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北野藍子「点、線、面、 in小山町」( MAWまとめ)
はじまり
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普段は陶芸を生業としている。
今は地元の奈良に工房を構えているが、以前は各地を転々としながら制作していた。
自然の景色を器に移すように、周囲の環境からインスピレーションをうけて制作しているからだ。
このプロジェクトも何か新しい気づきを求めて応募した。
また、この数年新しいプロジェクトが始まったり終わったりと
波みたいに重なりを繰り返していて
休みという休みはなくて
好きではじめた陶芸に
どこか追われるような時もあり、
純粋な、作りたいと湧き起こる想いと、そこで起きる化学反応みたいなものに
出会い直したいと思った。
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いちにちめ
初日は交流会。ホストであるWe are OYAMAさん(通称WAO)に場を作ってもらい地域の施設をお借りしてご紹介頂いた。
WAOは2020年に小山町が東京オリンピックの会場に選ばれたことをきっかけに発足されたプロジェクトグループ。
わたしたちアーティストは旅人と称し、招かれる。
WAO、旅人同士、町の人たちとも初対面で、久しぶりに新しい交流、環境に入っていく感覚。
この1週間をどう過ごすか。
陶芸をすることは不可能ではないが、かなりタイトで投げやりになってしまうだろうし、いつもと変わらない。
自分の中で”ワーケーション”の意味を考える。
遊ぶように仕事をすること、
そして必ずしなきゃいけないわけじゃない、というのがわたしにとってのワーケーションだなとおもった。
ふと思い出す。
実はものづくりで初めて興味を持ったのは草木染めだった。
当時はただ布に植物の色が移っていく様が楽しすぎて、純粋な欲求のために創作していた。
そのため今回は作ることが楽しいという原点に還りたくて草木染めをすることにした、と自己紹介で伝えたら
見れますか、わたしも出来ますかと興味を持ってくれる人が多く嬉しくなった。
勿論です、と
布と、植物を持ってきてもらう約束をする。
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この1週間は農家民宿このはなさんにお世話になる。
夜、宿に帰ったらマスターのてるさんと、女将の順子さんが優しく迎え入れてくれた。
炊き立て土鍋ご飯と、畑で採れた豊かな食べ物で満たされる。
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ふつかめ
朝はひとりで宿のまわりを散歩。
霧雨。
頬にあたる湿度が気持ちいい
土と春の植物のない混ぜの匂いもよくて嬉しくなる。
この日はWAOさんに小山町を案内してもらう。
しとしと霧雨の粒が大きくなって、そろそろ傘を使う。
たっぷりと自然に還るような時間と、そしてとても印象的だった手染めの工場の見学。
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鯉のぼりのシーズンで忙しく作業される中で染めを施すときの一瞬にピンと張り詰める空気を感じる。そんな中、訪れたわたしたちに柔らかく声をかけてくれる。流れるような所作が美しくてずっと魅入ってしまった。
作ること、のひとつの形を見せていただいた。
みっかめ
遠方から友人がやってきて
朝小山町の水源地に出かけて植物を集める。
この日は春分が過ぎたころ、あたりを見ると蕗の薹、山茶花、椿、たんぽぽ、土筆、クレソン、春の植物がそこらじゅうたくさんで、目についたものを袋に詰めていく。この地域特産の水かけ菜も摘んでいく。今日の食材を集めているようだけど、全て草木染めに。
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このはなさんの一角を借りて準備していると、地域の大人や子供が集まってくる。
摘んできたよ、とビニールの上は一面の春に埋もれて
小山町の春の多様さに心がじんとくる。
やり方を説明する。
それだけ。
あとは子どもたちが一丸となって、舵を取ってくれた。
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小山町の植物と、小山町の美しい水は多様な色を生み出した。
作りたい!の純粋な欲求に没頭していく、
集まった皆さんからたくさんの学びを得た。
よっかめ
豊門公園へ
町の歴史や見所を案内していただく
旧和田豊治邸である豊門会館は当時の面影をそこここに残している
2階の座敷からは小山の町が見下ろせる。
富士紡績で栄えた当時の人たちの空気を感じられた。
コーヒーを飲みながらひと息ついた時に、写真家の秋野 深さんから提案をいただく。
せっかくこの場に集まった3人、WAOさんと焚き火をすることに。
いつかめ
沼津から友人のカメラマン、あやさんが来る
今日は小山町を出て界隈を案内してもらう
宿を出発して、車で富士宮まで
高速を走ると富士山が間近に、ぼーっと見ていると少しずつ、少しずつ表情を変えていって
すとんとなめらかなアウトラインになる
どこから見ても富士山なのに、どこから見るかでこんなに雰囲気が変わるんだなと、
小山町以外にも滞在しているアーティストを想う。
きっと、それぞれの町で感じる富士とひとは全く違う。
後にあやさんに撮ってもらったポートレートを見て、その想いがより強くなった。
誰が見つめるかでも、全く違う。
