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藤原佳奈「イワナガヒメの一日(6日目)」
6日目。
明日の午前には経つので、実質最終日。
今日は朝から、雲見浅間神社へ行こう、と決めていた。
烏帽子山の山頂に、磐長姫命が祀られている場所。
昨日取材した『マツタキ今昔物語』の高野さんから、
磐長姫命に詳しい霊媒師のお婆さんに取材をした、と聞いたので、
そのお婆さんが住んでいらっしゃるという家を尋ねた。
今日のどこかでお話をお伺いできないか、おそらく娘さんらしき方に相談すると、今からでもどうぞ、と、すんなり通してくださり、逆に恐縮してしまった。
通していただいた部屋に、90歳は越えているそのお婆さんと二人きり。
「お休みのところすみません、藤原と申します」の言葉を言い切る前に、ベッドから起き抜けの様子のお婆さん(以下、Kさんとする)は、まず、わたしの両手を取り、目をつむり、左胸の上の筋をスッと触った。
「ここ、ずっと悪かったでしょ」
左胸の筋肉のつっぱりは、昔から気になっていたので、ぎょっとした。
「でも、大丈夫、そんなたいしたことじゃない」
見つめるように微笑んで、Kさんは言った。
それから、浅間神社の話、信仰の話、人の悪いところに手がすっと伸びてしまう話(それは、神様による)等色々お伺いした。
Kさんは、「大丈夫、がんばらっしゃい」という言葉を、何度も何度も繰り返し言ってくれた。
Kさんと会った後、なんだかむずむずもぞもぞした心持ちで、雲見浅間神社へ向かった。
何百もの急な階段を昇り、最後は「これ登山かな」というような細い斜面を登りきり、息を切らせながら、頂上へ着いた。
同じ旅人の持塚さんが、「覚悟したほうがいいよ」と言っていた意味が分かった。
山頂からの展望は、それはもう、見事だった。
こんなに伊豆半島からの眺めを見渡せる場所があったなんて。
富士の姿も見えた。
ぼんやりしていたら、山頂に辿りついた女性に声をかけられた。松本から来たと伝えると、興奮気味で「松本の知り合いがアイスリーム屋をやっているんだ」と教えてくれた。長野在住です、と言うと、色んな方が長野の話をしてくれるのだけど、みんな、移住1年の私なんかよりよっぽど詳しい。その方は、静岡から夫婦でやってきたそう。夫と喧嘩して一人で登ってきたらしい。
その次にやってきたのは、地元の飲食店のTシャツを着たお兄さん。
「いや~ひっさしぶりに登りましたけど、いいっすねー」と言って、一枚写真を撮って颯爽と山を下っていった。
人が山に登る理由は、様々である。
お昼ご飯は、初日にも行った、豊梅さんへ。
初日は焼きそばを食べ、二日目の交流会で観光協会の方が用意してくださったテイクアウトのお好み焼きを食べたので、
実質3回目の豊梅さん。
一人で食べきれないお好み焼きは、3分の1は持ち帰りにした(そしてさっき食べた)。
なんとなく、豊梅のお母さんとぽつりぽつり話し始めると、
どんどんお母さんの家族の話や、戦争の話、地租改正の話、嫁いできたときの話など話題はあちこちを巡り、すっかり長居してしまった。
お店をやっている方だからか、松崎でお会いした女性は皆、溌剌と気兼ねなく話す方が多い気がする。
写真は、豊梅のお母さん、ひとみさん。
夕方は、また、いつもの漁港に来た。
結局毎日、この漁港に来ている。
ルアーで釣りをしているおじさんと、夕日に焼けた空を、交互に眺めた。
宿に戻ってから、イワナガヒメについてのフィクションを書いていた。
さっき書き終えて、このnoteを書いている。
小説とも、戯曲ともつかない言葉。
これは、最後にこのまとめレポートにもアップしようと思う。
松崎、最後の夜だ。
また、海に行こうかな。