北林みなみ「ぼくたちの自由」(3日目)
河津町、滞在3日目。
今日は朝から土砂降り。
泊まっている宿は高台にあり、嵐の日のように窓がガタガタと揺れていた。
今日は朝から小学校でワークショップがあるため、雨の中でも出発しなくてはならない。
おなじみのホストの和田さんが、車で宿まで迎えに来てくださった。
小学校に到着。役場の古川さんと合流して、体育館で準備を始める。
到着から10分後くらいに、急に嵐が止み、青空が広がり始めた。
和田さんが晴れ女、古川さんが雨男らしい(本人談)
絵画教室などで小学生に絵を教えることはよくしているが、小学校の中へ入って大人数を相手に自分主体でワークショップを行うことは初めてだった。
今回のワークショップのテーマは「自由について」
河津南小学校の5年生30人と一緒に行う。
生徒たちには一発描きで、自由に絵を描いてもらう。
自由が実は不自由であること、不安であること、しかし自由を恐れず進んでいけば、そこには楽しさが待っていること。
これから生徒のみんなが大人に成長するにつれて出会っていく「自由」と対峙する時の様々な感覚を、このワークショップを通して感じとっていただけたらと思い企画した。
今回のワークショップでは、個人の責任、個人の能力を全て取っ払い、みんなで匿名になって絵を描いていく。誰かの絵の上に別の誰かが絵を重ね、また別の誰かが色を塗り、ごちゃまぜになりながらひとつの絵を作る。
それぞれの自由を少しずつ許容して、大きな世界を広げていく。
最初は緊張して、おそるおそる描いていたみんなも、どんどん気持ちが解れていき、最後にはのびのびと楽しんで絵を描いていた。
ワークショップ終了後、「もっとやりたかった!」とか「1日中描きたい!」と言ってくれる生徒さんがたくさんいて、それが嬉しかった。
楽しく絵を描く気持ちを、私もずっと覚えておこうと思った。
みんなも、今日が楽しかったことを、心の隅に覚えておいてくれたら嬉しい。
絵にルールはない。キャラクターを描いたっていい。地面がなくても、本物とは違う色や形をしていてもいい。自分が好きなものをたくさん描いて、どんどん絵を好きになって欲しい。
絵が楽しいってことを、みんなにも知って欲しい。
立派な木。枝の隙間の緑を、根気よく筆で叩いて塗っていた。
ヘラクレスオオカブトもいます。
周囲には流行ってるキャラクターたち、みんな顔に似たような模様がある!
これは『夜の花』だと言っていた。色が可愛い!星や月が周りを飛び回っている。
飼っているわんちゃん。
河津の子供達は、やはり花と言ったら桜らしい。
先生たちの顔を描いてくれた。絵が好きな女の子。
ちゃっかり私もいる!マスクをしているのが、時代を感じる。
最後にみんなの前で手をあげて感想も伝えてくれて、嬉しかった。
これは氷山を先に描いて、その下にだんだん生まれた雪の世界。
勇気を出して紙のど真ん中でどんどん描き進めていた、ムカデ!
素晴らしいです。かっこよすぎる。
クジラ!よくみたら人も泳いでいる。
みんなが絵を描く姿を見て、私も色々な気持ちが湧いてきた。
このような貴重な機会をくださった、河津南小学校の先生方、生徒のみなさん、色々準備をしてくださった河津町役場のみなさん、Working Space Vagatelleの和田さん。本当にありがとうございました。
ワークショップが終わりみんなとお別れした後、町中華を食べた。
肉チャーハン。
うまー!結局こういう素朴な味が一番美味しい。安心の味。
明日から河津の風習である鳥酒精進に参加するので、鶏肉や卵が食べられなくなる。今日チャーハンを食ベておいてよかった。
午後は1日目に回った見高エリア、今井浜の漁村周辺を散策した。
初日から気になっていた、石や看板に描いてあるドラえもんやキティちゃんなどのキャラクターたち。
魚屋のおじいさんが描いたものだということで、魚屋へ行ってみた。
外観の世界観から、すぐに「ここだ!」となった。可愛い。
息子さんが現在も魚屋を続けており、お話することができた。
おじいさんが石に絵を描き始めたのは、70歳くらいの頃から。
90歳くらいで亡くなったそうなので、20年以上描き続けていた。
