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オンライン時代の就活

ウイズコロナの時代が始まった。多くの大学では春学期のすべてがオンライン授業となり、在宅で授業を受けることは普通のことになりつつある。企業でもテレワーク(在宅勤務)が多くなり、今後は永続的に、ツイッター社は希望する全社員を、フェイスブック社は社員の半数を在宅勤務にする計画を発表し、日立製作所やNTTグループも在宅勤務を50%以上にする方向で進んでいる。


オンライン化が進むこのような状況下で高校や大学を出て企業に就職する学生の就職活動は昨年までとはまったく異なってきた。昨年までは入社1年以上前から企業説明会が頻繁に行われ、学生たちは大都市での説明会に出かけ、多くの企業にエントリーシート(ES)とよばれる志願書を提出し、集団面接や個別面接、あるいはグループワークなどを経て6月から内定を貰い、学生は希望の1社に10月に実施される内定式に出ることを誓約した。
 4月に政府から緊急事態宣言が出た今年はどうなのか。
 4月までに企業側と学生がインターンシップなどで十分接触している場合には4月以降、すぐに内定に準じるものが出されている。特に、偏差値が高い大学の理系大学院生などでは4月中に就活を終えて希望の会社に就職できた学生は多い。


一方、4月から就職活動を始めた学部生ではオンライン面接が一般的になっている。この場合、面接を希望する企業へのESはすでに提出済みであり、それを基に第一次選考が行われ、それに通過すると企業側からオンライン面接の日時などが指定される。


昨年までは会社説明会に参加するウエブページからの申し込み時点で、学歴フィルターとよばれる仕組みが働き、偏差値が低い大学の学生が申し込んでも「満席」となり、説明会にも参加させてもらえない状態も存在した。今年は実際の会場での説明会が無くなり、オンラインでのウエブセミナーが一般的となった。もちろん、ウエブセミナーに参加するにはリクナビやマイナビという就職支援サービスを行っている大手企業の会員として登録する必要があり、当然のことながら氏名や住所の他に学歴を入力しなければならず、この情報を基にウエブセミナーに申し込んでも学歴フィルターで満席と断られる場合もある。ただし、リアルな会場とは異なり、ウエブ上でのセミナー視聴なので、サーバーの容量さえ超えなければ満席になる確率は低くなっているだろう。


ところで、オンライン面接のメリットとディメリットについてはウエブ上に多くの情報があり、企業側も新卒の学生たちも事前に学習済みなので、ここでは述べない。ただ、最大のメリットはPCと通信環境、および企業側が準備するオンライン面接システムさえあれば、お互いに距離と時間の壁を乗り越えて、手軽に面接の機会を持つことができることとされているが、それは最大のディメリットかも知れない。


これは大学の入試を考えれば容易に分かる。志願者が便利なように、同じ大学でも学部や学科によって試験日を変えるとか、複数回受験できるとすることで、確かに受験者数は大幅に増加する。大学は受験料を徴収しているため、受験者数が増えれば入試での収入は大幅に増える。しかし、大学の入学定員が変わってないのなら、合格の難易度に変化は無い。受験生にとっては受験機会の間口が広がることで嬉しいが、それは合格可能性が高まった訳では無い。


同じことが学生の就職活動でも言える。企業が採用する人数に変化が無いなら、オンライン面接であろうが、リアルな面接であろうが、内定をもらえる人数に変化は無く、オンラインで手軽になって間口が広がった分、企業側はさらに最適な戦略で良い人材を確保する。


学生は多くの企業にESを送るが、人気がある大企業であれば、そのESを企業の人事部の人が見るのは昨年度に実施したインターンシップで優秀と判断した学生、リクルーターが卒業大学に出向いて1本釣りをしてきた学生、および学歴フィルターでトップクラスの大学生だけだ。それ以外は契約している人事のアウトソーシング会社の担当者が見て、本社人事部に送る敗者復活のESだけを選別する。あるいは見ないで破棄される場合もあるだろう。こうして面接に進む学生が選別される。ここまでは昨年までと同様である。


今年は、オンライン面接に進む学生の選別が上と同様の方法で進む。ただし、昨年までは5名など複数人を同時に面接するグループ面接や、複数人で課題を解くグループワークが可能だった。これらの方法は複数人を同時に観察することで、グループ内での相互作用を見ることもでき、企業で重要なチームワーク力や臨機応変に対応する力を相対的に評価することができ、企業側では学歴・活動・人柄だけでは測れない重要な判断基準となっていた。人は、一つの案だけを個別に見せられてもどれが良いか判断に迷う場合が多いが、複数案を同時に比較すると選別が楽になる。


オンライン面接だけになると複数人の中でその人がどう振る舞うのかという評価ができなくなる。これがオンライン面接での最大のディメリットである。オンラインで複数人同時に会議できるソフトウエアもあるが、複数人の相互作用はよく知っている人同士でしか生じない。


さらに、リアルな面接では、企業側は答えることが難しい質問を故意にするなどして学生のレジリエンス(逆境でタフな能力)を評価することもできた。しかし、オンライン面接ではそれ録画される可能性もあり、お互いに穏当な質問と答えに終始する危険性がある。


したがって、オンライン就活が中心になると、入社が難しい有名企業と、それ以外の企業では対応が大きく異なる。有名企業では過去に社員と一緒に働いたインターンシップでの高評価や卒業生リクルーターの推薦が最重要評価となり、次に学歴(大学、学部、学科、所属研究室(ゼミ)レベルまでが重要)、ESの内容となり、オンライン面接に進む前にすでに最低合格ラインは通過している。その後のオンライン面接では人柄の確認・見た目の賢さの確認、および配属部署とのマッチングの確認が重要となる。もちろん、優秀な学生は多くの有名企業を対象に活動しているので、自社への入社確率を推定することも重要となる。


一方、有名で無い企業では、とにかく応募数を増やすことが重要であり、この点ではオンライン面接は、うまく戦略を立てれば優秀な学生をオンライン面接にまで持ち込むことができる。これは、地方の無名の企業が作ったアイデアあふれる製品がインターネットのSNSを通じて予想を超えて売れる状況に似ている。いままで面接に対して交通費も会場も準備できなかった企業でも、ウエブやSNSで有名になればオンライン面接への応募者も格段に増えると思われる。特に、ウイズコロナの時代には過密な都市の企業より、郊外や地方の企業への就職希望も増えており、オンラインでの企業紹介は大きなチャンスである。


いま、動画配信で宣伝する商品は売れているという。有名ではないが堅実な企業であれば、下手な動画でも良いからネット上に数多く投稿し、多くの人の目に触れる機会を増やすことがオンライン就活での応募者を増やすことに繋がる。文字より写真、写真より動画、一見は百聞に如かずという諺の一見は動画でなくてはならず、オンラインでの企業紹介や社員紹介に最適である。就活の学生が、いままで知らなかった企業の良さを発見する機会が増えることで企業も学生も良いマッチングができ、離職率も下がると思っている。


人の価値観が大きく変化している現在、人生でも大きな節目となる就職で、企業と就職希望者の目標や価値観の多様化、働く場所や働く時間の分散化、そして企業、従業員、就職希望者の3者が幸福になれる組み合わせはオンラインで最適化できると信じている。


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