見出し画像

嫌われるんみちの一生(週報_2019_04_20)

睡眠のとり方が上手くないなあと思う。
気絶するように突然意識を失う以外に寝入り方を知らない。

タイムラインが完全に寝静まった頃、ふと思い出してはやってしまう、趣味の悪い禁断の遊びがある。
"誰にLINEをブロックされているかゲーム"だ。


私のLINE上の”友だち”は現在164人。
これが私の生きてきた年数に対して多いか少ないかはわからない。
おそらく1/3が本名の”私”の知り合いで、1/3が”ミチル”の知り合い。
あと残りは、知り合いでもなんでもない気がする、知らない人。

名前順に整列した164人を上から順番に、LINEスタンプをプレゼントする、という機能を使ってブロックの確認をしていく。
一人ずつ、プレゼント購入確認画面まで進めればその人にはブロックされていないということ。

一度バーで隣合わせて飲み会に誘ってくれと言ってきた女社長、駅で次の公演を観に来て欲しいとチラシを渡してきた劇団員、最後に大ゲンカしたっきり顔を合わせないまま辞めて行った前の職場の女の子。

私を通り過ぎていった人たちを上から順に撫でていく。
多分だけど、私はその人たちのことが大なり小なり、愛おしいんだと思う。
一人ひとり、最後に会ったときの顔をぼんやりと思い浮かべる。

数日前に食事をした、現役の知り合いだって例外ではない。
機械的に確認作業を繰り返す中で、本当はその人の名に触れるときだけ指先がわずかに緊張している。

・・・よかった。

ブロックをされていないことが分かったくらいでは、その人の気持ちなんて何も計れやしない。
ブロックするまでもなく、砂粒のように、私という存在がその人の中から残らず吹き飛ばされてしまっただけかもしれないのだから。
それでも仕方ない、いつでも好きなときに思い出したり忘れたりできるような人間関係を好んで築いてきたのはむしろ、私の方なのだ。


やり始めた遊びは最後までやる。
ブロックの確認作業は続く。
リストの中には既にブロックされたことに気付いて数ヶ月、数年経った人もいる。
私はそういった理由ではブロックをし返すことはしない。
淡々と、他の人と同じように引き続きブロックをされているかを確認する。



折り返しをだいぶ過ぎた頃、
『Wさんはこのスタンプを持っているためプレゼントできません。』
というポップアップに思いがけず肩が跳ねた。



Wさんは私が追いかけているボーカリストのファン仲間で、ファン歴は10年を超える大先輩だ。
私が推しさんのファンになりたての頃からすごく親切にしてくれた、おそらくアラフィフ(怒られちゃうかな)の、女性。

Wさんはすごく優しい人なのだけど、繊細すぎて、そして推しさんに10年間本当に恋に落ちている人で、3年間の付き合いの中で"なんだか避けられてるなぁ"と思った時期が数回あった。

私はWさんのことを嫌いだと思ったことはなく先輩として立ててきたつもりだったので、自分が無意識に傷つけるような行いをしたのであれば、せめて私からは普段どおりに接しよう、という気持ちであからさまな回避にも挨拶をし続けた。

そうしているうちにWさんの気持ちの乱高下は落ち着き、なんとなしに挨拶が返ってくる、毎度その繰り返しだった。
Wさんの気分が良いときには終電後のライブ終わりにカフェでオールだってしたし、遠征から新幹線に隣の席に座って帰ってきたこともある。


去年の1月。
何回目かわからないWさんの気持ちの落ち込みがあった。
私だけでなく、周囲の人も避けるようにライブ終わりサクッと帰ってしまう。
またいつものようにやり過ごせばいい、帰ってきたときは笑って迎えればいい、そう思っていた。

ところが春になってもWさんは私を避け続けた。
初夏に地方遠征があった。
関西と四国のファンの子が『4人(私とWさん含め)でご飯行きたいですね!』と無邪気に私を誘う。
「ごめん、私ちょっと関係良くなくて。私は1人で大丈夫だからWさんについてあげて」

そう言って2泊3日の地方遠征は、雨に打たれながら1人で過ごした。
行列の出来るラーメン屋さんに1人並んでいるとき、Wさんのタイムラインに『大好きなお友達との楽しい夜、一生忘れません☆』と3人がキラキラの夜景をバックにバーで乾杯している写真が上がった。

ふむ、と思った。



それから1年経った。
10ヶ月くらい黙って耐えたある日、突然「なんで私我慢してんだろ?」と気付いた私は頑張るのをやめた。
推しさんのファンのツートップはWさんと私だから、毎月数回、すべてのライブで会うのにも関わらず、目を一切合わせなくなった。

Wさんはクリスマスやバレンタインのときライブのお客さん全員にお菓子を配って回る。
悪者になりたくないのか、私は避けてなんかいませんよアピールなのかわからないけど、それは毎回私の分も用意されていたので、大きな声で天井に向かってお礼は言ったが、帰り道に私の舎弟にパッケージのままくれてやった(私には友達は1人もいないが舎弟が1人いる)。



『Wさんはこのスタンプを持っているためプレゼントできません。』



そんな、悪者になりたくないWさんが、私をブロックしていた。
4年目にして初めてWさんが私に敵意をむき出しにしたことに、どういうわけか私は胸が躍った。
そうか、こういうのなんだ、こういうのが欲しかった。

"私がWさんを嫌いだから決別できて嬉しい”とかいう単純な感情ではない。
Wさんは本当にいい人だ、人の悪口は言わないし、推しさんのラブソングでは号泣するし、子供や犬猫が大好きな優しい人だ。

だけどずっと私はその優しさを疑っていた。
汚くたって、ずるくたって、意地悪だっていいじゃん、生きてる人間なんだから。

私とWさんの接点なんて推しさん以外にないのだから、Wさんの害意の源なんてたかが知れている。
同じ時代に同じ男を追いかけている女同士が、心底仲良くなれるわけなんてない。

その事実から目を逸らし、綺麗事で塗り潰そうとしている、Wさんの行動を私はそうとしか見てこれなかった。
だから時折辻褄が合わなくなって、パンクして、帳尻を合わせるために私や、私以外の誰かが避けられていた。


良かった、Wさん。
やっとおままごとから脱したね、深夜3時布団の中で私は拍手を送りたかった。
だから私からはブロックし返さないよ。
またあなたが揺らぎの中で足掻いて、人知れずブロックを解いて、何事もなかったかのように私にもお菓子を配るのならば、私もニコリとそれを受け取るだけだから。

皮肉だなぁ、私に敵意をむき出しにしたWさんのことを私は前より少し好きになってしまった。
報われない片想いばかりしちゃう。
でもこれから先もお菓子は絶対食べません、そりゃちょっとムカついてるとこもあるわけです、人間なんで。

あと分かってると思うけど、推しさんは私のことのほうが気に入ってますよ。
まぁ、こういうとこだよね、嫌われるの。
うん、知ってました。

いいなと思ったら応援しよう!