡が残る凝灰岩が波食された広く平らな岩場。
様々な形状の岩脈や斜交層理、縞模様の石が転がっていたり。ここまで来れば入間まであと一息。
16時頃に入間に到着。入間キャンプ村を管理する入間荘へ。夏のキャンプシーズンが終わったからか利用客は僕ひとりだった。にもかかわらず漁師らしいハキハキした口調のオーナーは親切に案内してくれて、薪も少しおまけしてくれた。
テントを貼り、火を起こし、米を炊く。陽が落ちて明かりを消すとあたりは闇。今夜は月もない。ひんやりとした空気に包まれて、テントを貼っていた時に鬱陶しく飛び回っていた蚊はいなくなった。
時々遠くから猪や鹿の鳴き声が聞こえてくる。見上げれば星空が広がり、目が慣れてくると近くの樹の輪郭や遠くの稜線が見えてきた。