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これって運命かも?/48歳バツイチだけど運命の人に出会った【11】

女ひとりで生きてくつもりで田舎でカジュアルバーをはじめた「私」は、店に来た58歳の「たー君」と付き合うことに。たー君といると不思議なことがたくさん起きますが……。

ふだんの日はたー君が食材買って料理してくれるのですが、休みの日の外食代はなぜか私持ち。

たー君が出してくれることもありますし、ワリカンのときもありますが、それはたー君の気分次第なので、外食する前に「パチンコで負けた」なんて言われると、

「ああ、今日は私持ちか……」

……とガックリします。

たー君が好きな外食は寿司、焼肉なので、出ていく金がハンパじゃないんですよ。いくら店やってるっていったって、客単価2000円程度の店で儲けなんか出るわけがありません。

外食するなら近所の「かっぱ寿司」か、おばちゃんが一人でやってる焼鳥屋でいいんです。安いから。二人で5、6千円ていどで済むなら喜んで払いますとも。

でも、行くところ決めるのもたー君の気分次第なので、毎回「寿司じゃなきゃいいな……」とか思いながら、アパートに行くわけです。

店出した時に金融公庫からお金を借りているし、お客さんの少ない月でも公庫の支払い、家賃、光熱費は出ていくわけです。いくら私がローンを払ってる身だからゼイタクできないんだ、と力説しても、

「お前はいつも金、金、金だ!」とか言われて終了。

ええもう、多少はあった貯金もすぐに底をついてしまいました。

これというのも、たー君の食事がゼイタクなせい。つきあいはじめてからハマった「旅行」のせい。

おかしいな。一人だったときは貯金もできてたのにな。なんで男できると金がなくなるんでしょうね?

ホントにヤバい状態になってきたので「別れたほうがいいかな」などと考えたりすると、なぜか外食代全部出してくれたりするんですよね。

たー君、私の考えてることが読めるんだから、ホントの経済状態もわかってるんじゃないの? 

……もし、そうならすっごい嫌。

つきあいはじめて半年ぐらいたった頃だったと思いますが、その日もどこに食べにいくかでモメていました。

前の週もその前の週も寿司だったから、私は「寿司以外。できたら和食」と言ったんです。すると「和食か……」とめずらしく私の意見を聞いてくれそうなカンジのたー君。

「どこかいい店あるか?」と言ってきたので、

ここぞとばかりに行きたいと思っていた和食屋や創作料理の店などを挙げます。

しかし、

和食屋Aは、昔の女とよく行ってたからダメ(私は構わないのですが…)、

創作料理Bは、コジャレ料理だから嫌、あと私の店に近いからダメ(私は構わないのですが…)、

割烹Cは板長のお父さんと昔モメたことがあるからダメ(私は構わな……)、

私が名前を挙げる店、挙げる店全部ケチをつけてきます。ったく。

めんどくせー!

「じゃあ安兵衛(仮名)はどう?」
ふいに、昔のバイト先が頭に浮かびました。

安兵衛は創作居酒屋で、全席個室なのでけっこう人気がある店です。私はBL小説を書きながら週に2、3日、小説の仕事を辞めてからは週4日出ていました。小説の仕事に見切りをつけて、自分で店をやろう、と決心したために辞めたのですが、2年くらいは居たと思います。

安兵衛を挙げてみたはいいが、どっちかっていうと女性に人気がある店だし、たー君が好きそうな料理はあんまりないかもしれない……と思っていたら、彼は意外なことを言いました。

「安兵衛か……。あの店にはだいぶ世話になったんだよな。震災の前の年あたりからよく電話くれて……」

たー君が運転代行の会社を始めて数年後で、あまり仕事がなかったとき、よく電話くれたのが安兵衛だというのです。

そして東北大震災が起こります。

私の住んでいる街は東北でも被害が少なかった所ですが、それでも様々な影響はありました。飲食店なんか大打撃で、私の働いていた安兵衛も例外ではありません。団体客はほぼ全滅、個人客が何組か、という日が続きました。それは飲食業界全体がそんな状態だったと思われます。

そしてたー君の運転代行社もそのあおりを食らい、一日に一本も電話が鳴らない日がつづいたそうです。

「なんでか知らないけど、安兵衛がよく電話くれて。それがなかったら、俺の会社はつぶれてたかもな」

「電話したの私」

「え………」

そう。
震災の前の年から、たー君の会社に電話してたのは私だったのです。

その当時、私はバイト先と家の往復だけで、繁華街へ飲みに行くということもしていませんでした。ましてや、その2年前に地元に帰ってきたばかりの私が、運転代行の会社を知っているわけがありません。

居酒屋のお客様が代行の会社を指定してくれるならいいのですが、「どこでもいい」という人もけっこういます。しかも「早くて安いところね」なんて言われると、地元の情報にうとい私にはプレッシャーになるわけですよ。

とりあえずフレンド代行というところが一番台数が多いことは覚えたのですが、やはり人気あるらしく、曜日や時間によっては一時間待ちになることもざらです。それで次にかけていたのが、たー君の「スマイル代行(仮名)」でした。

このスマイル代行、とにかく早い。ほかの代行が1時間待ちでも「10分で行きます」とか言うんですよ。今思えば、知名度なくて仕事も少ないから早いんだよな〜。

でもスマイル代行を時々呼んでいたら、ある日、お客様にこう言われたんです。

「こないだ呼んでもらったスマイル代行良かったよ。安いし運転もうまいし。ありがとね」

……この言葉がきっかけになって、それから私はフレンド代行より先にスマイル代行に電話することになったというわけです。

そして、その電話を取っていたのはたー君だった。

初めて会った日。スナックにいた男性が「隣の男、スマイル代行の社長だろ?」と言ったとき、なんだか懐かしいみたいな気持ちにさせられたのを覚えています。

まさか、あの時よく電話してた代行の社長と(しかも電話取ってたのもたー君だった)つきあうことになるとは思ってもみませんでしたけど。そんな告白を終えて、見るとたー君は固まっています。

つきあいはじめて半年、ケンカすると、

「なんであの時、お前の店に入ったのかわからない。お前なんか全然タイプじゃないのに」

……などと言われます。

花火大会の日で仕事が忙しいはずなのに、なぜ休んでいたのか。それがたー君にはわからないらしいのです。

そして本当は、私の店の2階にある店に入ろうとしたはずなのに、なぜか私の店に入ってしまった。その理由もわからない、と言います。

でも、これって……

私が考えていたことを、たー君が口にしてくれました。

「運命かもな」

つづく

(本当の運命的なストーリーはこれから!)

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