『 おばぁ録① 』 ~ おばぁの今 ~
●祖母の名前 勝間文子(※偽名です)
●大正13年6月6日生まれ
●北海道旭川市出身
●脊椎狭窄症で、東京都下にある特別養護老人ホームに入居中。
「特別養護老人ホーム」。
地方自治体や社会福祉法人が経営し、一般には「特養」の略称で呼ばれる。
入居条件は、病気や障害で生活が困難な介護認定を受けた高齢者が対象である。民間の有料老人ホームより医療費が控除されるなど、経済的メリットが多い為、入居待ちが出るほど人気らしい。
入居者にはそれぞれ、「寝たきり」や「認知症」、「在宅介護を受けることが難しい」などの理由がある。祖母は後者の「在宅介護を受けることが難しい」方に属す。脊椎狭窄症で下肢の神経が圧迫されて両足に痺れが出ている。歩けないので、日常生活に車椅子はかかせない。
足は浮腫みで膨れて青白く、夏でも万年雪のように冷えている。痺れが出ている時は、相当の痛みがあるらしい。そんな時に遊びに行くと大変だ。ムスっとしてかなり不機嫌である。
そんな下肢が悪い祖母であるが、頭は非常にハッキリしている。施設というと、認知症のイメージが強いが、祖母とは無縁だ。「その話は覚えてないわね~」と言う時は、祖母にとって都合が悪い時だけである。
施設では、職員さんがお風呂にいれてくれ、部屋の掃除、栄養バランスのとれた食事、お医者さんの検診がある。身内としては、プロの職員さんに見守られ、暮らしてくれていると安心だ。ただ、やはり「家」ではない。
それは、よく晴れた風が気持ち良い日だった。
祖母の病室の窓は閉じられ
ていた。私は、「外の空気を感じようよ。」と窓を開け放った。しかし祖母は、神妙な面持ちをしている。
私:「ん?気持ち良くない?」
祖母:「気持ち良いけどねぇ・・・」
その後も「ジッ」と神妙な顔をしている。しばらくして聞いてみた。
私:「何で窓を開けないの?網戸もついてるから虫は入らないでしょ。」
祖母:「いや、窓にセンサーがついてて、ずっと開けてると警備に連絡がいくんだよ。自殺や逃亡防止でね。だから開けない決まりなのよ。警備の人が来ちゃうかもね。」
自殺? 逃亡? 仰々しい言葉に驚いた。自由に窓も開けていられないのか。
また、こんなことがあった。施設のエレベーターは、暗証番号をいれない
とボタンが押せなくなっている。帰宅願望の強い入居者の逃亡を阻止する為
だ。祖母がこのエレベーターまで見送ってくれた時、私はこの暗証番号を忘れていた・・・・・。
私:「あれ?暗証番号なんだっけ??。」
祖母:「🔴▲✖▼よ。」
祖母からサッと答えが返ってきた。しかし、それを傍で聞いていた職員は慌てて、「勝間さんは知ってちゃダメよ!」と叫んでいた。
やはり自宅ではない。プロのサポートと引き換えに自由の制限はあるのだ。
しかし、施設は不自由な部分ばかりではない。レクリエーションを通した機能訓練などの介護サービスも受けられる。実際の施設での過ごし方を聞いてみた。