秋野深 「私の小さな挑戦」【森町】(4日目)
今日、森町で、生まれて初めての体験を2つもした。
それは紙作りと陶芸。
記憶をどう遡っても・・・たぶん過去にどちらも一度も経験がない。
国内でも海外でも、その土地に残る伝統文化として、職人さんの現場に行ったり、作品を撮影したり、写真家として接点はいろいろあったのに・・・やっぱり自分でやったことは・・・一度もない。
森町滞在の前に情報収集している段階で、かつては吉川和紙が生産されていたことを知った。
さらに、明治42年に始まった森山焼という森町森山の地名を取って命名された陶芸・工芸があり、現在4つの窯元があるのだという。
これまで私が接してきた紙作りや陶芸の現場は、意外に思われるかもしれないが、主に海外だ。
紙の製法が中国から日本へ伝わったことは知られているが、東へのルートだけでなく、当然、中国から西へも紙の製法技術は伝わっている。
8世紀半ばにアラブ軍との戦いに敗れた中国・唐の捕虜が中国の紙の製法を西へと伝えたと言われている。
中央アジアのウズベキスタンではその後盛んに紙が制作され、サマルカンドペーパーと呼ばれる良質な紙が遠くヨーロッパへも輸出されていたという。
ところが技術の担い手がいなくなり、紙の生産はやがて途絶えてしまう。
近年になって、日本の技術者の協力で、桑の木の皮を主原料とする紙の生産が復活し、現代にサマルカンドペーパーが蘇った。
私はその現代のサマルカンドペーパーの工房を何度が訪れ、紙作りの工程を撮影したことがある。
さらに中央アジアのウズベキスタンは陶芸の国でもある。
刺繍や金属・木工芸術も歴史的に盛んで、非常に細かい手仕事を得意にしている職人が多い点は日本との共通点でもある。
ウズベキスタン西部のはずれにある田舎の小さな陶芸工房を訪れた時、職人さんに「私の作品は日本の九谷焼の影響を受けています」と言われ、日本の陶芸の町をいくつも訪ね歩いた時の写真を見せてくれたことがあった。
そして、「跡を継ぐ息子には日本に留学してもらって日本の陶芸を学んでほしいと思っている」とも語ってくれた。
その時の「自分の世界に閉じこもっていてもいいアイディアも作品も生まれるものではありません。それではおそらくたいした進歩はないでしょう。違う世界から常に学び続けることは大切です」という彼の言葉は、ジャンルは違うけれど、自分の作品を制作する仕事をしている者として、私の頭の中に常に鮮明に刻み込まれている。
そんな話と関連させるほどのことでは全くないのだけれど、森町の創作体験工房「アクティ森」では紙作り体験も陶芸体験もできるというので、一度自分でやってみたいと思っていた私は、紙作りと陶芸の体験講座を滞在前から申し込んでいて今日を楽しみにしていたのである。
まず、紙作り体験。
いわゆる紙漉きだけでなく、紙の上に押し花を自分で自由に並べて色付けするところまで体験講座に含まれている。
まずはできるだけ偏らないように楮(こうぞ)・水・のりの入った枠を水平にゆらしながら紙を作る。
サンプルの中から15個ほど好きな花・葉を選んでデザイン。
色付けも可能。ちょっとカルフルにやりすぎたか。
でも担当の先生によると、実際に出来上がると、色はほんのり薄くなるそうだ。
乾いた完成品は明日の受け取り予定。
できあがりの色が薄くなるのを利用して、配置した花や葉の背景に、淡い水彩の風景画のようなテイストになるように山や青空、白く残す部分は雲をイメージして色付けをしてみればよかったかなと、終わってから思った。
早くもリベンジしたい感じ。
次は、陶芸体験。
電動ろくろで器を作る。
浜松市からお越しの小3キッズと並んで体験。
この辺まではかなり好感触。
ところが、どうも私は形に意識が行き過ぎるあまり、手に水をつけるのを忘れてしまいやすいようだ。
それから、知らず知らずのうちにペダルを踏み込みすぎて、ろくろの回転数があがりすぎてしまう。
写真で見ると器の形にはなっているものの、とにかく均等に薄くするのが難しい。
よくテレビでこうした体験物を見ていると、薄いところからちぎれてしまって、壊れて周囲に土が飛び散ったりする光景を目にするが、そうなってしまうのが自分でやってみるとよくわかる。
私は幸い、かろうじて穴が空いたりちぎれたりはしなかったが、何度か回転を止めて手動で修復工事をせざるをえなくなった(笑)。
それでもどうにか完成。
ただ、最後に気づいたのは、そもそもこれ、どこで終わりにするのかが重要。
せっかくいい感じにできていたのに、さらに回し続けてかえっておかしくなったりもする。
もっとも、「どこで終わりにするのかが難しい」と感じるのは、最初にできあがりをきちんとイメージできていないからだ。
なんとなく器みたいな形にする、としか考えていない初心者だから、まぁ仕方がないのだけれど。
質量ともにこなしていって、最初に明確に出来上がりのイメージを描いておけるようになれば、きっと自分なりの「よし、出来た」があるはずだ。
このあとの工程の「焼き」はやっていただけるようなので、今秋の紅葉の時期にまた訪れた際に出来上がった器を受け取りにくることに。
その時の再度リベンジも早くも決定(笑)。
今日の収穫は、器にしては妙に厚みがあって、しかもその厚みがどうも均等ではないことが、自分の指の感触でわかるという実感があったこと。
そして何より、こんなに楽しい作業をなぜ今まで自分の人生で一度も経験してこなかったのだろうと思えたこと。
指先に集中する感覚。自分の加減一つで土の塊が少しずつ形を変えていく実感。
典型的な、「難しいから楽しい」タイプの作業のようにも思えた。
森町体験の里・アクティ森(http://actymori.jp/)は、小さなお子様連れのご家族できっと最高に楽しめるところだ。
そして、中年男が一人で来ても、最高に楽しめるところだった。