ウィーンに来て一番最初にギャランティーを頂いた本番の地ーBaden bei Wienが世界遺産に(番外編)
先日オーストリア、ニーダーエスターライヒ州のバーデン(主にドイツのバーデン・バーデンと区別をつける為「バーデン・バイ・ウィーン」が正式名称です。)が、ユネスコの世界遺産に選ばれました。
この街はベートーヴェン、モーツァルト、シューベルト、ヨハンシュトラウスなど、多くの作曲家が滞在した温泉療養地で、特にベートーヴェンが10回以上滞在し、耳が聞こえない状態で「第九交響曲」の大半をこの地で作曲したり、モーツァルトが「アヴェ・ヴェルム・コルプス」を作曲し、この街の教会で初演したことで有名です。
元芸術家だけが入れる老人ホームもあり、何度かボランティアで演奏に行ったりしたことのあるバーデン。今まで日帰りだったところ、先日家族と数泊して改めて良さを再認識したので今回の世界遺産入りに感激しました。
(写真)宿泊したホテルのレストランから見える景色
今回のタイトルに書いた通りバーデンと言えば、私にとって初めてギャランティーを頂いて歌った本番の地!ウィーンに来て2か月くらい。夏に受けた音楽セミナーで出会った先生が「もしよかったら」という事でわざわざポケットマネーでギャランティーを下さって、カジノ・バーデンで行われた会合に呼んでくださったのでした。
(写真)カジノ・バーデンの建物
恥ずかしながらドイツ語がほとんど出来ない状態でウィーンに来たので、セミナーでは英語で喋っていたのですが、この頃くらいから拙いながらもドイツ語で会話するようになり、ピアニストの方や、オーガナイズの方々と電話でドイツ語会話…を試みていました。
当時は電話越しでドイツ語が出来ないと思われたくなくてついつい分かったふりをしてしまい、集合場所の住所など後から不安になって結局SMSやメールで送って戴いたりしていたのですが、今なら確実に大事な要件は最初から
「文面でも送って戴けますか?」
とお願いします。それが一番スマートだからです。
前日や当日になって住所をグーグルで調べてみたけれど見つからない…スペルはあっているのか?もう一度電話してみよう。では繋がらないこともあります。文面だと何度も確認できます。
住所だけでなく、最初のころはしばしばケアレスミスを起こすもの。
ドイツ語で「3時半」の事を「Halb 4」というのですが、うっかり「4時半」と記憶してしまい、約束に1時間遅れてしまったり…などはドイツ語初心者あるあるですが実際には笑えません。
電話だけでなく、稽古時もその日の進行具合よって「この役は明日は何時いりで」と変更になることは度々あります。自信がない場合は恥ずかしくてももう一度分かるまで聞いたり、何ならどこかに書いて貰ったり、助手の方に「明日の入り時間をもう一度教えて下さい」とメールして文面で返答を貰ったりの工夫が必要です。
(写真)ドアの取っ手もカジノ使用
このように基本的に詳細はちゃんと聞くほど準備ができるのでよい(しっかり質問をすることで相手に誠意ややる気を示すことも出来ます。)と思っているのですが、このバーデンでの本番は一方で珍しく聞きすぎず…がよかった例でした。
私の他にもうお一方お歌いになるというのは聞いていたのですが、私が歌う曲目にも元々指定があった事ともうお一方は男性という事で、ドレスの色が被る心配もなく、その方が何を歌われるかとかどなただとか全くお聞きしないまま本番を迎えました。当時は電話越しにそんなにお話する余裕もありませんでした。
(写真)本番のあった会場
当日は無事会場にも時間通りに辿り着け、緊張もそこまですることなくそれなりに出番を終えることが出来ました。そして着替えなどを済ますと会場から素晴らしい歌声が…なんともうお一方は日本にも何度も歌いにいらしている世界的なワーグナー歌手の方だったのです。事前に知らなくてよかった、と思いました。
今なら他の方がどんなに格上の方でも、私の実力を知った上で先方からお声をかけて頂いて歌わせて頂くのですから自分の最上を目指すだけ、と思うことが出来ますが、その当時の精神状態では、自分は求められていないのではないかときっと何日も前から緊張したことと思います。
この後も何度か何人かの歌手の方々と一緒に歌わせて頂くコンサートに出演させて頂きましたが、自分と同じ年代、またはより若いそして才能のある方々と歌わせて頂く時に「この本番を次に繋げるにはこの中で自分が一番でなくては」という気持ちに苛まれ辛かった時期がありました。
その時の気持ちを全否定するわけではないのですが、今言えることは
よいものはよい
という事です。
この時の私に教えてあげたいです。