プリズン・ブレイク留学
私が14年前に語学留学をした理由は『プリズン・ブレイクを一刻も早く観るため』だった。
当時は今のようにNetflixなどの動画配信サービスがなく、海外ドラマはレンタルショップでDVDを借りて視聴するのが一般的。
しかし本国でのテレビ放送後、日本語吹替・字幕付のDVDが日本に流通するまで1年ほどタイムラグがあったのだ。
私はプリズン・ブレイクが大好きで、先のストーリーを早く知りたくて仕方がなかった。
既にアメリカでは放映済みということが分かっていたためインターネットで違法アップロードの動画を探すのだが(ダメ)、ことごとく英語版しか見つからない。
英語の分からない私にはちんぷんかんぷんで、真剣に観てもストーリーの3分の1も理解できなかった。
私はこのまま一生、プリズン・ブレイクを1年遅れで観続ける人生を送るのか…?
そんな人生、考えただけで恐ろしかった。
英語さえ分かれば違法アップロード動画を楽しむことができる。
ということは、英語を学ぶしかない。
では、どうすれば早く英語を習得することができるか?
答えは明白だった。
よし!!留学しよう!!!
そう決めたのは2010年1月1日。
元旦だったのも私の決断を後押しした大きな要素だった。
早速母に「英語を学ぶために留学したいのでお金を貸してほしい」と頼むと、快く了承してくれた。
自分でパソコンを使いリサーチし、留学先をカナダに決め、電子辞書で一語一句調べながら申込手続きを行なった。
ホストファミリーとの会話すらままならないレベルから始まった留学生活。
内向的な性格の私はほとんど友人を作ることなく、毎日家と学校の往復を繰り返し、ひたすら英語の勉強に勤しんだ。
その結果、10ヶ月後には現地の大学から入学許可が降りたが、大学の授業料が高すぎて入学を断念。そのまま日本に帰国した。
日本に帰った私はプリズン・ブレイクのことなどすっかり忘れ、代わりにテイラー・スウィフトに夢中になっていた。英語が分かるようになると歌詞の意味も理解でき、洋楽を好んで聞くようになっていたのだ。
結局、当初の留学目的『プリズン・ブレイクを字幕なしで観る』は達成されなかった。
映画やドラマを字幕なしで理解できるかと聞かれると、分かるのはせいぜい6割くらい。英語字幕ありでも8割くらいで、完全には分からない。
とはいえ、14年前には想像もしなかった動画配信サービスが豊富にある現代。
日本語に訳された海外ドラマを本国と同じタイミングで合法的に観ることができるので、英語力など端から無用だ。
果たして私は留学した意味があったのだろうか。
もし私が英語を話せなければ、英語しか話せない今の夫と恋愛関係になることはなかっただろう。
彼の住むニュージーランドに移住することもなければ、そこで仕事を見つけることもできなかった。
何より、今いる娘2人にも出会えなかった。
プリズン・ブレイクが好きすぎた14年前の自分と、Netflixのなかった不便な時代に感謝である。