美音子「根ざさず、まなざす」(滞在まとめ)
1.はじめに
このマイクロ・アート・ワーケーションのことは、事業がスタートした去年から知っていた。応募もしたが、通らなかった。旅人たちのnoteを読み漁り、次こそはと思っていた。念願叶い、今年は旅人に選出された。そして御殿場市の「富士山文化ハウス」とマッチングし、「マンテンゲストハウス」を拠点に「旅」をすることになった。
御殿場を選んだ理由は、車でなくても旅ができること、田舎過ぎずほどよく人がいること、という条件で絞った結果だ。田舎過ぎない、というのは、私の実家が山奥の温泉地帯であることもあり、その良さや課題というものがいやというほど見えていたということと、自然よりも人のつくったものをみたい、と考えているということにある。自然に勝つことなどできはしないが、それでもなにかを生み出し続ける人間のことがわたしは好きだからだ。
今回の旅に期待したことは、「人との出会い」である。静岡市にいては出会えない人、出会えない何かとの出会いから、自身の創作の種を見つけられればという思いがあった。
滞在中のnoteの記録は、「記録であること」を最も重視し、なるべく事実の記載に努めた。そうすることで、後で振り返った時に、その記載から自身の感情や感覚が思い出されるのを期待してのことである。
2.ホストの概要
御殿場市は、静岡県東部に位置する人口9万人弱の小都市である。富士山および箱根方面への観光拠点であり、標高が高いことから冷涼な気候で、県内では珍しく冬には降雪もみられる。陸上自衛隊の3つの駐屯地、在日米軍海兵隊のキャンプがあり、富士総合火力演習が行われる東富士演習場を擁している。このことから人口分布は20・30代の男性が多い。また避暑地としても知られており、三井住友VISA太平洋マスターズが開催されるなどゴルフ場が点在するほか、日本最大級のアウトレットモールである御殿場プレミアムアウトレットがある。富士山御殿場口は富士登山駅伝にも利用されている。
ホストの「富士山文化ハウス」は、特定の拠点を持たず、後述する「マンテンゲストハウス」の勝呂さん、ローカルWEBマガジン「On Ridgeline」の森岡さん、もうすぐ(11/24)オープン予定の「Gotemba apartment store」の森谷さん夫妻が中心となり、写真家の鈴木竜一朗さん、デザイナーのMAYAさん、今回はお会いできなかったけどアーティストのちばえんさんが活動をサポートしている団体である。このMAWのために立ち上げられた新しい団体で、今後もマンテンゲストハウスを拠点に活動を続けていくらしい。団体名の「ありそうでなかった大仰な名前にしよう」というアイデアが非常によい。
そしてマンテンゲストハウスは、御殿場駅富士山口から徒歩5分の立地にある、もともと「マウント劇場」という映画館だった場所をセルフリノベーションしてつくられたゲストハウスである。2020年にオープンしたばかりで、現在もリノベーションが続いている。駅前というと栄えているイメージがあるが、御殿場駅周辺はほとんどが居酒屋などで、日中はほとんどがシャッターを下ろして閑散としている。逆に、夜になるとゲストハウスの外がとてもにぎやかになる。
3.滞在中のできごとと考えたこと
滞在中の出来事としては、まちとの出会い、場との出会い、人との出会いが挙げられる。まず、今回の旅では、一般的な観光名所から地域の人々が日々通うスーパーまで、様々な場所を巡った。御殿場というとプレミアムアウトレットばかりが想像されていたが、吉田五十八設計の旧岸邸や、秩父宮記念公園といった歴史的観光地があり、「四相権現」が祀られる神社も数多く存在している。また、飲食店やカフェもまちじゅうに点在し、それぞれに小さなコミュニティが存在しているようだ。
この小さなコミュニティを守る「場」について、マンテンゲストハウスも「Gotemba apartment store」もそうだが、花屋「Frolic」の存在も非常に大きく、御殿場の可能性を感じた。「場」がもつ力は、その後ろにいる「人びと」の力である。かずさんのお宅にお邪魔した時も感じたが、「場」は、ただそこに場所があればいいというわけではない。どんな場を目指すかというコンセプトがあり、そのために努力する必要がある。どの場もそれらを非常に大切にしていて、御殿場という土地になにか変革や新しいものをもたらそうとしていた。骨の折れる試みであり、その勇気と心意気に感銘を受けた。
