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タノタイガ「ラストサパー」(6日目)

朝6時半の町内放送で目が覚めました。雨で延期になっていた年に一度の山焼きが、本日開催されることがアナウンスされています。

今日の山焼きには、僕らMAWアーティストたちも特別に参加させてもらえることになっていました。眠い目を擦りながら慌ただしく出かける準備をしていると、ホストの荒武さんから電話が入り、僕だけ参加ができないことを告げられました。理由はまたしても息子。山焼きは激しい炎がすぐ近くまできてかなりの危険がともなうために子ども参加はできないとの連絡でした。山焼きの現場はどんなものか経験はないのですが、想像はつきます。

予定変更に縁側でコーヒーを飲みながらまったりしていると、お向かいのシゲルさんがヘルメットを被った勇ましい姿で軒先までやってきました。「これから山焼きだよ!下のほうの駐車場からなら見れるから!」と張り切っています。子どもの件を話すと、やはり難しいだろうとのことでした。「気をつけて行ってきてください」と声をかけると、マスク越しにでもわかる笑顔で去って行きましたが、その後ろ姿を見ながら僕の頭の中にはアルマゲドンのあの曲が流れていました。

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集合場所に向かう必要のなくなった早朝のスケジュールは、週末しかやってない港の朝市まで歩いて行ってみることにしました。こぢんまりした朝市ですが稲取町で商いをするお店などが出店していて、地元の金目鯛や海苔の加工品、わさびや野菜やなどが売られています。

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金目鯛の釜飯屋さんがあったので、隣で焼いていた脂の乗ったアジの炭火焼きと一緒にいただきました。

できたてのメロンパンが美味しかった、藤辺パン屋さんも出店していたので、今回は一番人気というドーナツを購入してみました。赤燈近くの実店舗は店前を通ってもシャッターを降ろしていることがほとんどだったので閉店しているお店なのかと思っていたのですが、たまたま開いているときがあったので入って不思議な営業時間帯のことを尋ねてみると、普段は高校の購買に出店しているので日中はわずかなタイミングでしかお店を開けていないとのことでした。ご老人の多い町で、なるほどそういうニーズがあるのかと感心しました。

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市場をあとにして港から山を眺めると、黒い煙が立ち上っています。どうやら山焼きがはじまったようです。

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警備が手薄になるのでは、と予想して車に乗り込み細野高原を目指します。しかし、駐車場から先は進入禁止の規制線が張られていて近くまでは行くことができません。車を駐車場に停めて下りてみると空からはヒラヒラと黒く細長い藁の燃えかすが降り注ぎ、焦げ臭い匂いが充満しています。

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嗚呼、是非とも参加したかった。そう思いながら、場所を変えながら木々の隙間から炎の帯を必死で見ていましたが、息子はもう飽きてしまったご様子です。子どもは遠くの景色にはあまり興味を示さず、手の届くような距離のような目の前にあるものに強い興味を示しがちなので仕方がありません。僕が山焼きに夢中な結果、山焼きを背景に駐車場で無心にスケボーの練習をしていました。

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時間がたつにつれ、火は下の方へと近づいてきます。パチパチッバチバチッ、という乾いた焼ける音もどんどん大きく近づいてきます。この数時間の間に規制線の穴を見つけたので、スケボー練習に疲れた息子の手を引き、より近くの場所へと入って間近で山焼きを見せると興奮を取り戻してくれました。

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細野高原での滞在が2時間ほどたち、パラパラと雨が降り始めたのでお昼ご飯を食べに赤燈へ戻りましたが、雨は一段と強くなって土砂降りになってしまいました。翌朝、稲取を離れなければなりませんがさすがの土砂降りで行くあてもないので午後は赤燈に引きこもって僕は仕事、息子は午前中のできことを日記に書かせたり、庭に咲いていた椿の花を一輪拝借して絵を描かせたりしながら時間を過ごします。少し飽きてきたところで僕の荷物をゴソゴソあさりはじめ、絵の具を発見して「使ってみたい」と言い出してくれたので夜までなんとか家の中で過ごしてくれることができました。

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実は東京を出るときに、ワーケーション滞在中の悪天候リスクを考えて、工具や画材や養生材などいくつか見繕って持参していました。これまで息子に絵の具を使わせたことがなかったことが幸いして、ものの見事にワーキャー言いながら夢中で生まれて初めての色混ぜを楽しんでくれています。

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しかしながら、「ねぇねぇほら見て!」と度々声をかけられるし、水バケツを倒してしまいやしないか、絵の具をそこらに付けてしまいやしないかとヒヤヒヤするので仕事にあまり集中できませんでしたけれども。

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最後の晩餐は、稲取随一のインスタ映えレストランZENへ、かき氷を食べに行きました。先日、吊し雛を探しに素戔嗚(すさのお)神社を訪れたときにも食事のために立ち寄っていたのですが、さすがに子供の頭蓋骨サイズの特大かき氷はお腹を下しそうなのでその後の予定を考えて我慢させていました。今日は外出もあまりできなかったし、この1週間を全く愚図ることもなく父親に付き合ってくれました。稲取滞在最後の晩餐ぐらいは甘やかしてもよいでしょう。僕が一口たりとも味見することなく、ガタガタ震えながらもペロリと食べきりました。今日の夕飯です。

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いよいよ明日、稲取を発ちます。外は土砂降りです。

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