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北林みなみ「少しずつ作り上げていくこと」(2日目)

河津町滞在2日目。

今日は旅館周辺の滝を巡るため、早起きをした。
部屋に置いてある籐で出来た椅子の座面、ウィリアムモリスかと思ったけど、よく見たら違った。かわいい。

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チェックアウトする際、フロントにいたおじいさんと少し話をした。
色々な話をしているうちに、おじいさんは昔、河津町長をしていた方だと判明する。びっくり。

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桜井さん。
周囲に有名な観光地が多い河津町。あまりパッとしなかった河津に観光客を呼び寄せるため、河津桜の並木を作り、みかん畑しかなかった場所にフランス風のバガテル公園を作り、たくさんの花を育てた。
「河津を温泉と花の町にしよう」と、色々な施設を作り、まちづくりを行ったそうだ。

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私が泊まった七滝温泉ホテルを作ったのもこの方。
オープンから50年近く経つ。
七滝のエリアは、山間部にあり、中心街からは少し離れている。

以前はイモ畑が広がり、農民たちが暮らす集落だった。周囲に七つの滝があることは地元民には有名だったが、山の上にあり道も整備されておらず、外からの観光客をたくさん呼び込めるような環境ではなかったという。

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桜井さんがそこに温泉を掘り、ホテルを作ろうとしたところ、元々そこで暮らす農民たちも「自分たちも民宿をやりたい!」と名乗り出た。彼らにも温泉を分ける代わりに、イモ畑の土地を分けてもらい、七滝温泉ホテルを開いた。
まだ桜井さんが町長になる以前の、若い頃の話だそうだ。


昭和後期〜平成初期。景気も良く、大型バスで観光客が一挙に集まってくるような時代。話を聞いているだけで、当時の地域住民たちの活気や希望を、色々と想像できる。

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七滝では秋になるとイノシシの鍋を振舞う祭りを開催した。地域のみんなが一緒になって観光を盛り上げたそうだ。かつては数日にわたって行われた祭りも、今では人もなかなか集まらないため、縮小して行なっている。

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震災時の崩落事故をきっかけにループ橋を作り、駅のなかった漁村に線路を引き、病院を建て整備した。

町や暮らしを、突然変えることはできない。
一歩ずつ、少しずつ、色々なものを整備し、時代に則したまちづくりを行なっていくのだ。
今住みやすい河津があるのも、引退した沢山の方々のおかげなのだ、と改めて思う。それは河津だけではなく、どの土地にも言えること。
人間の歴史は、線となって繋がっている。

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色々なお話を聞いて、頭がパンクしそうになりながら滝を見に行った。
最近、山を登ったり森を歩いたりすることが増えた。

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冬の森は静か。
虫も動物も土の下や落ち葉の中で眠っているのだろうか。

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冬の森を歩くとき、私はトーベヤンソンの「ムーミン谷の冬」を思い出す。
冬、みんなが寝静まる中、ムーミンだけが目覚めてしまう。
生き物たちの気配が消えた孤独な世界で、ムーミンは様々な変わり者たちに出会う。みんなが眠っている中、実は変なやつらだけが起きていて、冬の世界を自由気ままに動き回っている。
冬の森を歩いていると、その世界のことを思い出す。

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大穴のような青黒い滝壺の側で、ちいさな植物たちは平然と生きていた。

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誰かに見つけてもらいたい、と言っているみたいだった。赤い実。

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晴れの日、透明な水は特別な色になる。


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お昼にはわさび丼を食べた。
生わさびを自分ですりおろす。
シンプルイズベスト
わさび、辛いけど甘かった。

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ホストの和田さんと合流して、旧天城トンネルへ。

このトンネルができる以前、伊豆から河津方面へ抜けるために天城山を越えることは大変困難で、伊豆半島の南側は陸の孤島と呼ばれていた、と看板に書いてあった。
トンネルが出来てからは、随分と物資も運びやすくなり便利になったそうだ。

このトンネル自体も曲がりくねった道の先の、山奥にある。
現在使われている新天城トンネルは随分と下側にあり、もう険しい道を登る必要は無くなった。

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トンネルの中を歩く。
足音が反響する。服が擦れる音。
暗闇の中、ポツリポツリと明かりが続いている。

水の音が聞こえる。
水滴の落ちる音、壁の隙間から静かに流れ落ちている流水の音。


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トンネルを通るとき、私はいつもほんの少しだけ「死」を予感している。
死を想像した時、真っ暗なトンネルを進んでいく自分が見えてくる。


旧天城トンネルはとても美しかった。
トンネルのちょうど中間地点に着いた時、左右を振り返る。
伊豆側の出口、冬の青色をしていた。
河津側の出口、秋の橙色をしていた。


トンネルを見たあと、三島神社という地図に載っていない神社へと向かった。
地元の方に教えていただいた場所だ。

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大きな通りの傍らに、古い鳥居を発見。
立派な大木に囲まれた、小さな神社だった。
この神社の裏側、表側からは見えない場所に上へと続く階段があり、もう一つの建物がある。

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まっすぐに伸びる古い階段。止まる場所も無い。
苔も生え放題で滑りやすい。息を切らしながら登った。

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目の前に突如現れる豪勢なもう一つの建物。これが本殿らしい。
飾りの造形が素晴らしかった。保存状態が極めて良いので、新しく作られたものかと思ったが、調べてみると江戸時代に建てられたものらしい。

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こんなに細かい木彫りの造形の美しい神社だが、山の上に大切に隠されていた。
社殿を取り囲んで保護するように、木でできた覆舎が組まれている。この覆い自体は明治に作られたものだそうだ。

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地元のみんなに大切にされている神社なのだ、と思う。

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側に古い祠があった。

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これ、鈴に見えるけどなんなんだろう。誰か教えて欲しい。


今日は地元のスーパーAokiでお惣菜買って、宿で食べることにした。

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明日は地元の小学生たちとワークショップします。

みんな楽しんでくれるといいな。

つづく


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