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vol.5 ”普通”じゃないという可能性を世の中に伝えるファーストペンギン 〜ヘラルボニー:松田兄弟のはじめの一歩〜

ミチナル新規事業研究所、特派員の若林です。
組織に潜む「ファーストペンギン」が一人でも多く動き出して欲しい!という想いで知恵と勇気を与える記事を定期的にお届けしていきます。

第5号の記事では「異彩を、放て。」というミッションを掲げ、障害のあるアーティストによって創造されたアート作品を様々な形で社会に届け、福祉を起点に新たな文化を生み出している、株式会社ヘラルボニーを立ち上げた、松田兄弟のはじめの一歩を紹介します。

『るんびにい美術館』での作品に衝撃を受けたことがきっかけに生まれたブランド

双子の松田兄弟には自閉症の兄がいる。そうした背景から、二人は幼い頃から福祉施設や自閉症協会を訪れることが多く、いつか福祉に関わる仕事がしたいという思いがあったという。
株式会社ヘラルボニーを立ち上げる前、双子の兄である文登さんは大手ゼネコン会社、弟である崇弥さんは広告系の会社に勤めていた。別々の会社で仕事をしていた二人だが、崇弥さんが岩手県花巻市の「るんびにい美術館」を訪れたことをきっかけにヘラルボニー設立のアイデアを得る。

るんびにい美術館では知的な障害や精神の障害などのあるアーティストが創造した表現作品を多く展示している。それを見たときに「こんな面白い作品があるのか」と衝撃を受けたという。当時、障害のある方々の描くアートは社会全体にはとんど認知されていなかった。
「彼らの作品を多く人に知ってもらうために、自分たちで何かできないだろうか。」と考えた崇弥さんはすぐ、そのことを文登さんに電話で伝えた。

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るんびにい美術館ホームページより

るんびにい美術館に訪れた一年後、二人は仲間を集めて知的障害のあるアーティストの作品を傘やネクタイなどへ商品化するブランド「MUKU」を立ち上げ、活動を始めた。アート作品そのものを鑑賞するだけでなく、プロダクト化することで、より身近に感じてもらえるようにした。

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日本財団DIVERSITY IN THE ARTS 松田兄弟インタビューより

障害のある方が5時間かけて作ったレザークラフトが500円で売られている場面を見たこともあるという崇弥さん。時給どころか、素材代で相殺されてしまう価格の設定がされている状態は「障害のある人のクオリティ」が問題ではなく、「プロデュースする側のセンス」がないから起こってしまっていると感じていたという。
「MUKU」の商品はそのアンチテーゼ(反対の主張)としても、いいクオリティのものを作り、高級デパートにおいていてもおかしくないブランドにしたかったという。「MUKU」のネクタイの価格帯は2万円以上と気軽には手を出せないものとなっている。しかし、その価格帯でもファンがつくほど素晴らしい商品が生み出せることを出来ると彼らは証明してくれた。

福祉×アートの新たな領域を生み出す


彼らはブランドに限らず、建設現場を囲む仮囲いに知的障害のあるアーティストの作品を展示する「全日本仮囲いアートプロジェクト」や、パナソニックなどの企業にアート作品を提供する事業も行なっている。

NPOや社会福祉法人をとるという形態も考えられるが「株式会社」という形態をとったのには強いこだわりがある。それは営利企業として活動し、アートにきちんとお金の文脈をつける文化を国の制度に頼らずに根付かせたい。という思いがあるからだ。自治体や企業と協力し、様々な活動を行うことで彼らは福祉×アートという新たな領域で事業を創出し続けている。

編集後記
『支援ではなく、魅力を届けるという福祉のあり方』

株式会社ヘラルボニーを設立し、福祉×アートという新たな領域で活躍する松田兄弟の始めの一歩を紹介しました。彼らの事業が成功しているのは福祉というものの捉え方にあると思いました。

それは、福祉という領域で「支援ではなく、魅力を届ける」という視点で捉えているという事です。。崇弥さんが「MUKU」を立ち上げる前に見たという、障害を抱える方が作り、500円で販売をされていたというレザークラフト。この商品は、知的障害や精神障害を抱える方の個性がなるべく出ないよう、工場で生産しているものと近い製品を作る努力を行なっていたと考えられます。一方、「MUKU」の商品は、彼らのもつ個性をいかに魅力的に届けるかという視点を持って生産されたからこそ、2万円以上もする製品にファンがつき、ビジネスとしても成功をしている。

株式会社ヘラルボニー2周年記念|全メンバーメッセージ

障害のある人は「できない」から社会にでることも「できない」のでしょうか。それは違います。 障害のある人は「できる」のに社会にでるためは、あまりにも障壁があるため「できない」のです。 だから私たちは、その障壁を取り除く存在でありたい。

この記事で崇弥さんはこのように語っています。

先日の記事で紹介した、株式会社いろどりも「支援ではなく、魅力を届ける」という福祉のあり方を体現している企業だと捉えることも出来るのではないでしょうか。

高齢者は一般的に福祉の領域だと、支援をされる対象になります。しかし、株式会社いろどりでは高齢の方がもつ個性、魅力を再定義し社会に届けることで「葉っぱビジネス」を成功させています。

よければこちらの記事も読んでみてください。


「あの人は困っているから助けてあげないといけない。」という視点ではなく、「魅力を発揮する仕組み、環境がないから困っているんだな」という視点を持つことでそれはビジネスのチャンスになるかもしれません。

福祉の領域に限らず、地域復興や教育の現場、途上国の発展など多くの場面において「支援」という言葉を「魅力を届けること。」と捉えなおすと、新たなビジネスを生み出すことに繋がるかもしれない。そんなことを教えてくれる、松田兄弟の始めの一歩を紹介しました。

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