描き始めたのは爺さんになってからだ、と息子さんは言っていた。
かつて今井浜は観光で有名で、魚屋周辺一帯も全て民宿で埋め尽くされていた。夏になると大人数の団体観光客が、ゾロゾロと魚屋の前を歩いていた、と言っていた。河津桜が有名になるより以前の話だそうだ。
この辺りは海水浴で人気だった。
現在は観光客が減少し、かつてあった民宿のほとんどが閉まっている。
観光客も減り始め、魚屋だけでは暇だったらしく、おじいさんはペンキで石に絵を描き始めたそうだ。
町中のあらゆる場所に石は置いてある。
石だけでなく看板もあった。
観光用の看板に見えるので「誰かに頼まれて描いたんですか?」と聞いたら、「勝手に置いただけよ〜」と一言。
みんながそれを許容して、楽しみながら見守っている世界。
なんだかいいなと思った。都会にはなかなか無い光景だと思う。
私が魚屋のおじさんと話しこんでいると、たまたま買い物に来た近所の方が「アルバムあるわよ!」とわざわざ家まで取りに行って見せてくださった。
ここではみんなが知り合い。家族みたいなご近所さんが、魚屋にはたくさん集まっていた。
おじいさんの石の絵は、この辺りではかなり有名。
おじいさんのことを、みんなが知っていた。
「好きだから続けてたんだろうねえ」
魚を買いに来た別の近所のおばあちゃんも言っていた。
現在この漁村で唯一の魚屋さん。
裏側にはご自宅があり、あちこちにおじいさんの面影が感じられる。
昔は余り物の魚を浜でカモメに撒いていた、という話は本当らしい。
トラックを見るだけでカモメが沢山集まってきて、観光の風物詩になっていたそうだ。現在は警察に怒られて止めた、と言っていた。
私が明日から素泊まりだ、という話をしたら「スーパーでご飯買って持っておいで!お刺身ならたくさんあるから!」と言ってくださった。優しすぎる。
魚屋にいた近所のおばあちゃんに連れられ、すぐ近くの琴海(キンカイ)神社を見に行った。海の真正面、鳥居が立っている。小山があり、その上には数十年に一度ご開帳するという本殿がある。2、3年前に開帳したばかりだというので、私が次に見られるのはずっと先だ。
鳥居の前には、昔警鐘として使われていた青銅の鐘が木からぶら下がっていた。昔はこの辺りに矢倉が組んであり、緊急時にこの鐘を使ったそうだ。
神社へ行く途中で、おばあちゃんがお使いで魚をお友達へ届けていた。
お友達のお家の中へ私も招かれる。
吊るし飾りを作るのが得意で、現在も作成中らしい。
春、桜祭りの時期になると部屋中につるし飾りをぶら下げ、お店を開くそうだ。
手芸が得意だそうで、色々なものを手作りしている様子だった。
本棚には少女漫画や小説が沢山並ぶ。
本当に海の目の前の家で、海の方向を向いて、本が壁を作っていた。
お土産に昨日作ったばかりだ、というお花のストラップをもらった。
可愛い。カバンにつけようと思う。
漁村にもパン屋があった。はしば菓子店
見た目は全くパン屋に見えないけど、よく見ると食パンが並んでいた。
中へ入ってみると手作りの食パンや、市販のお菓子やアイスなどが売っていた。
食べてみたいけど一斤は流石に1人にはデカイなあ〜…と思っていたら、店のお兄さんに「これ味見して!あげる!」と大きなバターパンを丸ごと渡される。
一緒にいたおばあちゃんにも「いいのよ!もらっていきな!」と言われ、勢いに押されサービスでいただいてしまう。
申し訳ない、でもその優しさが嬉しい。
今度はちゃんと買いに行きます。
海辺でつまみ食いしたらすごく美味しかった!最終日に買って、家に持って帰ろう。
その後おばあちゃんとは別れ、海岸が行き止まりになるところまで1人で歩いた。
風がすごい。
流木とか貝殻を拾った。
おじいちゃんもここで石を拾ったのかな。
一通り探索した帰り道、魚屋の前を通ってご挨拶したとき、沢山の甘いみかんと、おじいちゃんのドラえもん石をプレゼントしてくださった。
本当に嬉しい・・・大切にします。
色々なものをいただきすぎて、カバンをパンパンにしながら海辺を歩いた。
人からの優しさに生かされている。私も、誰かにとっての優しい人でいたい。
宿ではお刺身食べました。
贅沢していますが旅行中は許します。
明日は河津の駅の周辺を回ろうかと思います。
つづく