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金 (Gold): サクっと純金の積立にあたって

 これまで2回の投稿で投資方針と投資先の1つである全世界債券について述べました。今回はもう1つの投資先である金(きん=Gold)についてまとめます。なお、最も大きな割合の全世界株式についても、いずれまとめます。
 現状(2024年2月現在)としてSBI AMの「サクっと純金 (為替ヘッジなし)」が最適と考えて積立ています。

(画像はBank of Englandより)


1. サクっと純金の基本情報

 サクっと純金とは、SBI AM(アセットマネジメント)が運用する投信「SBI・iシェアーズ・ゴールドファンド」の愛称です。
 この投信はLBMA Gold Priceに連動するETC(ETFのCommodity版)に投資し、円換算ベースの金現物価格の値動きと連動することをめざしています。為替ヘッジありと為替ヘッジなしの2つの投信が設定されています。
 私は為替ヘッジは不要と考えるので為替ヘッジなしを選択しています。
 Fund of Funds(FOF)方式で運用され、投資先はBlackRock社のETC(IGLN)です。総経費率は0.1838%(税込)程度、内訳は信託報酬が0.0638%、投資対象とするETFの経費率が0.12%程度となっています。

 裏付けとなる金地金がロンドンで保管されているため、比較的安全に金価格と連動すると期待できる魅力的な商品です。

 詳細な情報は下記の公式情報を参照してください。

2. なぜ金に投資するのか

 金は伝統的に価値があると考えられています。例えば伝統的な紙幣は金と兌換(交換すること)できる交換券としての性質をもっていました。現在は「日本銀行券」と呼ばれる紙幣も明治期には「日本銀行兌換券」(※1)と呼ばれていました。

金は普遍的な価値がある

 ところが、現在は中央銀行が保有する金など価値がある貴金属よりも多くの紙幣が発行されており、兌換する機能がなくなっています。現在、基軸通貨とみなされているUSD(米ドル)は1971年に兌換を停止(※2、いわゆるニクソンショック)しており現在まで兌換が再開されていません。
 また、USD以前の基軸通貨であったGBP(英ポンド)も大恐慌(1929)の影響で1931年9月に停止しています(※1, 3)。JPY(日本円)も同じく1931年12月に事実上の兌換を停止し、1942年の日本銀行法(現行法)で法的にも兌換が廃止され現在に至っています(※1)。
 つまり現在の主要な通貨は価値がある貴金属の裏付けがなく、信用リスクを負っている資産ということができます。

 現在、金は通貨と切り離されており、一般の商取引で金で決済することはできないため、ある意味において無価値になったとみなすことも可能です。
 しかし、この見解は重要な視点が抜け落ちています。通貨の信用リスクです。平和な時代には国家の信用が通貨の裏付けとなりますが、不安定な時代には現物の裏付けがない通貨の価値は著しく低下すると考えられます。
 現実にGBPは1931年の兌換停止が基軸通貨から転落する致命傷の1つになっています(これだけに原因を求めることはできません。その後の第二次世界大戦による戦費など様々な要因があると考えるのが妥当でしょう)。
 ECB(EUの中央銀行)は金本位制が崩れた後に発足していますが、発足直後の声明でも下記のように金を重要だと述べています。

Gold will remain an important element of global monetary reserves.

ECB. 1999. Joint statement on gold.

 したがって、金には歴史的に普遍的な価値があり、通貨に信用リスクが生じた際に信じるに足る資産となりうると考えることができます。
 将来の平和を期待しますが、盲信することは長期投資の観点で危険です。
 また、通貨にはインフレという天敵が存在します。これまで述べた裏付けとなる金が足りなくなったために兌換を停止するとは、通貨の価値を低下させることを意味します。
 現在の通貨は自然と価値が低下するシステムになっています。
 一方で金の量には限りがあり、普遍的な価値があるとみなされているため無国籍の通貨と考えることができます。したがってインフレ対策の資産として魅力があると判断して投資対象と決めました。

※1

※2

※3

参考

金の価格どの様に形成されているのか

 金の普遍的な価値は、主要な通貨で兌換が廃止された現在も不変です。
 では、その価格はどの様に形成されるのでしょうか。

 USDの以前に基軸通貨だったのはGBPであり、その時代からの伝統でLondonが金価格形成に重要な役割をきたしています。LBMA (London Bullion Market Association)という機関もLondonにあります。一方で金の価格は現在の基軸通貨であるUSD(米ドル)で決まります。Londonで扱われる単位は伝統的なoz (troy ounce)のため、USD/ozで公表されています。

 日本ではJPY/gで表されますが、USD/ozを為替レートと単位の比を使って換算しているに過ぎません。日本における金の価格は為替リスクを排除できないシステムになっています。

 このことは金価格のチャートを見た方が分かり易いかもしれません。
 下の図(Figure 1)の黄の線はUSD JPYの為替を表しています。青の線がUSD(IGLN.LSE)、赤の線がJPY(1540.TSE)です。期間は2019年3月1日から2024年2月23日の5年間です。円安が進行し始めた2022年以降はUSD建てとJPY建てでパフォーマンスが大きく異なります。

