【読書】異国を認識するには飲食必須
★基本情報
『スペイン旅行記―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)』
カレル・チャペック
筑摩書房 / 2007年3月7日発売
2022年7月5日 読了
★書籍の紹介文
カレル・チャペックの数ある旅行記のうちのひとつで、これは1929年スペイン周遊の際に書かれたもの。彼の見えているスペインを、歴史的に俯瞰しながら叡智に富んだ文筆で書き残している。目の前にいる人々、歴史的な著名人たちを向含め、異国の地で出会う人々への関心と文化への敬意にあふれている。文章の端々に、チャペックの故郷チェコへの思慕もにじみ出ている。チャペックの異文化への向き合い方が勉強になる本。
★3個の抜粋ポイント
1.世界のあらゆる民族は、サクソン人やブラン デンブルク人に至るまで、さまざまな手段や方法で、あるいは、さまざまなスパイス や調理法で、地上の楽園を実現させる道を求めている。そのため、じつにさまざまな 料理を、焼いたり、フライにしたり、燻製にしたりして作りだし、現世の幸せを得ようとしてきた。
どの民族も、それぞれ独自の舌を持ってはいますが、よい居酒屋や、リアリズムや、 芸術、そして精神の自由のような、上等で本質的な物事については、互いに理解し合えるものですから。 ア・ラ・サルード、乾杯。
2.スペインのダンス、それは鋭く切々たる弦のリズム、カスタネット、タンバリン、 ヒールの音、そしてなめらかな、漂う波のように踊る肉体のあいだの、神秘的でまさ にオーケストラ的な合奏である。
3.(歌声について)勤行あたかも、きらめく柔軟な刃が、変化する8の字や波形を空中に描くようである。 同時に、イスラム教の勤行時報係の叫び声のようでもあり、そして、とまり木にとまってなりたてている、歌に酔ったカナリアのようでもある。
それは野蛮なモノディ〔独唱歌〕であり、同時に妖魔のような職業的な名人芸であ る。その中には、おそろしく多くの性質が、ジプシーのエクソシズム〔悪魔払い〕の、 ある種のムーア文化の、束縛されぬ率直さの性質がある。
★行動ポイント
・異国を認識するためには、食べたり飲んだりしなければならない。
★好きなことば
・人生そのものが音高く響いている。だが騒々しくはない。 スペイン全土にわたって、わたしは喧嘩や口論や、荒っぽい言葉を、ひとつも耳にしなかった。それはおそらく、喧嘩とはナイフを意味するからだろう。 わたしたち北方の人間は、つねに喧嘩している。それはおそらく、互いにナイフを 振り回さないからだろう。
こう言ったからといって、わたしのことを悪く思わないでいただきたい。わたしは、 その両者のどちらが社会的に高度か、ということを申しあげはしない。
★ひと言まとめ
食べ物、建築、美術、音楽、町ゆく人々の様子について、生き生きと描かれているのが旅行記の良いところだと再認識。旅行ガイドやネットで話題の観光地を慌ただしく回るだけでは見逃してしまうであろう素敵な世界が、見事に書き残されている。チャペックの敬意と優しさにあふれる表現にすっかり虜である。
また、残存する遺跡や、いま見えている風景を見るだけでも、素晴らしいに違いないと思うけど、その場所にまつわる歴史・文化・人を事前に勉強していくだけで、見え方は全く違ってくるだろうと思う。どういう旅のスタイルが合っているかは人ぞれぞれ。
世界史好きの自分としては、次訪れる場所の事前学習はしっかりせねばと思った。