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「地域と資本の翻訳者であれ!」 やんばるの未来を「行政×民間」で熱く語り合った

#私が感じたミチシルベ <土-1セッション>

寒さと緊張感の漂う会場で、登壇者の温かく、にぎやかな会話が始まりました。

沖縄国際大学で2025年2月8日に開催された「ミチシルベ2025」。
土会場(5号館204教室、11:30〜12:30)のセッションテーマは「沖縄北部 やんばるが持つ世界に誇る輝きと挑戦者たち」。

登壇者は、麻生要一さん、星明彦さん、斎藤潤一さん。常盤木龍治さんがモデレーターを務め、沖縄県本島北部のやんばる地域が持つ可能性と、それを活かした新しい経済の在り方について熱い議論が交わされました。

やんばるとは、本島北部の国頭村・大宜味村・東村の3村を指すのが一般的ですが、名護市や恩納村・金武町以北を含める場合もあります。豊かな自然と生物多様性に富み、日本の中でも特に独自の進化を遂げた自然環境を有する地域です。

この豊かな自然を背景に、新たな資本主義のカタチを模索する挑戦者たちが、持続可能な地域発展のビジョンを語り合いました。

本記事では、そのセッションの内容を紐解きながら、やんばるが持つ可能性と課題を探ります。

シリーズ「私が感じたミチシルベ」
学生・社会人の運営メンバーによるミチシルベライターが、トークセッションなどをレポートします♪

<トークセッション登壇者>

登壇者のプロフィールは下部の【登壇者紹介】をご覧ください。

<セッション概要の紹介>

◆テーマ「沖縄北部 やんばるが持つ世界に誇る輝きと挑戦者たち」
世界自然遺産への認定や、大規模テーマパークの開発などで脚光を浴びている沖縄北部・やんばる。コミュニティパーク「nagonova」をはじめ、多くの挑戦者たちがなぜ沖縄北部、そしてやんばるに目を向けているのか。アジアや世界から見た文化的特異性や潜在的価値を含め、具体的な事例や取り組みを紹介しながら、地域社会の変革と受容の「ミチシルベ」となるセッションを繰り広げました。
◆会場:土(5号館204)
◆時間:11:30〜12:30


自然と経済が融合する新しい資本主義とは

やんばるの特異性について解説した星さん(左から2人目)

やんばる地域は、独自の進化を遂げた生物多様性に富む地域です。

星さんは「やんばるには、日本で一般的な安山岩がなく、リンや窒素などの養分供給が不安定な環境が特徴で、その中で地域独自の産業と生活スタイルが発展してきた」と解説しました。

また、沖縄にある川の多くは北部に集中しており、水資源が豊富であることから、地域文化にも影響を与えてきました。例えば、海神祭(ウンジャミ)といった伝統行事も、こうした環境の中で育まれてきたといいます。

世界的にも珍しいこの環境は、持続可能な経済のヒントを提供してくれます。セッションでは、グローバル経済の中で失われつつある価値が、やんばるには今も残っており、それを活かすことで「新しい資本主義のカタチを築く可能性があるのではないか」という考えが示されました。

「本物の風景と文化を輝かせる」

地域課題の解決を農業分野で挑んでいる斎藤さん(右)

一例として、斎藤潤一さんは、農業を中心とした地域課題の解決に取り組みを紹介しました。

1粒1000円のライチ生産の経験を活かし、斎藤さんは現在、名護で効率的なイチゴ生産の方法を模索中です。「経済圏が発達しきっていない地域だからこそ、自分が関わる価値がある」と語り、本物の風景と文化を輝かせることの重要性を訴えました。

新たなスタートアップ文化を創出

「起業するなら名護しかない」と呼び掛けた麻生さん

麻生要一さんはこれまで、全国各地でスタートアップ文化を根付かせる活動に注力してきました。経営する「アルファドライブ」では起業塾を開催し、多くの起業家を輩出しています。

現在は、名護市宮里にある旧診療所を改装し、地域のコミュニティ形成を実施するCoconovaを買収・運営し、nagonovaという形で新しい企業文化の形成に取り組んでいます。

「名護を経済金融活性化特別地区として発展させるためには、地域の文化を尊重しながら、持続可能な経済を作ることが重要です」

麻生さんはこう語り、東京のビジネスモデルをそのまま地方に持ち込むのではなく、地域に寄り添った経済を構築することが活性化の鍵になることを強調しました。

長期的視野で、新しい資本主義の提案を

やんばる地域はポテンシャルが大きい一方、課題も山積しています。

例えば、登壇者らは2025年7月に開業予定のテーマパーク「ジャングリア」について言及しました。1000人以上もの雇用創出が見込まれるとの情報がある一方、その規模の新たな雇用を支えるための住宅や道路整備といったインフラが不足していると指摘しました。

近年、リゾート開発により地価や家賃が著しく高騰した宮古島の事例も踏まえ、アパートやマンションの賃料上昇など、地元住民への影響を懸念しました。

常盤木龍治さんは「名護にしかできない新しい資本主義を提案しなければならない」と語り、単なる短期的な経済効果ではなく、長期的な視点での開発が求められることを強調しました。

