嘘つき男が正体を現した。/48歳バツイチだけど運命の人に出会った【17】
登場人物
私 48歳バツイチ、BAR経営者
たー君 58歳。私の彼氏。運転代行社社長
曽我 47歳 代行の従業員。頭は回るが嘘しか言わない。
原口 42歳 代行の従業員。勢いだけのバカ。
晴彦 40代前半 代行の従業員。暗い。
私の店にたー君の会社の従業員原口が、ひどい酔っ払って入ってきた件は昨日書きました。
「岡崎(たー君)はバカだ! 俺は金なんか払わねぇ!」とクダ巻いてめんどくさかったので「岡崎ならスナック『あずさ』にいるよ」と言ってしまったが為、たー君が原口に殴られたわけですが。
自分が居場所を教えてしまったせいで……と青くなっていた私ですが、それ以前にたー君の様子は? もしかしてケガしたの?
おそるおそる聞いてみると。
「ケガしたのは原口のほう。俺はなんともない」
そこまでは電話での話。アパートに戻ってきたたー君は、詳しく話してくれました。
「あずさ」で楽しく飲んでいたたー君とマキ子さんがそろそろ帰ろうかという頃に、いきなり原口乱入。なにごとか喚きながらたー君に殴りかかってきたそうです。
いきなりだったので、たー君は頬に軽くパンチをくらったけど、相手が酔っ払いなのでたいしたことはなく。
そして反撃。
原口の顔に一撃! そして胸元に一撃!
原口は鼻血を出してダウンしたそうですが、ま、正当防衛ってことで。
「いや~。俺もまだまだ捨てたもんじゃないな~」
昔はワルかったとはいえ、たー君はもう60。原口はたー君より15歳は年下でオラオラ系です。その原口を倒したことでたー君ご満悦。
……なので、私が居場所をバラした件は不問になりました。
「あずさ」は昔からたー君の代行社を使ってくれてるし、身内のことなので警察沙汰にはならなかったんですが、後日、原口はアバラが折れていたことが発覚。それ以来、たー君にナマイキな口をきくこともなく、なんとなくおびえた態度になったそうです。
でもね。
いくらなんでも自分のところの会社の社長にいきなり殴りかかるってありえないよね?
原口は口ばっかりのバカ野郎だけど、そのバカがたー君のことを「バカ」と思う根拠は?
この前、事務所で暴れた元従業員といい、あまりに暴力沙汰多くないか?
曽我が「金払え」って言ってきた件といい。
そんなことを考えていたある日、再び「爆サイ」に書き込みがありました。
(以前の話はこちらを参照)
「スマイル代行の社長(たー君のこと)に代行料金が高いと文句を言ったら車蹴られた」という書き込みはもちろん事実ではないし、営業的にどうか、ということで削除依頼を出しました。
三か月くらい後にスレッドごと削除されたのですが、その後も新しい「代行スレッド」が立ち上がっており、私は不定期にですが、チェックしてたのです。
すると今度は「スマイル代行は白タクやってる」という書き込みがありました。
白タクとは、白ナンバー(自家用車)でお客様を運び金銭を受け取ること。タクシーと運転代行はまた免許がちがうので、お客様の車を代行社が運転するのはいいが、代行社の車でお客様を運ぶのはダメ。
つまり、代行社の白タク行為とはそれを指すわけです。
もっとも、ダーさんはタクシー会社を営業できる「運行管理者」の資格も持っているので、申請すれば「タクシー代行」の会社にすることはできるのですが、まあそれは置いといて。
この書き込みもさまざまな疑念が湧きます。
ダーさんがスマイル代行を起ち上げた当初は、もう一人共同経営者が居り、その人が日中、白タクやってたんですよね。タクシーじゃないのに、お客を自分の車で運んでたらしい。
そりゃ、会社関係なくお客を運んでたら、まるまる懐に入るしオイシイでしょうよ。
でも、それがバレると会社が廃業に追い込まれる。免許がはく奪されるわけです。
せっかく起ち上げた会社を潰すわけにはいかない。たー君は何度も共同経営者に話をしたらしいが、白タクが辞められず、やむを得ずたー君はその人を切ったのだそうです。
しかし、それは10年近くも前の話で、白タクのリスクを知っているたー君がそんなことをするわけがなく。
書き込みが事実だとしたら、たー君以外の誰かがやっているということです。
その頃私は、ほぼ毎日たー君宅に帰っていたのですが、日曜はたー君は休みで私は店の営業があります。なので日曜だけは自分の家に帰っていました。
月曜日は私も休みなのですが、ほとんどたー君と毎日いるので、たまにはほかの人と飲みたくなるわけですよ。
で、ある日の日曜日、私は店を閉めてから朝方までやってるスナックで飲んでいました。すると、
「スマイル代行です~」
なんて声が聞こえたんですよね。
たー君は仕事が切れるとさっさと営業を終わらせるので、週日でだいたい二時、週末でも三時くらいまでです。それが、ヒマな日曜日の深夜三時に営業している。
そこで「おかしい」と思えば良かったのに、酔っ払いなので深くは考えなかったんですよね。せめて運転手の誰が来たのか見ておけばよかったのに。
つまりどういうことかというと。
たー君は休みなので、お客様からの電話も従業員が受け取ります。その従業員は二時で営業を終了したように見せかけて、もっと遅くまで営業していたとしたら。
たー君に渡す営業日報には実際二時までの分を書き、その後に走った分は自分の懐に入れたとしたら……丸まる儲けですよね。いや、それって横領だから。
それから現在は無線を導入しているのですが、当時、連絡は携帯でやっていました。ところが、電話してもなかなかつながらない運転手がいる。
もしくは、いい加減お客様を家に届けている時間なのに「お客がなかなか店から出てこない」などと言って、一件走るのにやたら時間がかかる運転手がいる。いかにも会社から指示された仕事を走っていると見せかけて、個人の携帯で仕事を請け負って、それを会社に報告しないとしたら。
これも横領です。
それと、こんなこともありました。
たー君が仲良くしてる別の代行社の社長から、
「お前のところ、最近A町まで手を広げたのか?」
……なんて聞かれたことがあったそうです。
A町は近隣の町ですが、市内からそちらへ走るとなるとロスがあるので、市内からA町という仕事は請け負っても、A町内、もしくはA町からという仕事は請け負っていない。
それなのに、たー君の会社の運転手がA町内の居酒屋に仕事で来ていた、という話になったそうです。
その運転手というのは、私が嫌っている曽我でした。
やたら愛想がよく、テンション高く話かけてくるけど、目が笑っていない。そして話のほとんどが嘘。
たー君にはヘコヘコするのに、下っぱには高圧的。ヤクザと繋がってると嘯く。しかも、知り合いの社長がA町で曽我を見た日は、彼は休みの日。
つまり、曽我は休みにもかかわらず「スマイル代行」を名乗って仕事を請け負っていたのです。会社の名前を出しているにも関わらず、彼はお金を会社に入れたわけではなく、全額自分の懐に入れている。たー君の会社名を使って、勝手に商売していたということになります。
運転代行は、二人一組です。
お客様が飲んでいる店に行って車の鍵を受け取り、二種免許を持っている運転手がお客様の車を運転して家まで届けます。
曽我が不正したとしたら、もう一人共犯者がいることになります。曽我よりずっと長く働いており、電話取りもさせていた晴彦が共犯でした。
次第に明らかになる曽我の不正。
しかし、それはまだ氷山の一角だったのです。
つづく