大きな樹

イナサの大ジイ
御蔵島にある名前の着いた大きなスダジイの樹
樹齢は400歳を超えている
僕の大好きな樹で
もう25年以上
島へ行く度に会いに行っていた

森の中に有るその樹は
道のすぐそばに立っていた
実際に手で触れることが出来た
中は空洞で入ることも出来た
そこで元気をもらったり
インスピレーションをもらったり
涙が溢れてきたこともあった
僕はその樹が大好きだった

数年前から少し元気が無いように見えていた
急傾斜に立っていたので
そろそろ倒れてしまうかも・・・
そんな思いが胸の片隅にあった

2020年5月
イナサの大ジイは倒れてしまった

島にはこんな言葉がある
『台風でも木は折れるけれど、
大きな木が倒れる時は風の無い凪ぎの日だ』

樹が倒れた時
数百メール離れた場所にいた知人は
そのことに気付かなかったと言う

大きな樹
きっと最後はゆっくりと静かに倒れたのだろう

三ヶ月が経ち
ようやく樹のあった場所へ行くことが出来た

森はいつものように静かだった
樹が倒れた跡は大きく開けていた
時間が経ったためか
倒れた生々しさはあまりなく
森はその変化を飲み込んで平然としていた

御蔵島は巨樹が多い島として有名
森のあちらこちらに
イナサの大ジイのような大きな樹がたくさんある
100年200年、、、
何百年も生きている樹が沢山ある

どんなに大きな樹でもいつかは倒れる
時間を掛けて土に還る
やがてそこから新たな芽が育ち始める
森は何度も何度もそれを繰り返えす
森は何年も何十年も何百年もそれを繰り返している

一本の大きな樹が倒れた
25年以上思い続けていた大好きな樹だった
僕にとってそれは大きな出来事だった

でも、
森にとってそれは当たり前の出来事だった

大きな樹がたっていたその場所に立った
イナサの大ジイの姿が重なった
大きな悲しみや、寂しさを感じると思っていた
けれどもそれらはほどんと無かった
僕の胸の中は
この大きなサイクルを持つ
自然への畏敬の念でいっぱいだった

イナサの大ジイは大切な気づきを
僕にくれた

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