Figure 1 為替と金価格 (※4)

 しかし、金の価値が日本の方が高いのではなく、円安でJPYの価値が低下しているだけです(JPYが低下してるから相対的に金の価値が上がったということはできます)。

 幸いにもIGLN.LSEはGBP建て(SGLN.LSE, Figure 2)やEUR(EUユーロ)建て(EGLN.LSE, Figure 3)の商品もあることから、容易に他通貨での変動を比べることもできます。GBPやEURは対USDの為替がJPYよりも安定しているため金価格のパフォーマンスはJPYほど大きくありません。

Figure 2 為替と金価格 (※4)
Figure 3 為替と金価格 (※4)

 金価格は時代ごとの基軸通貨が算出の基準となり兌換が停止されている場合は基軸通貨に対しても変動するという性質があることがわかります。
 金の価格から為替の影響を排除する試みは困難であり、もし試みるならそのコストは大きくなると予想できます。
 (他の記事で、為替ヘッジが不要と考える理由を述べてます)

※4 Bloomberg Market Data (詳細は末尾の参考情報)

金の資産としての性質

 これまで、金の価値の普遍性と価格形成について述べました。
 金の資産としての性質について述べます

 金とは、普遍的な価値がある一方で単なる金属元素(₇₉Au)です。一般に金属の価値は需給によって決まり、金属自体が利益を生み出す訳ではありません。金も同様で、債券や預金と異なり利回りを生むことはありません。
 もし通貨が安全な資産であるなら金は不要と結論付ける事ができます。しかし、各国の中央銀行は金を保有し続けています。金には普遍的な価値があるという世界的な共通認識があるためと考えます。

 一方で普遍的な価値がある金属を保管するにはコストが掛かります。例えば、アメリカの造幣局の金の保管庫(Fort KnoxやWest Point)は陸軍に隣接しています。この立地を単なる偶然とは考えられません。陸軍の武力で保護していると考えるのが自然です。
 このコストは金地金の場合は、例えば貸金庫の使用料や自宅で保管する場合は警備費用などと考えられます。当然、積立や投資信託などで保有する場合も保管にはコストが掛かり信託報酬として表れてくることになります。

 それ自体が利益を生まない一方でコストが掛かるという性質は、通貨に劣ると考えることもできます。債券や預金といった通貨で資産を保有した場合は、利子を得ることができます。一方で通貨はインフレに弱く、資産価値が目減りします。利回りとインフレ率には注目する必要があります。
 このような金と通貨の性質をふまえると金と債券のバランスを考えることが重要だと分かります。

 もし利回りがインフレを下回るなら債券に投資するメリットは低くなります。これは通貨の価値が下がることを意味するので、金の価値は相対的に上昇すると考えられます。一方で金は価値がある有形物のため保管にはコストがかかるのに利回りがありません。
 そこで、短期的には金の価格がインフレを上回るなら魅力的と判断できます。また、長期的には通貨の価値が毀損されても、金の価値が完全に毀損されたことはないという歴史的事実から資産を防衛する観点からも魅力があるといえるでしょう。

3. 金投資の選択肢

 金はインフレ対策として有効であり、無国籍の通貨とみなすことができる資産だと分かりました。
 それでは、どの様に金に投資するべきでしょうか。

現物を保有する

 一番シンプルな方法は金の現物を保有することでしょう。例えば金地金や金貨、金で製造された製品などがあります。
 金現物は日本の税制上でかなりの優遇措置があります(※5, 税の専門家ではありません、詳細は国税庁サイト、税務署や税理士に確認してください)。
 金地金(Ingot)は金価格に加工費、輸送費などの手数料が加算された時価で取引されるため金価格との連動性が最も高くなります。一方で取引単位は1kg単位など大きいため高額の代金が必要になります。また、5~100gの少量の場合はさらに手数料が加算されます。
 金貨は法定通貨で金価格のみが低下した場合に法定の額面価格で使用できる場合がありますが、現在の日本で一般に存在する金貨は記念貨幣であり通常は額面よりも金の含有量が少なく通貨の信用で補うという欠点があります。金貨の金価格が額面を下回る想定はしなくてよいでしょう。
 金製品は指輪や時計などの装身具や仏具などがありますが、通常は加工費や流通の手数料分が割高であるため、投資対象としては魅力が劣ります。

※5

【余談】日本の高額金貨は10万金貨が2回、5万円金貨が1回発行されています。昭和61年から62年にかけて発行された「天皇陛下御在位60年100,000円金貨幣」、平成2年に発行された「天皇陛下御即位100,000円金貨幣」、平成5年に発行された「皇太子殿下御成婚50000円金貨幣」です。その後は令和4年までに20種類の1万円金貨と5千円金貨が1度のみです。

