2週前の日曜日の朝9時、義母が倒れたと緊急ブザー(リストバンドになっているもの)の事務所から夫に連絡が入った。連絡があってすぐに2人で義母の家に向かった。
義母の家まで車で75分。半分くらい進んだとき、一応連絡を入れておいたほうがいいか・・・と義母に電話をする。
「え?こっちに向かってるの??息子には連絡をしないようにと伝えたのに!わざわざこなくても、もうすぐ救急車が来るはずで、私は立てれば大丈夫だから・・。膝がダメだから(手術済み)立てないのよ。私は大丈夫だから、もう引き返して!」
いかにも義母らしい対応・・
人に迷惑はかけたくないという感覚はよくわかる。
もう半分来たのだし、一緒にランチでも食べればいいから・・・と私たちは続行。
救急車、きてたらいいけど・・・と言いながら。
そして、あと10分で到着の距離で逆方向へ向かっていく救急車を目撃。。
(あっち方向行っちゃって、大きな病院ということはその後きっと30分くらいまた逆方向へ進んでいくよね・・・みたいな)
10時30分ごろ、私たちも義母の家に到着。
義母は、ずーっと、床に寝転んだまま立てなくて、シャワーを浴びるつもりでいたので薄いガウンだけ・・肘を打って小さな傷があり少し血が出て所々カーペットも汚したもののどこにも痛みはないという。
朝シャワーを浴びようと思ったらバランスを崩して床に座り込んでしまった・・・というので、頭を打ったわけでもないし肉体を強く打って転倒したわけではない。
きくと、倒れたのは8時15分ごろらしい。とにかく体が冷えているに違いないと、ベッドから布団をはいで床の上に寝てる義母にかけて、とりあえずあたたまってもらう。
聞けば、倒れてすぐにリストバンドの救急ボタンを押したものの、連絡は取れない。
そこで義母は、どうにかこうにか体を捩って転がるように部屋の反対側の電話の子機がある場所までたどり着いて、電話線を引っ張って、999をダイヤルした。緊急の番号で日本でいう110番。
なのに・・・誰も「出てくれない」・・・。
緊急番号も通じないんだ????
もう一つNHS(国民健康サービス)の緊急番号があるのだけれどそれも通じない・・・まじか・・・
そこで、救急ボタンの会社に電話をして状況説明したら、救急車を呼ぶので、「もうすぐ(SHORTLY) 着くから。容態が悪化や急変したら連絡するように。」と言われたらしい。。
その後夫が電話を受け取ったと見られるので、そこに辿り着くまで45分・・・
「もうすぐ着くから」と義母が言い続けるので、じゃあ来るまで待っておくべきか・・・とみんなで待ちながら・・・
いや、さすがに床もしんどいだろうから、せめて座れば??と座らせることに。義母はちゃんと服も着ていないというのも恥ずかしくて、夫には頼みたくない様子で・・。
実際に身体を起こそうとすると、やっぱりあちこち痛い・・・ということになり、下手に動かすのもダメじゃないかな・・・なんて私も思いつつ、ソファーの大きなクッションを持ってきてもらって、座位に。その時点で11時。
その後も待てどもこない・・・。
緊急度が低い(胸が痛いとか、息ができないとか、流血してるとか、激痛とかない・・)から、「後回し」にされていることは確かだとは思うけれど、それでも、高齢者一人暮らしで、床の上から立ち上がれない・・・別に救急車でなくてもいいから、地域の訪問看護グループとかいればいいのに・・・と思ってしまう。助産師ならそういうグループがあるけれど・・・高齢者ケアにはそういう発想はないらしい。看護婦不足でそれどころじゃない・・・とか、訪問となるとセキュリティの問題とか、まあ、確かに思いつくほど簡単なことではないのだろうけれど。
12時になって、一生懸命に義母を説得して、夫と私が両方から支えて立たせるということに。
全く来る兆候がなかった救急車・・・
結局、緊急度が低いというのはこういうこと・・
最終的にきちんと救急サービスに連絡をしてキャンセルしたのは13時。
車から電話した時も、エライ元気そうに「立てられないだけで問題ないわ!」と元気印の返事をしていたので、次回救急車を呼ぶ時は、必要以上に元気なふりはしない方がいい・・・と伝えたけれど。笑
救急で駆け込んでも病院普通に6時間待ちなくらいだし、もう、本当に「しょうがない」救急車だって順番に仕事をしているのだから・・・