そして、マンテンゲストハウスと富士山文化ハウスの人々との出会いはまちとの出会いにおける非常に大きなトリガーになった。勝呂さん、森岡さん、MAYAさんが寄れば、御殿場の文殊の知恵になるのではないか。そして事実、そこに森谷さんや竜一朗さん、ちばえんさんが加わり「富士山文化ハウス」は生まれ、「おもしろいこと」を作り出そうとしている。「Gotemba apartment store」のオープンは我々の滞在には間に合わなかったけれど、そのおかげか、滞在中に「アークラ大サーカス」が開催されたこともあってか、マンテンゲストハウスは毎日が文化祭前夜のような高揚感で包まれていた。何かが生まれる気配が常に漂っていた。2日目(櫻井さん、安里さんにとっては1日目)のウェルカムパーティーと、6日目のフェアウェルパーティーに来てくれた皆さんや、旅の途中で出会い、話をした皆さんとの時間はとても大切なものになった。そして他の旅人が同時期に滞在したこと、また去年の旅人が代わる代わるマンテンゲストハウスを訪れてくれたことも大きな力になった。毎晩noteの更新に四苦八苦しながら、ゲストハウスで顔を合わせれば情報を交換し、さんちゃんを愛で、三々五々旅に出た。
こうして、今回の旅における一番の収穫は、御殿場という土地に「根ざさない」人々との出会いだった。「根ざさない」というのは、「その土地で生きていく」ということを放棄しているわけではない。それは「常にその土地をまなざしながら生きる」ということだった。マンテンゲストハウスの勝呂さん、森岡さん、MAYAさん、竜さん、ジュンペイさん、リュウスケさん。花屋「Frolic」のエリカさん。みな私たちと同じように「旅人」であると思われた。御殿場という拠点を軸に、様々な場所で、様々な人と、様々な考え方を旅しながら生きている。旅の途中から、わたしは「標準的御殿場人の一生」についての関心が高まり、いろいろな人にリサーチを試みたが、皆それぞれ考え方が異なっていた。それは、御殿場に生きるそれぞれの人にそれぞれの背景があり、誰しもが御殿場という土地について、すこしずつ異なったイメージをもっているということの表れだった。同じ方向を向かず、それでもゆるやかに連帯しながら生きている。そういう人々が、今回の私たちのホストであってくれた。ホスト側がゆるやかな時間のなかに我々を置いてくれたおかげで、実に自由にそれぞれの興味関心に従って旅ができた。これが直接新たな創作に繋がるというよりは、お互いの創作の種を探すような旅になった。それは本当にありがたいことだった。
今回訪れた場所:エピ、渡辺ハム工房、東山旧岸信介邸、とまり木、厳島神社、東山湖、SOCKET ROAST WORKS、clique、JAふじ伊豆ファーマーズ御殿場、オギノ、ほらあな、ニ岡神社、秩父宮記念公園(うぐいす亭)、仏舎利塔(絶景富士見台)、新天地、ごてんば焙煎館、新橋浅間神社、けやきかん、若宮八幡宮、白龍神社、ジャンジャン軒、風月、にく友、Frolic、木の花の湯、駒門風穴、萩原神社、RAY-HO CHA(訪問順)
4.おわりに
今回の旅を終えてから、ずっと御殿場のことを考えている。Gotemba apartment storeの準備は無事に終わっただろうか。ずいぶん寒くなっただろう、みんな風邪をひいたりしていないか。さんちゃんは元気にしているか。そして、わたしに何ができるか。御殿場のために、関わってくれた人々のために、何ができるか。わたしにできるのは、書くことだけだ。だから書く。すべてを記録にしるし、こうしてレポートを書く。御殿場に愛をこめ、精いっぱい書く。みんなに届くように。御殿場を知る、知らないにかかわらず、様々な人々に届くように。御殿場はすばらしい場をたくさんもつ、すばらしい人々をたくさん抱える、すばらしい土地だったと、何度も何度も伝えていく。そしてまた、御殿場に行きたい。またたくさんの人々と出会い、再会したい。たくさんのことを話したい。いつか芽吹く種を蒔いて、蒔かれて、そうしてまたすばらしい時間を過ごしたい。
御殿場のみなさん、本当にありがとうございました。