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山本晶大「蒲原散策(6日目)」

強かった風も今日は止んで、富士山がくっきりと見える良い天気。

午前中は昨日旧五十嵐邸でお話を伺った蒲原宿まちなみの会の会長の吉田さんのお宅を拝見させていただいた。

吉田さんが住まわれている町家はもともとお菓子屋で、今は見世の間の壁際に置かれている商品棚を上がり框(かまち)のところに並べて和菓子や飴、ジュースなどを売っていたそうだ。裏にはお菓子を作る工場もあったそうだが、吉田さんが嫁いできたときには事業が縮小されていて、飴やジュースだけが製造販売されていたとのこと。

6日目吉田宅見世の間

中の間には半畳分の小さな空間に作られた厨子二階(ずしにかい)に上がるためのユニークな階段が置かれている。段差は高く踏板も狭いので、踏み外して転び落ちそうで怖い。ちなみに、厨子二階というのは町家によく見られる特徴の一つで、天井の低い屋根裏部屋のような二階部分のことを言う。町民が街道を歩く武士を見下ろすことは無礼にあたるので、武士を見下ろすことができないように街道側には窓などを作らず、一階建てに見える作りにして、街道に面さない裏側に窓などを作っていることが多い。天井はあまり高くないので、物置や使用人の部屋として使われることも多かった。

6日目吉田宅半畳階段

吉田さんからまた蒲原のまちなみ保存のことについてお話を伺うが、やはり建て直される家が年々増えているとのこと。家をちょっと補修したいだけなのに、大工さんや工務店に相談すると「建て直した方が早いですよ」と言われるため、言われるがまま建て直してしまう人が後を絶たない。実際、古民家を改修するよりも新築を”組み立てる”方が楽で早く、利益も出しやすいので、手間がかかる割りに収益の上がらない古民家の改修をやりたがらない業者は多い。しかも最近は建築業界の効率化や分業化が進みすぎたせいで、特定の仕事なら手早くできるが、それ以外はできないという職人も多く、古民家の改修に必要な技術・知識・経験を併せ持った職人も不足してきている。それを防ぐためには依頼の際に職人や工務店に的確な指示を出す必要があるが、普通の人が業者相手に的確な指示を出すことなど当然できないので、街並みを残していくためには改修前に相談にのったり、業者との間に立って指示出しを代行したりしてくれるアドバイザーが必要になる。

まちなみの会も以前は建物の補修や改修に関する相談会を行ったり、町家を残してくれている家に「あなたの家のおかげで蒲原のまちなみが保たれています」という旨をしたためた感謝状を作って送ったりなどの活動もしていたが、段々と会員も減っていってしまったため、以前のようには活動できていないらしい。

また、古民家の維持はとてもお金や手がかかる上、段差なども多くて高齢者が住むにはつらいと感じることもあると吉田さんは言われた。近隣の家も高齢者が一人もしくは二人で住んでいる家が多く、いつまで住んでいられるか分からない。

ちなみに、吉田さんのお宅は登録有形文化財に指定されているが、そのことによって家の維持や改修に対して国や自治体から十分な補助金がもらえるのかといえば、必ずしもそうではない。

登録有形文化財に登録されたものは、条件を満たす内容であれば保存修理にかかる費用の半分を補助してもらえたり、固定資産税や相続税の優遇措置があったりなどのメリットがあるとされているが、実際には補助金が使えなかったので自腹で直したという声もよく聞く。それには色々理由があり、まず一つ挙げられるのが登録有形文化財とは建物そのものを保護するものではなく、主に建物の外観などに適用されるものだという点。しかも増築などがされている場合、家の表半分は登録有形文化財に指定されたが、裏の増築部分は指定されていないということもある。したがって、内装や登録されていない部分に関する工事費に対しては補助金の適用範囲外になる。また、修理保存を行う場合も外観を大きく変えるような工事は認められず、建築士などにどのような修理保存を行うかを示す設計管理図面を描いてもらい、それをもとに半年〜一年ほどかけて審議を行なって許可が下りて初めて補助が決まり、補助が決まってからも設計管理通りに工事が行われているかをチェックをしてもらわなければならない。そのような煩雑な手間が必要になる上に、補助金が出たとしても建築士や技術者に設計管理を頼む分だけ工事費が通常より高くなる。したがって、補助金を活用したからといって安く補修ができるとは限らないし、雨漏りなどの急を要する補修は審査の結果を待っていられないので、結局自腹で補修してしまう所有者も多い。また、申請しても審議の末に却下された場合、建築士に設計管理の図面などをお願いした金額と審議までの時間や手間が全て無駄になるというリスクや、所有者には各種届出の義務もあるため、届出を怠ると罰金が科されるなどのリスクもある。

吉田さんのお宅でも、もし通りに面した伊豆石の塀が倒れて子供が下敷きになってしまったら危ないということで、塀を作り直す申請を出したがなかなかすぐに許可が下りず、困ったという。

では登録有形文化財になど登録しない方がいいのかというと、まちなみを保存するためにはないよりあった方がいいと私は思う。なにせ登録有形文化財に指定されたら、許可なく外観を変えるということができないのだから、所有者が変わっても簡単に建物を取り壊したり建て替えたりすることができなくなる。特に譲渡する予定の後継が建物の保存に理解を示しておらず、譲渡したらすぐに取り壊されてしまいそうだという懸念があるならば、有形登録文化財にしておいた方がいいだろう。所有者からしたらやはり面倒なだけかもしれないが、そうでもしないと街並みを残していけないのが今の世の中の流れだ。

建物やまちなみを保存していけたらいいとは常々思うが、実現していくには色々な難しさがある。


午後はZOOMを使ってしずみん(しずおか民家活用推進協議会)の人や蒲原の人たちと今回の滞在に関する報告会。

改めて自己紹介を行ったあと、ざっくりと滞在中に見聞きして考えたことや、私が感じた蒲原の地域の良い点と問題点、今後の活動への提案などを説明させていただいた。(その内容については、旅人日録の最後に投稿する「まとめ」に書く予定。)

そして夜は木下さん夫婦と豊永さんと共に、滞在中のことや今後どうしていくかを話しながら今回の滞在最後の晩ご飯を一緒に食べた。木下さん夫婦には色々な方を紹介していただいたり、美味しいご飯をご馳走になったりと本当によくしていただいて、とてもありがたい。

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