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綿貫大介「シンカイミステリー 明日も生きて」(滞在6日目)

 またすごい奇天烈な人を見つけてしまった……。「沼津みなと新鮮館のCDがやばいです」と昨日よたくんに教えてもらったのだけど、聞いたら本当にやばい。

90年代サウンドに、伸びの良い声、チープ感、ローカルソングにあるまじき壮大さ、それらが調和している最高のご当地ミュージックなのだ。飯田徳孝さんという方がつくっているもので、実際に漁港にある沼津みなと新鮮館の館内BGMとしてもかかっている。

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ゲットしてきた。この手作り感溢れるジャケからは想像もつかない、まさかの全13曲入り。

代表曲「沼津 みなと新鮮館」のほか、「BIG BOX〜沼津ひものの歌〜」「沼津ラブストーリー」(※1)「夕陽を見つめて〜たそがれの沼津港から〜」「Love Love!沼津」……タイトルも歌詞もワードセンスがありすぎる……。さらに新曲「シンカイミステリー 明日も生きて」(※2)も収録されているスーパーファイナルベスト版だ。

世界はミステリー(※3)にあふれている。これからもミステリーハンターとしてさまざまな不思議を追っていきたい。

Youtubeに「沼津 みなと新鮮館」の最新版音源があった。これで全国の皆さんも沼津を感じてほしい。



 いいタイミングで、ちょうど滞在中に友人の写真家・良知くんが沼津で個展(※4)をしていることを知る。在廊予定のない日に行ったので会えないと思っていたけど、連絡したらわざわざ来てくれた。

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良知くんと最後に会ったのは6年前(まだ時代は平成だった)。彼が東京にいる頃だった。そのときたまたま彼が撮ってくれた写真がコレだ。

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なんで金曜日?と思った人。ノンノンノン。このTシャツ、バックプリントがFRYDAYなのだが、フロント部分にはビートたけしのイラストがプリントされている。そう、ビートたけしのフライデー襲撃事件(※5)をモチーフにしたものだ。

僕らが会ったこの日は12月9日。実はこの日の30年前がちょうどフライデー襲撃事件当日だったということをあとで知り、運命的めぐり合わせだったのでよく覚えている(12月にTシャツ1枚でいるの、さすがに風の子すぎんか?)。

ギャラリーの屋上、つまり静岡の空の下でちょっとおしゃべりする。「どこで生きるか」という話をしたと思う。重い空気は強風がすべて吹き飛ばしてくれたので、声も気持ちも軽い。これが東京の小さな部屋の蛍光灯の下だったら、きっと違った言葉選びとムードになっていたかもしれない。明るい気持ちで、前向きな言葉で話せてよかった。



 これはみんなにも知っておいてほしいことなのだけど、「さわやか」は秋の季語です。だから、「さわやかな5月」なんていう言葉は、本来おかしい。春は「さわやか」ではなく「うららか」だから。初夏なら「すがすがしい」。その季節にはその季節にぴったりの言葉がある。敏感でありたい。

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静岡の人にとっての「さわやか」はハンバーグレストランだ。滞在中は2店舗に行くことができた。店舗によってそのエリアの特徴をステンドグラスにして設置してあるようだった。

全国のどこのどんなチェーン店であろうと、ロードサイドのファミレス(※6)は最高だ。各テーブルがそれぞれに小さな幸せをつくっている。この2年の営業自粛で一番ショックだったのは、深夜のファミレスという貴重で無駄でエモな空間と時間と失ったことかもしれない。

僕たちはもうあの終電後にだけ存在していた夢見がちな世界に戻れない。居酒屋ではどうしてもだめな夜はあって、夜明けの待ち方にはその人の切実さがどうしようもなく表現されてしまう。

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ー私的注釈ー

※1(沼津ラブストーリー)……あたりまえだけど、ラブストーリーはなにも「東京」だけで起きるものではない。
※2(シンカイミステリー 明日も生きて)……飯田さんいわく”全国的に大変な思いを強いられている方々のために、何とかこの大変な時期を乗り切ってほしいと強い思いを抱きつつ、その想いを「深海の海」に例えて作りました”とのこと。深海のような懐の深さだ。生きるとはつくりだすこと。大変な時だからこそ生まれるもの、というものもこの世にたくさんある。飯田徳孝さんは『あらびき団』にも出ている。
※3(ミステリー)……Kinki Kidsのデビューシングル「硝子の少年」との同時発売のデビューアルバム「A album」には、デビュー前の持ち歌がたくさん収録されている。そのうちのひとつが「Kissからはじまるミステリー」。堂本剛主演の『金田一少年の事件簿 第2シーズン』の主題歌だ。この曲、何がすごいって、【作詞:松本隆 作曲・編曲:山下達郎】(「硝子の少年」もこのコンビ)。タイトルも秀逸なのだけど、特に好きな歌詞が「時間は若さの味方だよ」というフレーズ。本当にそうだと思う。時代はいつも若者のものだし、若者の考え方がどんなときだって正しいと思いたい。その時代に当然と考えられていた物の見方や考え方が劇的に変化するパラダイムシフトを起こすのはいつだって、若い人たちの新しく柔軟な考え方だ。国会には高齢の議員が目立つ。若い世代が少なく(女性やマイノリティな議員もとても少ない)、国民全体の年代構成にまったく合っていない。それってどう考えてもおかしいと思う。
※4(良知くんが沼津で個展)……RACHI SHINYA / 良知慎也 PHOTOGRAPH EXHIBTION”DICHOTOMICD" at SPACE戯曲 (5-4-6 O-TEMACHI NUMAZUCITY)2021.11.27(SAT)-12.19(SUN)OPEN10:00-18:00
※5(フライデー襲撃事件)……1986年12月9日、ビートたけし(北野武)をはじめ、たけし軍団ら12人が講談社の写真週刊誌『フライデー』の編集部を襲撃した事件。なにがよいって、復帰会見のたけしの潔さ、毅然さ。リアルタイムでは知らない事件だったけど、のちにこの復帰会見の動画をみて感動した。事件の発端など、気になった人はぜひ調べてみてほしい。この会見で着ていたたけしニット(ビートたけしがよく当時着ていたガラガラのニットで、フィッチェというドン小西のブランド)がまたよい。菅田将暉が近年マネをしてよく着ていた。
※6(ファミレス)……ファミレスで商品開発するとき、どんな料理でも注文が入ってから15分以内に提供できないと商品化することは出来ない、というのが不文律になっている。その料理がどれほどおいしくても、提供時間がかかりすぎる商品は導入しない。それに商品提供には「同時同卓」というルールがある。同じテーブルの注文はなるべく同時に提供すること、というのがそのルールの意味するところで、シアワセな食卓はみんなが一緒に食事を始められないといけないというこだわりがある。ファミレスはみんなの幸せを大切にしている最高な空間。だからこそファミレスのテーブルを囲む仲間は、もはや運命共同体なのだ。

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