三浦雨林「お正月へ」(6日目)
10:00 朝市
12月25日、クリスマスの朝。海の見える部屋で目覚める。枕元にサンタが来た形跡は無かった。
朝ごはんを食べて、温泉に入って、朝市に行く。
宿の玄関で桜が咲いていた。正月桜という種類らしい。梅の色に似ていた。
朝焼けの山。河津は一方が海、三方が山に囲まれていて、どの時間帯でもどこかしらが太陽に照らされている。そしてそれぞれの山がかなり近いので、概念的なひとつの隆起した地面という意味での"山"ではなく、木々が生い茂り鳥や生き物が住んでいるという、身近な場所として"山"が認識される。
海岸。穴のあいた岩が多く見られた。
河津町内にある須佐乃男神社。本殿を囲む塀から狛犬が覗いていた。もう一体も反対側で同じようにのぞいていた。近づくまで狛犬の存在に気がつかず、なおかつ鳥居の近くに大きい狛犬たちがいたので結構びっくりした。どうして覗くような配置になったのだろう。かわいい。
町のいろんなところに門松が立っていた。クリスマスは24日で終わって、25日からお正月のようだ。初めて見たが、どこの門松にもだいたいみかんが結ばれていた。
10:00 伊豆稲取駅へ
5日ぶりの電車だった。東京ではほぼ毎日電車に乗るので、なんだか不思議な感覚。やってきた車両が特別仕様?のもので、座面に金目鯛がたくさんいた。海を望めるように、海側の座席は外向きに横並びになっていた。内陸育ちなので海を見ると未だにテンションが上がってしまうのだが、海育ちの人も同じだろうか。
紅白餅がいろんなお店で売っていた。伊豆のあたりではお正月のお餅は紅白なんですよ、とお店の方が教えてくれた。市販の切り餅とは違い、つきたてなのでまだちょっと柔らかい。美味しそうだったので紅白どちらも入っている切り餅を買った。日持ちするとのことだったので、お正月に食べることにする。楽しみ。
結局たくさん買ってしまった。黄色いのはみかんジュース(観光客すぎる)。どうやって東京持って帰ろう…と思いつつも長い松の木も買った。上京して一人暮らしを初めてから正月飾りなんて鏡餅の設置くらいしかしていなかったが、今年は玄関飾りをしてみようと思う。
途中で寄ったつるし雛のお店に河津観光協会で見た虎のお人形があったので思わず購入。飾り用の土台もつけてくれた。初めてちりめんのぬいぐるみを買った。めちゃかわいい。
13:00 済廣禅寺
かやの寺と書かれた大きめのお寺があったので、吸い込まれるように近づくとなんだか不思議なところだった。本堂に近づくと、いきなり左手に異国情緒溢れる仏塔が現れた。
「ここ北林さんが来ていたところだ!」とようやくそこで気が付く。確かにディープは突然やってきた。鐘を鳴らすと、聞き馴染みのない音だった。
本堂には地獄絵図が説明と共に飾られていた。お寺の方がいたので、わからないことを質問すると、快く答えてくれた。地獄絵図の最後の方、極楽浄土に行く前の絵で、泣いている女性たちがいた。なぜ泣いているのかと聞くと、供養を忘れられているからなのだそうだ。そして、次の絵図に描かれている極楽浄土の入り口で鬼に追い返されている人を指し、「これは誰にも供養されていない人(あるいは未だに恨まれている人、死んでよかったと思われている人)で、そういう人は再び地獄の四十九日からやり直しをするんです」とのこと。生きている人達に供養されないと再び地獄に戻ることになる、という教えは初めて知った。感謝される人間になりなさいよ、恨まれるようなことをするんじゃないよ、という教えだと思うが、あまりに恐ろしい。仏教が渡来した時、みんなびびり散らしたんじゃなかろうか。これは良い行いをしようと思うよなあとか、お墓参りちゃんと行かないといけないなあ、とか自分のことも考えた。
