露木春那・熱海(2日目)
「一般社団法人ミーツ・バイ・アーツ」代表の戸井田さんが熱海のまちを歩きながら、熱海の今昔を語ってくださった。海を望む広場では、埋め立てや人工ビーチ造成、マリーナの整備の経緯について伺った。現在海岸にはヨットやボートが停泊するマリーナがあるが、もともと静岡県が提示した整備計画にはマリーナは含まれていなかった。(写真を参照)
がしかし当時、マリーナの必要性を感じていた市民たちが行政に掛け合い試験運用を経て、最終的にマリーナが整備されることになった。今ではすっかり海岸を彩る、”熱海らしい風景”の一つになっている。
海岸から市街地の向かう途中、川沿いのあたみ桜とそこに集まるメジロたちが私を気分をとても明るくした。一本の川に着目するだけでも、そこには江戸時代から同じ名前で呼ばれ続けている「御成橋」やバブル時代に作られた公共彫刻的な橋があったりと大変興味深い。戸井田さんは熱海の地域史の編纂に携わった経験があるので、古い文献や新聞記事で読んだこと、それから住民にインタビューをして聞いたことなどを交えて熱海の歴史を紹介してくださった。
戸井田さんと熱海のまちを歩いていると、商店街の干物屋さん、お惣菜屋さん、カフェのマスター、まちの歯医者さん…たくさんの人が戸井田さんと挨拶を交わす。戸井田さん曰く、熱海は地域の人々の結束が強く、幼少期や学生時代の人間関係が大人になってからも引き継がれていることがあるという。
新型コロナウイルス流行以来、都市部から他地域への移住が注目されるよになった。移住を考える際には交通の利便性や家賃の安さばかりに目が行きがちだが、その土地が守り続けているものを理解し、その地域に馴染む努力をする覚悟も必要なのだとつくづく思った。
ここで熱海銀座にあるCafe bar QUARTOでふと手に取ったパンフレットに書かれていた文章を紹介したいと思う。穏やかな雰囲気の表紙に目を奪われて、それから中身を読んでみると、そこには悩める現代人に寄り添うやさしいメッセージで溢れていた。
*熱海でひと呼吸、入れよう。*「熱海の魅力を伝える」以上に大切なことがある。今の働き方や暮らし方に大きな不満はないけれどなんだかもやもやしている。ここではない場所を求めているのに正解がわからないーー。*情報が流れるスピードや変が激しい今、私たちの日常は目まぐるしく過ぎていき、「ほっ」とひと息つける時間が少なくなっています。そんな時こそ一度立ち止まり、ひと呼吸入れてみてください。熱海は都内から新幹線で50分。豊かな自然があり、温泉があり、気軽にひと息つくにはぴったりの場所です。*熱海にはいいところがたくさんあります。ですが足りないところもあります。*本当に大事なのは、「熱海に移住してほしい」と街の良さを並び立てる」ことではなく、移住を検討している方々が「なぜ移住したいのか」と向き合い、自分や家族にとってより良い街や移住を選択できることです。*温泉に入って一息つくように、一度立ち止まり考える時間を作ってください。*この冊子をきっかけに価値観が広がったり、自分や家族と向き合えたり、暮らし方や働き方を見つめ直す入り口になれたら、とても嬉しいです。*
静岡県熱海市. 『移住よりそいBOOK by 熱海』.2021年12月発行
このメッセージはマイクロ・アート・ワーケーションで熱海を訪れた私の心にもよく響いた。温泉地としての熱海、観光地としての熱海、生活の場としての熱海、そしてアートの場としての熱海・・・あらゆる切り口から熱海を散策したい。
今日気になったキーワード:伊豆山土砂災害、熱海の大火、摩訶不思議な建築、リノベーション、熱海の水道料金、ゆしまジャズ喫茶、アートで町おこおこしの光と影、トビーの墓石