三浦雨林「見えない町」(7日目)
9:00 出発
昨日の夜はまた寝落ちしてしまっていた。荷造りをしている最中に、ヘアアイロンがないことに気が付く。一昨日泊まった宿に忘れてきたのかもしれない。
宿を出る時、初めて隣の部屋の人と出会った。
鍵を返しに行ったガソリンスタンドで、お兄さんが「気をつけて」と言ってくれたのが残っている。挨拶とかお礼とかじゃなくて、「気をつけて」。私が旅人だったことを思い出した。
10:00 バガテル公園
ホストの和田さんと一緒にバガテル公園へ。昨日まで外に出っ放しでせわしなかったので、今日は少しゆっくりすることにした。Working Space Bagatelleへ荷物を置かせてもらい、うろうろする。一階にあるブックカフェの空間が非常に良くて、上演への想像が膨らんだ。ワイルダーの『ロング・クリスマス・ディナー』がぴったりの空間だった。ずっとやりたいと思っていた作品だったので、ようやくしっくり来る場所に出会えたような感覚だ。上演したいな。
戯曲を書き始めた。河津で見て聞いた事から着想を得て、少しづつ。
季節が終わった薔薇園にも行ってみた。咲いてないものが多数だったが、時折ちらちらと花をつけているものがあった。
戯曲を書いたり、他の文章を書いたり、うろうろしてみたりで、結局10時ごろから15時まで居てしまった。
電車の都合上、15時ごろバガテル公園を後にした。和田さんと最後にお話し出来てよかった。次は桜の咲く頃か、夏の海水浴に来たいな。
Working Space Bagatelleの入り口まで見送ってくれた和田さんを写真に撮って、自力で山を降りる。
もう町まで来てしまえば地図を検索せずともだいたい自分がどこにいるかわかるようになっていた。自転車は、町のことがよりわかる移動手段なので好きだ。
20:00 自宅へ
松を持って東京で乗り換えするのは無理だ、と思ったので、河津町から渋谷まで一本で行ける池袋行きの踊り子に乗った。往路よりも空が澄んでいて、伊豆大島がよく見えた。毎日海の向こうに見えていた光は船だと思っていたが、伊豆大島の街だったようだ。
やはり渋谷乗り換えも大変だった。松を持っていると好奇な目で見られるのに、誰も話しかけてこない。東京は人間への警戒心が強い場所。そうしなければ危険だから仕方ない。河津の人に対する無防備さが愛おしい。
頑張って乗り換えをし、なんとか帰宅。すぐ自宅の湯舟に浸かる。毎日温泉に入っていたのが夢のように思えてきた。というか、昨日までならこの時間に温泉から出て宿に自転車で移動していたなとか、今この時間の河津が想像出来るのが不思議だ。毎日見上げていた星も、川も、海も、私がいてもいなくても変わらない。これまで想像すらできなかった町の時間が私の中に残っている。特別な1週間だった。これからもこの1週間のことは特別な記憶になると思う。滞在が終わって、こんなに寂しくなったことは未だかつてない。本当に素敵な町だった。
ひとまず今回の滞在はこれで終わり。また後日まとめのnoteを出します。戯曲を書き始められてよかった。河津で過ごした時間がこれからの未来に延びているような気がする。