千葉尋 「空を飛ぶために必要なこと」 (まとめ)
私は毎日、家にある倉庫の屋根の棟部分を散歩することを習慣にしています。
山型の屋根の頂点になった、20cm幅の平均台ともいえる部分を行ったり来たりするのです。
きっかけは、海外ボランティアでサモア独立国に派遣されていた時のことです。
崖の上から潮だまりに飛び込むという、度胸試しのような遊びがあり、友人たちとそれに挑戦したことがありました。
高いところに立つという恐怖は不思議なもので、足が震えてどうしても前に踏み出せなくなります。明らかに、私の意志とは関係のないところで行動が制限されている。
それでも、飛び込める人間は確かにいました。何をしたら彼らと同様に飛び込めるようになるのか。
結論は、よくある25Mプールに飛び込むのとまったく同じように、助走して飛ぶのを想像して、イメージを模倣することです。実際に、動作はそれと全く同じです。落ちるのは動きが終わった後のことなので、成り行きに身を任せるだけでいい。
それを徹底してイメージすることで抵抗なく飛べるようになりました。行動と予測を切り離すことが、少しできるようになったのです。
たびたび、意思と関係のないところでそういう誘導がなされていて、気が付いたら進む方向を決めています。
落ちそうな場所からは、後ずさりたい。
そしてそれは、私がやりたいことだとか、惹かれることでも同様です。
やりたいこともやりたくないことも、私の行動が誘導されるという意味では、同じくらいの強制力を感じます。
特に誘導されたくない訳では無いのですが、誘導のあった時にはそう自覚していたいし、ついでに抗えるのか試してみたいのです。
彫刻が好きだから離れる。苦手だから写真をやる。面識のない人の助けになろうと考えたことがないから、海外ボランティアに参加する。そして高いところが怖いからこそ飛び込む。
そういうことを、たびたび意識的に繰り返すようになりました。
矛盾にまみれていますが、結果として、学びが多く、偏見がなくなるようだとわかってきました。
ただやってみることが、私の無意識を変革していくようです。
今回は、地域交流と紹介、写真撮影をベースに現地での縁を優先し、後は行ってみて、成り行きに任せようと考えていました。
企画に参加したこと自体、無意識の変革に期待したからです。
■出発前に決めてあったこと
・地域案内、地域交流の日程
・宿
(三島、沼津、富士宮)
・撮影場所
(富士宮、田貫湖)
・ホストにお勧めしていただいた場所を訪ねる
(白糸の滝、白滝公園、鮎壺の滝、陣馬の滝、屏風岩)
・事前に作成した遺影アンケート実施
空き家について考えたことはほとんどありませんが、意外と家業の経営に繋がり、学べることが多々ありました。また、作家としての地方拠点を作るという発想も芽生えるきっかけになりました。
今回たまたま同時期に滞在していた大川原さんと澤さんが、不動産に造詣が深かったこともあり、アートとの繋がりが密接だということも発見の一つです。
余った時間はほとんど名所巡りに利用しました。一人で観光名所を巡ることには心情的にあまり惹かれませんが、あえて巡れば、ゆっくりと風景を観察して写真を撮ることができます。人といると話に集中してしまうので、これはこれで貴重です。
想定したよりも多くの写真を撮影することができたので、のちの制作が楽しみです。
無計画なりに、写真撮影を目的の一つに添えていたので、地域を歩いて開拓することよりも、車で局所的に動き回る形になりました。企画の趣旨とはずれているかもしれませんが、普段からこういう撮影旅行をしているので、多様な「アーティスト目線」の一つとして楽しんでいただければ幸いです。
さいごに。
屋根の上を歩くのは、そもそも恐怖を観察したかったからなのですが、最近は感じなくなってしまいました。
三島のロングジップスライドにも密かに期待したのですが、もはや高いところから落ちるのに関して、恐怖を感じる方が難しいようです。
スカイダイビングでも感じなかったので、無理からぬことかもしれません。
どうやら空を飛ぶ準備は万端です。