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見知らぬ男たちと武道館を目指してバンドを組んだ(週報_2019_03_23)
母の病院が、シンプルに遠い。
休みごと、長時間の電車移動で疲労はかなり蓄積していて、ここのところ昼夜問わずずっと眠い、ずっと体調悪い。
明日やろう明日やろうって毎晩眠りに落ちる間際まで思っているし、シフト勤務の弊害か週のどこにもリセットがない感覚で常に気忙しい。
それなのに、それだから?飲みに行く回数が確実に増えた。
noteで知り合った人には相当の酒好きだと思われているようだが、私は本当はあまり飲めない。
いつも頼むのは甘めの弱いお酒だし、自分が弱いのを知っているから量も調整しながらのんびり飲む。
だから1晩で、使っても2000円ちょっとくらい、時間が長ければ3000円飲めるかどうかくらいだ。
私には一緒に食事をしたりショッピングをしたりする友達は1人もいないので、ジョークではなく本当に何十年と生きてきてそういう友達が1人もできなかったので、
週に1~2回ほど、数千円の気晴らしをするくらいの支出は許されたらいいなあ(誰に?)と思いながら始発に揺られている。
私の行きつけの店は閉店が2時と、周辺の店に比べると少し早めで、それでもお客さんが切れないときは3時近くまで飲ませてくれることが多い。
そこから5時の始発までが、ある意味私のネタ拾いの時間であると言える。
嗅覚としか言いようのない私の特有の力で、誰かについて行ったり、ついて来られたりする。
駅まで何も起きなかったときには、新宿駅で一番早く開くシャッターの近くのトリキに行って、温かいウーロン茶を1杯飲んでぼんやりする。
ビル9階にあるその店は、いつ行っても(うそ、いつも深夜しか行かない)空いている。
韓国の子なのかな、細面の女の子がほどよく静かで他のお客さんと目が合わない席に通してくれるのも気に入っている。
先日、気まずいことに2日連続で何も面白いことが起きず、トリキまで到着してしまった。
昨日と同じ席に通される私。
ニコニコと懐っこい表情を見せる彼女に、少しだけ嫌な予感が的中する。
「お客様、お元気ですか?」
彼女が初めて話しかけてきたのだ。
その親しみを込めた声掛けに、嬉しさ反面、これから人目を気にせずくつろぐことのできる場所がなくなってしまうのかと複雑な気持ちになる。
「うん、元気だよ」
にっこりと私も笑い返す。
「お仕事…おそく…※△%□…」
普段、ラストオーダーの有無くらいしか会話をしたことがなかったので気付かなかったが、彼女の話す日本語が全く私に伝わらなかったのでびっくりして笑ってしまった。
きっと最初の「お元気ですか?」も、ニュアンスで言ったら「オゲンキデスカ?」のレベルだ。
まだもう少し通っても、めちゃくちゃ仲良くなることは難しいだろうと思ったら急に優しい気持ちになるから私もいろいろ拗らせてるなあと思う。
カタカナで書かれた彼女の名前が小さな鈴の音みたいで可愛いと思っていることも、私たちの間に伝え合う手段が何もないんだなと思うと、少しだけ寂しいような。
昨日も同様に、2時半くらいでいつものお店を後にした。
給料日前だからか、週末だというのに人通りはまばらだった。
終電後はゴールデン街横の小道は通らないように、交番側の道から帰る。
小道の方にはキャッチの黒人たちがいるので塩梅が良くないのだ。
ちょうど交番前、今日は随分冷えるなと上着の袖に指を縮めしまいこんだ時だった。
後ろからなんとも言えない独特の張り上げた声で
「おねえさん!ぼくたちのバンドのボーカルになってくれませんか!?」
と声をかけられた。
声の主はロシアン帽を被った年配の男性で、その後ろにはやれやれといった表情の外国人と思わしき男性がいた。
2人は年齢も国籍も身長もバラバラで、共通しているのはギターケースを背負っているということだけだった。
「ぼくたちと組んだら10年で武道館!行けるよ!」
まだ一言も発声していない私をボーカルに迎えようとする気概のある(?)男はおかまいなしにまくしたてた。
「花園神社!!お参りいきましょう!おねえさんもね!!芸事の神様だから!!」
どういうわけか私は出会って1分で、このバンドで武道館に行けますように、の祈願をするため花園神社へ行くことになった。
5円ないときは?10円でいい?としゃべり続けているロシアン帽に、外国人だと思っていた男が
「いや、10円はとおえん(遠縁)だから良くないんじゃないかな~」
と言い出し、おいお前日本語ベラベラやんけ、と思う。
よく見ると鼻がシュッとしていて、なかなかの美青年、おまけに長身だ。
「身長何センチだと思う?」
ロシアン帽の質問に、私はにやりと笑う。
この質問には自信があるのだ、と、いうのも、私のあしながおじさんが189cmと長身のため、私にとっては見覚えのあるサイズ感のガリバーだったからだ。
正解の191cmに対して192cmと答えた私はニアピン賞だった。(賞品はなし)
神社から見下ろすと、白い桜がポンポンと煎り始めのポップコーンのように咲いていて、来週今年初めての桜をあしながおじさんと見たいと思っていた私は、慌てて薄目になり見なかったことにした。
ロシアンとガリバーは会うのがまだ6回目で、今日は0時過ぎから2人でずっと路上ライブをしていたと言う。
さらにガリバーは千葉(!)から行きの交通費しか持たずに出てきたというので、帰りの交通費を稼ぐため、3人で路上ライブをすることになった。
めちゃくちゃ寒い中、ガリバーがオリジナルの歌を弾き語った。
英語詞だったので頑張って聞き取ろうとしたけれど、単語1つも拾えないまま曲が終わってしまったので、袖の中に指を入れたままポフポフと拍手をした。
続いてロシアンが岡村靖幸のカルアミルクを弾き語ったけれど、アレンジのクセが強くて私はすごく微妙な顔をしてしまった。
平成生まれのガリバーがカルアミルクはこういう曲だと思っただろうなと思うとなんともいえない気持ちになる。
しかもロシアンは最後の「カルアミ~ルクで~♪」のところを私に歌わせようと「さんはい!」と毎回言うので、そのたび私は背中を向けて3mくらい逃げた。
武道館を目指しているのにその日私は1度も歌うことはなかった、恥ずかしいし。
結局5時近くに通りかかった外国人観光客の集団に洋楽を歌ったところ、数百円を貰ってガリバーはそれで千葉に帰れることになった。
正直いくらか投げ銭しなければいけないかとポケットに500円玉を用意していた私はほっとした。
ロシアンは原付で帰り、ガリバーは私のことを駅の改札まで送ってくれた。
ガリバーは顔は整っているけれど話は本当にひとつも面白くなくて、それがなんと言うか、性格はいいやつなんだろうなと思った。
2時半から始発までの空白の時間を今までにない経験で潰せたことに興奮した私は電車の中で一睡もできず、午後から仕事に行き、今本当に体力的に後悔している。
来週も母の病院に行ったり、新しい仕事の研修行ったり、お夜勤に行ったり、ビリヤニ食べに行ったり、ほんと忙しいのに。