もともと悪名高いNHSだけれど、パンデミック後は本当にひどい。だいたい普通に医者にアクセスできないし・・これがパンデミックの後遺症なのか、EU離脱の問題なのか、ヴァクシーンの問題なのか私にはわからないけれど。。
イギリスの医療費は無料だから、それ自体は素晴らしくもあるのだけれど、ここまでアクセスできない状況だと本当にどうしようもない。(だから、救急車両までストライキする・・相当、人員不足で大変なのだと思う。)いったん「ケアの対象」に入れれば、手厚いサービスと言えることもあると思うけれど。。
義母は80代後半の独り暮らし。
ケアマネジャーがいるわけではない。
昔からリュウマチでたくさん薬も服薬しているけれど、大きな病気はないから・・。
こういう場合、意外に、日本の高齢化福祉の方がまだ進んでいるのかもしれないと思ってしまうほど、このカテゴリーの高齢者に対しての公共サービスはほぼない。病気にかかっていたら別。障害があったら別。一気に手厚くなる。
この差って・・・
今までずっと真面目に働いて税金を納めてきて、自己健康管理をしっかりしてきた人ほど、本当に必要なサービスが受けられない・・
その一方で、病気だから、障害だからという理由で、仕事をしなくても生活が保障される人々の多さ。私は昔ロンドンでこの後者利用者対象の福祉の現場にいたからわかるけれど、サポートする側のお給料ではできない生活すら可能なほどの手厚さ・・。年に一度旅行に行く補助金すら出る。家賃も生活費もかからない生活で、ポリティカルにただしく、強制的にしたくもないような労働を強いられることもない。 *日本なんて作業所で働かせていただけるだけでも、ありがたく、頑張って毎日働いても月に2万円もらえない大人だってたくさんいる・・・
話がずれたけど、高齢者は自然と一人でできることが減っていく。
イギリスでは大抵の人が庭師を頼んで庭の手入れをしてもらって生活スタイルを守る。昔は芝刈りや剪定や力仕事だけ・・・だったものが、気づけば草抜きも、花の植え替えも全て頼まないとできない状態になる。週に2日ほどはホームヘルパー的な人にお掃除に来てもらう。
これらは自費で1時間に15−20ポンド程度。(最低賃金が10ポンドくらい。)庭の存在に重きをおかなければ、不要とみなして、庭はどんどん廃れる。掃除もしない選択をする人だってもちろんいる。
必要最低限レベルを見極めるというのは、難しい。
高齢者のケアの必要性を見極めるのも難しい。
例えば転倒して骨折したとすれば、病院から看護が来ている間は無料のサービスがつく。その後も必要なら1時間20ポンド出せば続けられますという具合に、有料に切り替わる。でも癌だった義父の時は、無料で看護訪問サービスが提供されて、自宅で最期を過ごせた。
今まで自分がやってきたことができなくなるということを受け止めるのが歳をとるということ。「家族がお世話をしてくれる」という文化がないし、日本の田舎みたいなコミュニティの感覚もない。(イギリス人は引っ越し好きで、家族のサイズに合わせて家を引っ越すし、若い時は都会で。年金生活になったら田舎で・・・という人も多い)
そんな中、ひとつ、この国にすごいなと思うシステムがある。
配偶者など家族にケアが必要な状態になったら、家族でもケアする人登録ができて、そうすることで家族のケアであっても手当(お給料:補助金?)?がもらえるというケアラー登録。フルタイムで働いていたけれど、パートナーが倒れて仕事を辞めて・・・というのはよくある話。だれかに頼む、その人件費をダイレクトに家族に回しているだけ・・・という感じなのだけれど、人員不足の状況で家族を巻き込むのはアリだなと思う。
もちろん、どんなシステムも悪用する人もいそうだけれど、こればかりはさすが国親思想の福祉の国だ!と思ってしまう。(残念ながら、毎日通いで行けるほど近くもないし、そこまでケアが必要というわけではないので恩恵は受けられないけれど)
日本でこういう補助金が少しでも受けられたら、家族間の介護も、もう少し報われると思う人たちもたくさんいるんじゃないかな・・・とも思う。
話があちこちに飛んでしまったけれど・・・
英国にて、救急車はもはや頼りにできない存在だというのもよーくわかった。。ちらっとそんな記事を読んだことはあったけれど、ほんとうにリアル。
写真のお花は、後日、義母からお礼にと送られてきたもの。