【キャストに注目】パリ・オペラ座バレエ「ドン・キホーテ」に出演するリリアン・ディ・ピアッツァ(カドリーユ)

現地時間3月21日に初日を迎えるパリ・オペラ座バレエ団「ドン・キホーテ」。

主役以外の主要なキャストも発表され、期待が高まる中、バジル役で主演を予定していたエトワールのマルク・モローが怪我で降板するという大変残念なお知らせが、本人のインスタグラムからありました。早い回復をお祈りするばかりです。

なかなか現地まで気軽に公演を観には行けない中で、パリ・オペラ座サイトで更新されるキャストを見てダンサーの活躍を知り、実際の舞台を想像することを楽しみにしています。
特に、これまで馴染みのないダンサーや、スジェ以下の階級のダンサーが重要なソリスト役にキャストされると「お!」と思うもの。そのダンサーが、演じる役を舞台の上で楽しんで、日頃の鍛錬の成果と実力を存分に発揮してほしい、と遠くから願う気持ちになります。

今回のドン・キホーテのキャストで個人的に最大の「お!!!」だったのはタイトルにもお名前を記したこの方。パリ・オペラ座ダンサーの中では異色の経歴が印象的な、カドリーユのリリアン・ディ・ピアッツァ(Lillian Di Piazza)です。

4月13日、カン・ホヒョン(スジェ)とパブロ・レガサ(プルミエ・ダンスール)という注目の若手キャスト主演日に「La Premiere Domoiselle d'honneur」役にキャストされています。役名から、終幕のキトリとバジルの結婚式でのグラン・パ・ド・ドゥ前に、花嫁キトリの付き添い役の女性としてバリエーションを披露するソリスト役の筆頭と思われます。

カドリーユというパリ・オペラ座バレエの一番下の階級に属するダンサーですが、バイオグラフィを見ると、実はこの方、米国ペンシルベニア・バレエ(現フィラデルフィア・バレエ)に2009年に入団、2016年にアンヘル・コレーラ芸術監督のもとプリンシパルまで上り詰めています。その後、2020年にパリ・オペラ座の補充要員となり、2022年に正式に入団しました。

パリ・オペラ座バレエ学校からの入団者が圧倒的に多い同バレエ団にあって、この経歴は異色です。バレエ団トップのプリンシパルから補充要員となるまでに一体何があったのか。その気になる経緯が、こちらの「Pointe Magazine」の記事に詳しく紹介されていました。https://pointemagazine.com/lillian-dipiazza-paris-opera-ballet/

この記事によると、リリアンは結婚式に参列するために訪れたヨーロッパで2019年にパリ・オペラ座の外部オーディションを知り、受けることを決意。その時の結果は6位で、入団を諦めていたところ、「ジゼル」のための3カ月間の契約をオファーされたと言います。
2度目のオーディションでは3位となり、その際に得た契約期間は1年。そして、エトワールのリュドミラ・パリエロの指導を受けて臨んだ3度目で見事1位となり、2022年、31歳で正規団員としての入団を勝ち取りました。

この間、フィラデルフィア・バレエでプリンシパルとして踊りつつ、パリ・オペラ座の長時間に及ぶコール・ド・バレエのリハーサルや、バレエ学校からの新規入団ダンサーたちと一緒にフランス流のテクニックを学ぶレッスンに参加し、かつ団員の祖母の方にフランス語のレッスンを受け、という日々だったそう。

2019年から2022年といえば、その大部分はCovid-19のパンデミックが世界を覆った期間に重なります。記事によると、米国とフランスではシャットダウンの期間も異なり、パンデミックを掻い潜るようにして大陸間を行き来しながらバレエダンサーとしてのキャリアを模索したとのこと。こういったエピソードや語り口から、精神的にも肉体的にも強い、前向きな人物が想像されます。

現在、パリ・オペラ座バレエ団に在籍する米国出身のダンサーは彼女を含め3人のみ。スジェ以下のダンサーにも積極的に主役や重要なソリスト役を踊らせているジョゼ・マルティネズ芸術監督のもと、リリアンはどのようなキャリアを描いていくのでしょうか。
彼女がこれまでパリ・オペラ座で踊った役の履歴はまだMemoperaにも現れていません。ということは来月13日のドン・キホーテがパリ・オペラ座での活躍の皮切りになるのかも、と思うとなおさらワクワク。当日のフレッシュな主演カップルと共に、リリアンはじめ脇を支えるキャストにも応援の気持ちを贈ります。

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