水野渚「受容する旅のはじまり」(1日目)
あーーー。初日からやってしまった。
9時に家を出るつもりが、時すでに遅し。寝坊してしまった。
言いわけはある。昨日まで東京都内で展示をしていて、疲労が溜まっていたのだ。それにしても、展示とはなんの関係もないホストの方々と、同時期に滞在するアーティストのおふたりにご迷惑をおかけし、とても申し訳なく思う。
私が住む千葉県松戸から、今回の旅の滞在先である東伊豆町稲取まで、新幹線と特急を使うと、約3時間で到着する。
しかし、きちんと起きられたら、鈍行列車でゆっくりと移動を楽しもうと思っていた。お金を払う特急列車より、時間をかけていく鈍行列車のほうが、(金銭的には安いけど)贅沢だと思う。電車の中は、思考したり、これまでの思考のかけらを整理したりするのに、うってつけの場だ。そんな時間を長く持ちたかった。
でも、今日はだめだ。待たせている人たちがいるから、特急に乗り込もう!
3時間の道中、今回の旅でなにを吸収したいのか、考えた。
正直、具体的にこれを制作したい、リサーチしたいというものは、とくにないまま、今回のマイクロアートワーケーションの企画に応募した。「旅をする」こと自体が、私にとって作品制作の大事な一部だからだ。
今回の滞在地である東伊豆町稲取地区と、ホストである合同会社so-anさん、そして彼らが運営する「暮らしを旅する宿・錆御納戸」は、とても素敵に見えた。私に引っかかったキーワードは、「海」「温泉」「古民家」だ。
まず、「海」。
この7日間、「海」のような存在として過ごしたいと思っている。海自体は、常に動いているように見えるけど、風や引力という外部の力によって動かされている、「静的な存在」。海自体は、青く見えるけど、太陽光の青色の光を反射させているだけの、「透明な存在」。海自体は、意志を持って変化しないけど、常に外から影響され、変化している、「受容的な存在」。
今回、「海」のように、透明で静かに受容する存在として、自分の力の及ばないなにかに流されたり、染まったりを繰り返して、どんなものが最終的に、「私」という存在に漂流してくるのか、実験してみたい。
あっ。そろそろ、東伊豆に到着する。
長くなるので、「温泉」「古民家」については、別の機会に説明できたらと思う。
最後に、宿に着くと、合同会社so-anの荒武さんが、キンメダイプリンを差し入れてくださった。プリンの上にのっているピンク色のキンメダイたちが、とても味がある。
そういえば、熱海駅で伊豆急行線に乗り換えると、キンメダイを全面に押し出したデザインの列車に乗ることができた。荒武さんと藤田さんによると、たまにしか走っていないらしいから、ラッキーだったんだ。
明日は寝坊しないように、おやすみなさい。