金積立など

 地金の購入には大金が必要です。そこで小口での取引用に純金積立などの名称で寄託(金を預かり保管する契約)するサービスもあります。
 例えば私が利用しているSBI証券住信SBIネット銀行にはそれぞれ純金を積立てるサービスがあります。また、三菱マテリアルなどの金鉱会社や貴金属の加工会社などがサービスを提供している場合もあります。金地金と同様の税制優遇が受けられます。(※5, 税の専門家ではありません、詳細は国税庁サイト、税務署や税理士に確認してください)

 これまで述べた金地金や金積立は行いませんので詳細は載せません。興味がある方は信頼のできる情報を収集しましょう
 一例として日本金地金流通協会の会員企業を参照する方法があります。

投資信託など

 金は投資信託やETF/ETCとして投資することが可能です。この記事で扱うサクっと純金は投資信託です。また、サクっと純金の投資先はETCです。

 投資信託などで保有する場合は、税制上は株式などと同様に譲渡益となるため、金地金の優遇措置を受けられません。一方でNISA制度内で投資する場合は非課税で投資可能です。また、課税される場合でも特定口座で購入できるため申告分離課税が可能で、源泉徴収ありの場合は確定申告が不要になります。(税の専門家ではありません、詳細は国税庁サイト、税務署や税理士に確認してください)

 一方で金に投資する金融商品にはいくつかのタイプが有り、国内で金の現物を保有する商品(例えばETFの1540)、国外で金の現物を保有する商品(例えばETFのIGLN)、裏付け商品がなく発行体の信用で金価格に連動するETNの性質を持つ商品(例えばIAUF)があります。
 金を単純なインフレヘッジとしてのみ保有するなら構いませんが、金融危機に備えるために保有するなら最低でも現物の裏付けのある商品を求めたいと考えます。

 裏付けがある金ETFとして日本から購入可能なETF/ETCはアメリカのGLDやIAU、東証の1540などがあります。
 しかし、前回述べた様にETFの商品の特性は投資信託に劣ると考えます。

 投資信託として、SBI証券のパワーサーチで検索すると金に投資できる商品は12銘柄存在しています。そのうち信託報酬が高いもの(0.55%以上)を除外すると7銘柄が選択肢として残ります。さらに3銘柄は為替ヘッジありなので4銘柄が残ります。
 この中で信託報酬が最も低いサクっと純金は幸いにも裏付け資産を持つETCをFOFで運用していたので、これを選定することにしました。

ペーパーゴールドのリスク

 一方でこうしたETFなどを経由して保有される金は、制度上は可能であったとしても引き出されることは通常業務ではなく、基本的には想定されてないと考えることができます。(例えばBloombergの記事)
 また万が一金融危機が生じたときには、富の奪い合いが発生します。外国の保管されている金にアクセスする手段が絶たれることも想定できます。一方で国内に保管されていても法改正等により不利益を被る可能性は残ります。その点では現物に優位性があります。
 しかし、現時点で現物を保有するためのセキュリティ対策コストは総資産や金の資産に見合わないので妥協することにします。 莫大な資産をお持ちの方はご自身の資産を守る方法を考える必要があるかもしれませんが、NISAの総枠を埋める見込みが経たない私は検討不要と考えますが、覚えておいて損はないでしょう。

4. FOFの投資先とサクっと純金の積立方針

 ここからは、サクっと純金の投資先について述べます。交付目論見書に明記されている様にiShares Physical Gold ETCをFOFで運用しています。

Figure 5 サクっと純金の特色 (交付目論見書(2023.5.25)より)

 ここからはiShares Physical Gold ETC (IGLN)について述べます。
 IGLNはLSE (London Stock Exchange)にUSD建てで上場されているアイルランド籍のETCで、先述したようにLBMA Gold Priceに連動することを目指し金地金を保有しています。
 経費率は0.12%で、金保有量は204.52t (6,575,504.46oz)になります。保管場所はJPMorgan Chase Bank N.A., London Branchと記載されています。State Street Bank and Trust Companyが管理しています。(Figure 6)

Figure 6 IGLNの重要事項 (As of 2024.2.23)

 比較的、平時においては信頼性の高い運用であると考えています。

サクっと純金の積立方針と今後について

 ここまで述べたように金は重要な投資対象であり、現在、日本で投資可能な金への投資信託としては、サクっと純金がベストだと考えます。
 そこでサクっと純金(為替ヘッジなし=Unhedged)を積立てることとしました。投資方針の記事で述べた比率や毎月積立の方針に変更はありません。
 今後ともサクっと純金に投資する(あるいは考えている)仲間と情報交換できたら嬉しいです。

6. 参考情報

金の情報

世界の金の保管庫

※4 のSource詳細

金に投資する商品の一例

免責事項

 この投資方針は、私の個人的な考えに基づき私の自己資産を運用するためのものです。記事中の銘柄・投資方法を推奨・勧誘するものではありません。投資は大きなリスクを伴うものです。投資する場合は自己責任で行ってください。
 市場環境や状況に応じて変更する可能性があります。その場合は𝕏に投稿する予定です。

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