大川原脩平「もりだくさんすぎてやばい」(滞在1日目)
▼何かを間違えてしまった
マイクロ・アート・ワーケーションという枠で静岡に向かっている。「旅人募集」という呼びかけにまんまと釣られ、この2年間ぜんぜん旅行もしてないし、いったらなんかお金もらえるらしいということで応募したやつだ。しかし、いろいろな広報資料を見るにつけ、なにかを間違えてしまったような気がする。なぜならどの資料にも「滞在アーティスト」と書いてあるからだ。そう私はアーティストではない。私はしがない仮面屋。働くことに懐疑的なだけの、下町商店街のおじさんです。なんらかの自己紹介のようなあれはこちらをどうぞ。
▼マイクロ・アート・ワーケーション
ところで「マイクロ・アート・ワーケーション」とは、冠した名前からしてすでにもりだくさんだ。マイクロなアートのワークでなおかつバケーション。ワークでバケーションなのも意味がわからないが、加えてマイクロにアートときた。今回の滞在は1週間だが、はたして日本人のうちでどれだけのひとが1週間の休暇を自由に取れるというのだろう。1週間、大多数の人の感覚にとっては結構な長期休暇じゃなかろうか。国際社会からしたら短すぎるくらい短いであろう「マイクロ」バケーションだが、日々慎ましく働くわれわれにとっては素敵な秋休みも同然だ。願わくば、この「マイクロ」の感覚こそが当然のものとなりますように。
とはいえ、完全なるバケーションというわけでもないのがそれらしいといえばそれらしい。バケーションにワークをくっつける感覚はよくよく考えるまでもなく変だ。働いているという建前がなければ休むことさえ許されない倒錯した理念だが、それをしに行く。はたして私はなにをしに行くんだろうか。とりあえずニンテンドーSwitchは持ってきたので、バケーションの準備は万全だ。
▼歩くことは生きること
ワークのことを考えるのは気が滅入るだろうから、とりあえずはバケーションに振ってみる。今日は友達に会う。今回滞在する沼津地域でハンコ屋を営んでいる辻村さんだ。ハンコ屋という時点でもう存在がおもしろい。ずるい。彼女がいろいろ面白いところを紹介してくれる手筈だ。すでに「お散歩コース」を指定されている。私はお散歩が大好物なので、とにかく歩くことにしている。歩くことはなにをおいても最高の活動だ。できれば歩くだけで今回の旅を終えたいと思う。しかし普段から仕事をせずに歩き回っているので、平時とあんまり変わらないんじゃないかという気もする。まあ、変わらないことを続けたり、いつも通りでいることの方が生きる醍醐味だ。どこへ行っても何かを特別に変えることはないし、気負うこともない。とりあえずいつも散歩には全力なので、辻村さんを置いてけぼりにする気概でのぞむ。
▼辻さんぽ
沼津駅で辻村さんと会った。緑色のコートに緑色のマスクを合わせている伊達な格好をしていた。12時について、結局9時間くらい歩きっぱなしだった。散歩、本当にたのしい。そしてせっかくの休日に謎の仮面屋との散歩に付き合わせてしまい辻村さんまじでごめん。あらゆる場所を紹介してもらったが、9割がた閉まっていて最高だった。明日全部巡りたい気持ち。皆さん沼津に来る日は水曜日以外を狙いましょう。水曜は沼津の休日です。しかし、もしすべての場所が空いていたらこんなにもたくさんのスペースを回りきることができなかっただろう。天命に感謝だ。
途中、しまやんというナイスガイに出会った。おじいさんの残したクリーニング屋さん跡地を改装したり、町を訪れる人を接待しながら地域のコミュニティーに多大な貢献をしている。どんな地域でもそこに住む人たちの悩み苦しみがあり、目の前の生活と向き合いながら何とか折り合いをつけている。しまやんはそういった当事者の1人で、沼津を、生まれ育った地域をどうにか良い方向に向けたいともがいている。そういう人に出会えただけですでに来た甲斐がある。
▼お酒を飲むと眠い
しまやんとお酒を飲んだのでもうすでにハイパー眠い(今は10時半くらい)。ワーケーションとは何であろうか。ともあれ、友達と会ってお酒を飲んで地元を紹介してもらったら、そこに来た目的がもともと何であろうともう大体オッケーじゃなかろうか。今日のところはそういうことにしておく。思い出したら、街の素敵な場所について書くかもしれないが、そういうのは他のアーティストに任せておきたい感じがある。私はバケーションに専念する。そう決めて今日は寝る。おやすみなさいませ。今日からどうぞよろしくお願いします。