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ピンクのシャンシャンに会いたかったの(週報_2019_06_20)

先週、6月12日に上野動物園のパンダ、シャンシャンが2歳を迎えた。
私は一度だけ、シャンシャンを観に行ったことがある。
まだ観覧がネットで抽選制だった頃のことだ。


なんでこんなにパンダが好きになったのか、実をいうと何も覚えていない。
母の思い出話の中に『上野動物園に行った日がちょうど休園日で、私が”じゃあ下の動物園に行こうよ”と泣いた』というエピソードがあることから、きっかけはそのあたりにありそうな気もするが、真相は竹藪の中に、パンダだけにね、なんちゃって。

私の一生の夢は中国のパンダ抱っこツアーに行くこと。
中国成都のパンダ抱っこツアー、パンダのコンディションによっては現地に行っても抱かせてもらえない日もあるらしい。
私の死ぬまでにしたい100のことにはまだ『パンダを抱きたい』しか書かれていない。



シャンシャンが生まれてからというもの、休日はシャンシャンのライブカメラをずっと見ていた。
当時のカメラロールはシャンシャンのライブカメラのスクショで埋め尽くされていた。

ピンク色のシャンシャンに会いたい。

そう思い、何度も何度も抽選に応募したけれど、結果は落選続き。
そこで私は考えた。

現地で当選した人に同行させてもらえばいいじゃん、と。





シャンシャンの観覧応募は最大で5名まで。
私も当選したら誰か誘えるようにと5名で応募をしていたので、同じような心理で最大人数で応募し、枠を余らせている人がいるのではと予想したのだ。

だとしたら、あとは当選者とマッチングする方法を考えるのみ。
事前にネットで探すよりも、現場で探す方がずっと効率が良い。
そこで私が出した答えはこれだった。

※画像はイメージではありません


渾身の作ではないだろうか。
ここで熱心な週報読者(いないよ)は疑問を持ったことと思う。
あれ?るんみち、ファミチキも買えないほどにコミュ障では?と。

そう、私はコミュ障。
ただ私のコミュ障はバランスが悪い。
ファミマ店員に「ファミチキください」は言えないが、ファミマの前で「ファミチキ買ってください」のボードを持って立つことはできる、そういうことなのだ。



出来上がったボードを持って、翌日私は上野動物園に向かった。
現地は既に上野公園あたりから、多くの警備員が出ていて、明らかにシャンシャン客の整備のために増員・配置されている様子である。

これは警備員に目をつけられた瞬間にゲームオーバー。
しかも当時私はシャンシャンになりたくてピンク髪だった。
め、目立ちすぎる。

動物園に背を向け、警備員の死角であることを確認しながらそっとA3のボードを開いた。
平日で一般客こそまばらだが、校外学習の小学生と思われる集団がジロジロとこちらを見ている。

あまり視線が集まると警備員が不審に思いかねない、ピリピリしていると駆け寄ってきた1人の女の子がこう言った。

「私たち、5人分当たってるんですけど、4人なんです。よかったら入りますか」

と。

なんと、開始3分で同行者を見つけてしまった。
男子1名・女子3名の大学生のグループが、こんなにも怪しい私に声をかけてきてくれたのだ。

「最初、新手のYoutuberかと思いました」
声をかけてくれた女の子は笑った。

一緒に入園すると、すぐにシャンシャンの観覧列を整備するためのスペースが目に入る。
「当選してるの、12時の回なんです。整列開始まであと30分くらいあるんですけどどうしますか?」

ここでコミュ障の私は、とんでもないミスを犯すことになる。
時間が決まっている上に、彼女たちはシャンシャンを見るために上野動物園に来ているのだから、その場で待ち合わせればよかったのだ。

「一緒にまわってもいいですか?」

・・・・・・!!!
そう、私はコミュ障をこじらせすぎて人との適切な距離感を見失う人間だったのだ。
親切な彼らは、なぜか知らないおばさん(しかも頭がピンク)を連れて、園内をまわることに…。

その上、何より私の悲しいところは一瞬狂っているのにもかかわらず すぐに正気が戻ってくるところで、この日も一緒にまわる宣言後5分、なんかわからん派手な鳥の前で『これ絶対パンダの前で待ってるやつだったな』と気付いてしまい、30分間とても気まずい時間を過ごした。
誰も得をしていない。

4人の最後尾について、過不足なく相槌を打ちながら鳥類に夢中で写真を撮りまくる人の役を演じた。
みんなすごくいい子で、無類の鳥好き(を装った)私にも話しかけてくれ、謎の30分が過ぎた。

指定の時刻に、シャンシャンの整理列に並んだ。
ほどなくして警備員が拡声器でアナウンスを始める。

「ダフ屋行為、当選券の売買、空いている枠に同行する行為も全て不正とみなし、
 グループ全員に退場していただきます」


・・・・・・!!!

まずい。
私が他人とバレたら、この、気のいい大学生たちが不正とみなされ退場させられてしまう…!!!
そんなことはさせられない、と私は必死で大学生に擬態した。
先ほどと打って変わって陽気に話しかけてくるピンクのおばさんに彼女たちは恐怖しかなかったと思うが、すまん、これは君たちのためでもあるのだ…許してほしい…。

整列開始から20分ほどでシャンシャンの前まで進むことができた。
シャンシャンは高い木の上に座ったまま眠っていて、1mmたりとも動かず、なのに私はその動かないシャンシャンの写真を、大きくしたり小さくしたりして、何枚も撮った。

そうか、この木はライブカメラの死角にあるから、最近シャンシャンがどのカメラにもいないなあっていうときはここにいたんだね。
もうカメラでは写らないほどに、ほんのりピンクのシャンシャン。

大学生グループの中でも派手めな女の子が「動物園なんて小学生ぶりだし、誘われなきゃ来なかった」なんて言っていたのに、いざシャンシャンを目の前にしたら「…かわいい…!」と呟いて目を大きく見開いていたのが印象的だった。

かわいい、というだけで見る人をここまで感動させ、無条件にこれだけの人間に「すこやかに育ってほしい」と思わせる存在がいること。
その平和さ、幸福さを思ったらいつの間にか私は泣いていた。
さっきまで突然陽気に話しかけてきたピンクのおばさんが今度は泣いている。
もう…本当に怖かったと思う…すまん…。

お一人様1冊限定のシャンシャンの記念小冊子を手にし、観覧列の出口で気のいい彼らとさよならをした。
本当にありがとう、いろいろ怖い思いをさせてごめんね!



ちなみにこの翌月からシャンシャンの観覧は当日先着順になった。
うん、待てば見れたね。
いいんだ、ピンクのうちにシャンシャンに会いたかったんだから。



成都のパンダ抱っこツアー。
本当は一度だけ、手が届きそうになったことがある。
数年前にアパレルの管理職をやっていた頃、同じく管理職だった彼氏に「お金も余裕できたし行こうよ」と言われたのだ。

その誘いを私は、全力で断ってしまった。
死ぬまでにやりたいことがこんなに早く叶ってしまったら、その後どう暮らしたらいいかわからなかったからだ。
そんなことを言っているうちに いつの間にかその彼も遠くに行ってしまい、そして私は仕事を辞め海外旅行なんて考えられないくらいに貧しい暮らしをしている。



人生のデザートは最後に食べたい。
でももし次にチャンスがあるなら、それがデザートの時間なのかもしれない。
今度は抱きに行きたいな、パンダ。

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