また、「良い食材(原石)を活かすことが国力に関係するのでは?」との考えを示し、地方ブランド強化の必要性を説きました。

地域と資本の架け橋になる

最後に斎藤さんは、名護アグリパークのビニールハウスを活用した農業の活性化と、ジャングリアとの連携による持続可能な経済圏の構築について語りました。

また、麻生さんは「名護での創業コミュニティをつくり、県内の起業率を30-40%に引き上げたい」とのビジョンを示しました。

登壇者たちは共通して「地域と資本の翻訳者」になることの重要性を強調しました。地域だけを優遇するだけでなく、資本家だけを優遇するのでもなく、両者のバランスを取る存在が必要だといいます。

また、口を揃えて「傍観者でいることを辞めてほしい」とのメッセージを伝え、地元の人々が主体となって新しい価値を生み出すことの重要性を訴えました。


最後に

沖縄北部のやんばるには、豊かな自然と文化があり、それを活かした新たな経済圏の創出が進んでいます。セッションを通じて、地域の価値を理解し、持続可能な発展を目指すことの重要性が浮き彫りになりました。

起業家たちの挑戦は始まったばかりですが、その歩みはやんばるの未来に希望をもたらしています。名護をはじめとする北部地域がどのように発展していくのか、今後も目が離せません。


【登壇者プロフィール】 

<モデレーター>
常盤木 龍治
(沖縄のIT番長|DX軍師。|うむさんラボ執行役員|琉球アルファドライブ Co-Founder CSO)
EBILAB|岡野バルブ製造|クアンド|ZENTechをはじめ様々な事業会社初のDXやプロダクトに携わる。コザスタートアップ商店街に数多くの企業や関係者を誘致し今のコザのスタートアップシーンを育成。沖縄県DX人材養成講座のメイン講師としても著名。2024年には琉球アルファドライブを立ち上げ、沖縄北部地域での事業開発者推進者の育成および地域との交流を加速。地域地方が持つ元来の価値と新たな価値の接着点となる活動を続ける。

<ゲスト紹介&メッセージ>
麻生 要一(起業家・投資家・経営者/琉球アルファドライブ 代表/琉球大学 客員教授/沖縄ITイノベーション戦略センター アドバイザリー・フェロー) 
筑波大学付属駒場中高、東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルートへ入社。社内起業家として株式会社ニジボックスを立ち上げ、創業社長として150人規模まで企業規模を拡大。リクルートホールディングスの新規事業開発室長として1500の社内起業家チームの創業と、起業家支援オフィスTECH LAB PAAKの所長として300社のスタートアップ企業の創業期を支援。2018年に起業家に転身。株式会社アルファドライブ、株式会社ゲノムクリニック等を含む複数の企業を同時に創業。新規事業支援会社であるアルファドライブは、2019年にユーザベースへ全株式を売却後、2023年にユーザベース自身がファンド傘下へのTOB・非公開化した流れを受け、2024年に全株式を買い戻し手度カーブアウト。アミューズ社外取締役、アシロ社外取締役などプロ経営者として複数の上場企業の役員も務める。投資家としてはベンチャーキャピタルであるファーストライト・キャピタルのベンチャーパートナーとして、また同時に個人投資家としても活動し、創業期の起業家を中心として30社を超える投資実績を持つ。創業期特化型の起業ブートキャンプ「ゼロからの起業」を主宰し、これから創業する段階のまさにゼロからの創業を支援。著書に「新規事業の実践論」。2020年より起業家アーティストとしての活動を本格化し、2022年には沖縄スタートアップエコシステムの中心地であるコザ地区にKOZA ENTREPRENEUR ART GALLERYをオープン。作家・アートプロデューサー・音楽プロデューサーとしても活動。

◆斎藤 潤一(AGRIST株式会社 代表取締役/一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 代表理事)
1979年大阪府生まれ。シリコンバレーの音楽配スタートアップでクリエイティブ・ディレクターとして従事。帰国後、表参道でデザイン会社創業。東日本大震災を機に「ビジネスで地域課題を解決する」を使命に活動開始。全国の地方創生プロジェクトに携わり2017年、新富町役場が設立した「こゆ財団」代表理事に就任。1粒1000円ライチの開発やふるさと納税で寄付金を累計100億円以上集める。起業家が集まる街になり総理大臣官邸にて表彰。2019年、自動収穫ロボットを開発するAGRIST株式会社創業。国内外20以上のアワード受賞。2024年、ローカルスタートアップを産官学で支援する(一社)ローカル・スタートアップ協会設立。

星明彦(内閣府沖縄総合事務局 運輸部長│沖縄観光総合施策推進室長)
沖縄の観光・交通政策の発展と皆様の心豊かな未来を陰ながらお支えできたら嬉しく思います。今回、一つでもそういったことに繋がる何かを持ち帰って頂きたいと願い、大変僭越ながらご一緒させて頂きます。

【この記事を書いた人】

山本望晴(やまもと みはる)
2003年静岡県沼津市生まれ。名桜大学国際学群に進学。大学では社会学を専攻し、学習障害に対する教育法の提供や乳幼児期の性認識について研究している。貧困問題・学力格差解消を目的とした無料塾土EAMの代表や沖縄の社会課題エンターテイメント化を目的とした沖波祭というイベント運営の部署ディレクター、営業・SNS運用・ラジオ局・保育業界を経験。こども家庭庁が実施する子育て支援員研修を通し、現在は保育業界を軸として子どもたちから与えられる幸せの連鎖を絶やさぬよう学生と保育、企業と保育の連携を目指し活動している。

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