ボールも煮込みも旨い@三河屋(八広)
年末年始を小島屋でボールの締め明けをしたりで、ここ最近は堀切菖蒲園で呑むことが多かった。
仕事が一息ついた今夜は久々酎ハイ街道に繰り出した。気づけばボールは正月以来だ。一生懸命働いてるな、俺。
焼酎ハイボール(ボール)の元祖を謳う『三河屋』。
「我こそは元祖!」を語る店はいくつかある。まー色つきとはいえ基本は炭酸に焼酎ぶっ込んだだけだから、そりゃどこでも始められただろう。「江戸時代から出してるよ」とかじゃなければ大差ないはずだが、老舗がどんどん潰れているから希少価値となっている。ちなみに小島屋は、天羽入りの元祖と言われる。
引き戸をガラッと開ける。エル字の小さな劇渋カウンターを陣取る常連さんが、「お、新顔か」とチラリ。
その常連さんの間に入れもらう。
突き出しは味のないもやしにからし。オシボリもあるよ。
丸椅子に座って、女将さんに
「あ、ボールお願いします」
炭酸を1本注いだグラスに、サラダ油のボトルから焼酎をドボドボ。
琥珀色は薄め。その分、焼酎が濃いめだ。
「あーもう2杯で、酔っ払っちゃう」のは隣のお母さん、御年78歳。
オシボリをコースターにして、私も2杯目へ突入。ジョジョに酔いが回ってきたので、常連さんの談笑に混ぜてもらう。
「若いでしょ、若いよ。いくつ?」
「え、42ですよ」
「ほら、若い。俺の娘と一緒だよ。辰だろ?」
「あ、はい。辰年です」
サラリーマンなら管理職の年齢だが、酒場ではまだまだ蒙古斑。
「で、あれだ。下町の呑み屋なんか、回ったりしてるんだ」
「えーまー。このボールが好きで、なかなか他じゃ呑めないですし」
「まーな、ここは元祖だしな」
放浪記の収録で類さんのお相手をしたという常連さんがいろいろ教えてくれる。
腹が減ってきた。
「煮込みください」
「何、知ってて頼んでんの?」
「え、なんすか? 何かあるんですか?」
「いやさ、ボールと煮込みは、ここの1番と1番だからさ」
確かに、これは旨い! 下ごしらえをしっかりやっているんだろう。臭みもぜんぜんない。
「やっぱり豚より牛だろ」と常連さんもニヤリ。
牛モツを八丁味噌でこってりと味付けした名古屋風。牛の大腸や胃を下茹でした後、余分な脂や汚れをタワシで丹念にこそぎ落とし、ブレンドした味噌で2時間ちょっと。必要以上に煮込まず、一度冷まして味を染み込ませる。
「手間はかかるけど、絶対に目分量はしない。それが先代であるおばあちゃんの教えだから」と話すのは女将のいつ子さん。(『焼酎ハイボール倶楽部』より)
こういう誠実なメニューを300円台で提供してくれるのが酒場のいいところだよ。オーナーがベンツ乗ろうとか、チェーン化して楽しようとか考えてないから、こちらも気持ちよく酔えるってもんだ。
「よし、隣になったのもアレだ、一杯奢ってやるよ」
「えー、いいんですか! ありがとうございます!」
博打で結構勝ったという常連さんがボールを奢ってくれた。
すると別の常連さんが、
「はい、これ!」
ペロッと都こんぶをカウンターに出した。
「ほらー、これだから都こんぶの人って言われちゃうんだよー」
「わーーありがとうございます! なつかしー」
都こんぶをぺろぺろ食べながら、鐘ヶ淵駅まで歩いて帰った。
楽しい夜だった。
鐘ヶ淵駅をちょい通り過ぎて、復活したという「はりや」さんにも寄ってみた。
超絶おしゃれな店構えにビビってしまったよ。