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気持ちの悪い男/48歳バツイチだけど運命の人に出会った【14】

女ひとりで生きていくために開いたBARに訪れた「たー君」と付き合うことになった「私」。10歳年上だけど子供っぽく、いろんな不思議なところのあるたー君に翻弄されている私は……。


たー君はもう60歳なので、そろそろ仕事から引退することを考えています。

「65歳まで働いたら会社は人に譲り、あとは会長としてこづかいをもらいながら楽隠居する」という老後のシナリオを描いているようです。

しかし、誰に跡を継がせるか?

昨日のnoteに発達障害気味の江藤君と、オラオラ系の阿部君のことを書きましたが、彼らはまだ若いし社長という器ではない。
たー君は私と同じくらいの年齢の曽我さん(仮名)が最有力候補、だと言うのです。

自分が乗る車のメンテナンスもろくにしない従業員が多い中、曽我さんはよく、たー君に、

「ブレーキランプ切れてたんで替えときました」とか

「●●屋のポイントカードいっぱいになったんで持っていきました」とか、やたら気がきく人なんですよね。

江藤や阿部よりはまともだけど、私、どうもこの曽我さんが好きじゃないんですよ。生理的に嫌というか、なんか受け付けないカンジ。

だからたー君が「曽我に跡継がせる。アイツは自分で商売もしたことあるし、気が回るからピッタリだ」と言うのを、嫌だなぁ、と思っていたのです。

私は自分の店を閉めた後、近くのスナックや友達のBARに行くことがあるのですが、そうなると帰りはもちろん、たー君とこの代行を呼ぶわけで。ある時、スナックで飲んでいたら、迎えに来たのがその曽我さんだったんですよ。

ところが店のママと知り合いだったらしく、曽我さんはずっとしゃべってるわけ。

おー、元気か。俺、今スマイル代行にいるんだよ。そういえば●●は元気か?
……ってテンション高く話すけど、話が長い。

スナックだし、お客さんはみんなママ目当てです。客でもない代行の運転手がママと長話なんかしていいわけないんですよ。
微妙な空気を察して、私は「曽我さん、鍵!」と割って入るくらいの勢いで、鍵を押し付けました。

なんだろう、この人。
これでホントに「気が回る」の?
たー君の会社の看板背負ってんだから、お客さんのところで長話するってどうなのよ?

しかも、車に乗り込んでからも、やたらペラペラ話しまくる。さっき居たスナックのママと、曽我さんの別れた奥さんが同級生だとか、ママが昔働いていたスナックによく行ってたとか。

あと「●●と友達で~」って言うのがやたら多い。さっき店に居た●●興行の社長と友達で~とか。友達だっていう社長、曽我さんに振り返りもしなかったんですけどね。

それから、私のことも妙に持ち上げるわけ。

「いや~今時は栄町(一番の繁華街)でもどこも客入ってないのに、ママの店はすごいですね~」とか。
向こうは「社長の彼女」である私を気遣ってそう言ってくれてるんだろうけど、なんか薄っぺらいカンジ。本気で言ってない。

●●(地元の名士とか有名店のママとか)と友達、っていうのも、何も自慢することがないヤツの常套句だから。

だいたい、男って自慢しいなんですよ。

地元出身の有名人がいれば「アイツは俺が教えた」とか、地元になにか有名な建物でもあれば「あれは俺が市長にかけあったからできた」とか。

この辺りはいいんですよ。実際に先生だったり、その人自身が地元の名士だったりするので。嘘吐けばたいていバレるし。

もっとワケわかんないのになると「このあたりのスナックのストーブは俺が全部直した」とか「ヤクザの情婦とデキて小遣いもらってた」みたいな、リアクションに困る自慢話とかする人もいるんですよね。

で、一番ショボイのが「●●と友達」自慢。
自分の話じゃなくて有名人と友達だっていう自慢。実際に友達でも何でもなかったりするとサイアクですよね。

後日、また私が友達のBARに行ったとき、曽我さんが迎えに来たことがありました。
今度はカウンターの一番手前に座っていた若い男子を知ってたらしく、

「おー、元気かー!」

……なんて、また話しはじめたんですよね。そしてまた話が長い。私がイラッとして「曽我さん鍵!」と押し付けると、やっと店の外に出ました。

その時、私の隣にいた、あるスナックのママが私の耳元で囁きました。

「あいつ、やべーヤツだよ」

あいつ、って曽我のこと?

その理由を聞けないまま車が来てしまい、私は車に乗り込みました。曽我さんはいつものようにペラペラと話しはじめます。

「いやー、さっき居た店の客、ほとんど俺の友達だったな」

は?

曽我がしゃべってた若い男子は、元々別の代行社で働いていた時の同僚だそうだからいいとしても、

「やべーヤツ」って言ってたスナックのママが友達のはずはなく。

それに、カウンターの奥にいたのは、別のBARの従業員で私の友達。地元出身ではなく、車もないので曽我が友達のはずはない。その隣にいた年配の男性はウチにも来てくれる人で、近所だから代行頼むはずもないし、テーブル席にいた若者四人組は、曽我を振り返りもしなかったわけで……。

ていうか、テーブル以外は全部私の友達か知りあいだから、曽我の友達なんかじゃないのは解りきってるんですが。

何なの、この人?

おしゃべりはまだいい。調子がいいのも許す。

しかし、ここまで嘘つきだとどうなのか。どうでもいい嘘だけど、気持ち悪すぎる。

「なんか嫌」ぐらいだった私の曽我に対する不信感は、次第に色濃くなっていくのでした。

つづく



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