絵図の14枚目の説明に書かれた「どうすれば往生できるか!!」。非常にいい書き出し。死後、極楽浄土に行くためにはどのような行いをすればいいのかを説く文章として、今まで読んできたどんな説明よりも勢いのいい書き出し。めちゃくちゃいい。健康グッズのうたい文句のようなテンション。
「おむかえが来た時、楽らくと大往生!!」またもや勢いのある名文。何度読んでもおもしろい。健康グッズ(再び)のうたい文句のように書かれいて、死ぬことへのネガティブさが全く無い。死んで終わりではなく、その次があるということが大前提になっているからこそのあっけらかんとした書き方。「おむかえが来た時、楽らくと大往生!!」いや本当に何度読んでも最高。このお寺の説明文には全体的に勢いがある。地獄絵図の解説やこの文はどなたが書いたのだろう。次行くことがあれば聞いてみよう。
奥に行くと、真っ暗な道を歩いて厄を落とす「不動消災の道」というのがあった。「右手を壁につけて歩いて行ってください。離さないでくださいね。」と説明を受け、中に入る。本当に暗くて何も見えない。演劇をやっていると、光のない暗転した空間にはきっと普通よりも多くいるので、割と平気かなと思っていたが、全然平気じゃなかった。一寸先は闇どころか、自分の体すらも見えない。それに、演劇だと完全暗転中は動かないという安全上のルールがある(上演に関する演出等でない限り)。自分の体すら見えないのに前へ歩いていかなければならないというのは、かなり勇気がいる。歩いていくと途中に火の灯った不動明王がいた。完全にセーブポイントだった。しかし、見えることから得る情報量の多さよ。見えることに惑わされてはいけないのだ、見えることとわかることは違うのだ、と思わされる。そして再び出口に向かって進む。最初に闇の中を歩き出すよりも、一度光を知ってから歩き出す方がよっぽど恐ろしかった。
真っ暗道を終えると、占い摩尼車を案内してくれた。真ん中が占い摩尼車。自分の干支を正面にして右にぐるっと回し、止まった時に自分の干支がどこにあるのかで運勢がわかるというものだった。戌年を正面にして勢いよく回す。止まった先は正面の真裏。唯一の凶だった。出た運勢によって左右どちらかの摩尼車を回すのだが、凶はどちらも回せと書いてある。ヒーと思いながら両方ぐるぐるさせた。
そもそも、摩尼車とは回転させた分だけ書かれたお経を唱えたことになるもの。「それでいいの?!」と思ってしまう効率重視の便利グッズ的に思えるが(実際そうなのかもしれないけれど)、読めない人や馴染みの無い人でも誰でもお経を唱えられるようにという、広く開かれた考え方がとても好きだ。全然違うお寺だけれど、検索していたらPC上のマウスで摩尼車が出来るものを見つけた。すごいな。
宝物館にはビルマの国宝がなんでもなく展示されていてびっくりした。
15:00 峰温泉大噴湯
河津に戻ってきて、長い松を持ちながらもなんとか自転車に乗る。荷物が重すぎてもうこれ以上どこにも寄れないので、帰り道にある峰温泉大噴湯にだけ寄ることに。
噴泉がすごかったのはもちろんなのだが、個人的にはあったかベンチが最高だった。石の椅子の中を温泉が流れているようで、座面があったかい。なんと源泉かけ流しのようだ。おしりがあったまると一気に体があったまる。北海道の実家の車も座面が暖かくなるシートだったのを思い出した。極寒でもおしりが温まると体の冷えがかなり軽減される。不思議。
左手に見える石の椅子があったかベンチ。
フントー君の説明には「フントー君は奮闘する皆さまの味方です」と書かれていた。いい。
18:00 温泉〜晩御飯
最後の温泉。仲良くなった受付の方と少しお話しして帰宅。
最後の河津夜ご飯は朝市場で買った海老芋を調理。からあげと煮物にしたが、お腹すきすぎて今日も写真撮り忘れた。
明日はいよいよ帰京日。