心の微熱
「好きな人ができない」
昔のクラスメイトがしょっちゅう言っていた。わたしも今ならあの子の気持ちがよく分かる。こんなことは初めてだ。4歳の初恋から一昨年の秋まで、過去に1度も絶やした時期などなかったのに。
確かにできないね、好きな人。
何を以てわたしは誰かを好きになるんだ。どういう瞬間ぎゅっと心を掴まれるんだ。恋をしている間の自分は一体どんな感じだったか。
人を愛する微熱を失くしてもうすぐ2年、それがなかなか心に戻ってきてくれない。
このままじゃ恋のしかたをいつしか忘れてしまいそう。それが怖くて過去の話を思い出しては埋めてみる。
叶わなかった想いのほうが心に残るのは本当だ。ふいに記憶をよみがえらせてもまだちゃんと淡い色彩がついている。
高校1年生の春から最後の夏まで、ずっと一途に1人の人が好きだった。「ここまで来たら別に付き合わなくても良いや」と思っていたのに、初夏のある日になぜか急に告白しようという気になって短い短い手紙を書いた。
翌日放課後、生徒が皆いなくなった静かな廊下で「友だちで」と優しく振られた。
泣いたけど、でもいうほどつらくはなかった気がする。たぶん伝える前よりさらに仲良くなったかな。
「振り向かせたる!」と燃えることもなくただ穏やかに、まだしばらくは好きでいようと、次の日にはもう立ち直った。そのとき既にこの片想いの特別感を明確に理解していたと思う。
叶ってそして終わった恋より、ずっと良い。
わたしは聖女や女神じゃないから、別れた男と過ごした記憶を綺麗に保存はしておけない。だけど高校生の青春をまるっと捧げたアイツのことは、いつまでも忘れたくないと思う。
卒業してから3年経つが、まだあれに勝る恋はない。好きな人がいない今だからよく分かる。
穏やかで優しい心の微熱。またああいう恋がしたいな。
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