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夜はアーティスト3人とWAOのちえこさん、あやこさん、kaco.さん、子どもたちで焚き火
おしゃべりと対話を行ったり来たり、潜ったり浮上したり、重なったり離れたり、繰り返しながら火を見ながら。
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その人の言動、特に言葉選びと話す、聞くのタイミングからどういった人かなあとイメージを膨らませる。
写真家の秋野 深さん、アーティストの佐藤 悠さんと対話した時の印象が面白かった。
秋野さんは空気を捉えるのがうまいなあと感じた。
おしゃべりで溢れ出る言葉を掬いとって、話題にあげる。
たくさん実った果実から、リンゴをひとつ、もいでテーブルに乗せるが如く。
みんなそれを眺めたり触ったり、齧ってみたり人に渡してみたり、
秋野さんはその状況を観察しながら、掌のりんごを見つめる。
佐藤さんはすうっと森にやってきて、みんながそれぞれもいでいる果実の新しい食べ方を話してくれたり、なんなら食べる以外の用途も見つけちゃう。
そのうちリンゴとぶどうと梨と苺と、じゃがいももにんじんもこうやっていっぺんに口に入れたらおいしい、と調理する。見せびらかすことも、隠すこともせず。
昨日食べたあの料理はなんだったんだろうと、朝起きておもう。
そんなイメージ。
それから、この日28歳年下のちいさいともだちができた。
しょうやん、という。
わたしの椅子と、わたしよりだいぶん小さい椅子とを並べて、焚き火でトロトロに溶かしたマシュマロをクラッカーとチョコレートでサンドして、乾杯して頬張る。
好きなものの話をして、意気投合して、かたく握手した。
彼は、どんなものもみんなで食べると、最高においしいと知っている人だな、とおもった。
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むいかめ
最後の交流会。
宿にWAOのkaco.さんと、昨日マシュマロで乾杯したしょうやんが迎えにきてくれて会場に向かう。
この1週間の、小山町での軌跡を振り返る。
普段は工房でひとり土と向き合い、たまに外に出て人と交わるくらいのわたしにとって、あっという間だった。
草木染めをする日を1日決めただけであとはもう流れに任せて人から人へ。怒涛のはじめましての波を進んでいく。舵取りはとうに諦めていて、ただ乗った船に身をまかすように誘われるまま楽しんでいた。
小山町の皆さんの先導で船はスイスイ進む。途中合流したり離脱したり、みんな好きなように楽しんだ。
この船の原動力はなんだろうと思う。
この町が好きで、住んでいる人たちが好きで、ここで始まる楽しいことが好き。
とてもひとなつっこくて優しい小山の人たちが、いろんな種類の好きの力で船を前に前にと進ませていく。
わたしがものづくりをしているのも、ワーケーションに応募したのも、WAOが生まれたのも、3人のアーティストが来たことも、ただの点のようだけど、全部繋がっているようにおもう。
点は、線になって、面をつくる。
やがて、立体となり、夢と思っていたものに、実体ができる。
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なんだかつきものが落ちたような、一皮剥けたような、そんな象徴だった。
なのかめ
最後の朝の、宿のご飯も炊き立ての土鍋ごはんに、たっぷりのお味噌汁。
存分に堪能したら、このはな一家がコーヒーとおやつを持って来てくれてみんなで味わった。
お昼前のバスで小山町を出発する。
このはなのおばあちゃん、かこちゃんからお赤飯をお弁当にもらう。
バス停では、WAOのメンバーに見送られて。
最後まで人人人尽くしだった。
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つくること、生み出すことはとても自然に立ち現れてくる。
人に備わっている欲求なのだとおもう。
表現したいという欲求。
それは陶器だったり、草木染めだったり、絵だったり、音楽だったり、
お店だったり、料理だったり、
ファッションや暮らし方も、
誰かに掛ける声や、さりげない気遣いも
どのような行為も
大人も子どもも関係なく、
たくさんの人の想いから発露する。繋がる。いまのわたしになる。
網の目のように、広がって、わたしもそのひとつだと実感する。
この場所に来れてよかった、と深くおもう。
おわりに
We are OYAMAの皆さん、
小山の魅力を存分に教えてくれてありがとうございました。
皆さんと行ったいろんな場所と、出会わせてくれた人は、わたしの宝物になりました。
お一人おひとりの得意が合わさって、そして子どもたちも合わさって、最高にエネルギッシュになるんだなあと 、あの輪にいられて嬉しかったです。
旅人の秋野さん、佐藤さん、
1週間、小山町で共に旅人として滞在できて嬉しかったです。
表現の方法や、思考の仕方の違い、小山町で興味を引くところも違いがあって、たくさん刺激を受けましたし、
3人でお互いのことをnoteに綴っていますが、それぞれ相手の考察が面白くてニヤニヤします。
一側面だけで物事を捉えない、いろんな目を見せていただきありがとうございました。
農家民宿このはなさん、
いつも側にいてくれてありがとう。
本当に、ほんとうに居心地が良かった。
ここに泊まってなかったら、わたしのいまのこの気持ちは全然形が違ったのかも。
このはな一家は、尊敬するだいすきな家族。
この旅で出会ったすべての人に、
ほんとうにありがとうございました。