「殺される」から「抱きしめたい」フィリピンでの五日間。
正直、怖かった。
11月、年末にフィリピンに4泊5日で行くと決まってからずっと。
ニュースでは、ドゥテルテ大統領の麻薬常習者への横暴が連日報道され、首都マニラでは大規模なデモが行われていると聞かされた。
そして、一般市民が銃を持っているとも。
たくさんの「悪い国」というイメージを、いやようにも脳に刻まれた状態で出国。
成田空港でフライトの搭乗待ちをしている場所には、日本語を綺麗に話す、おそらく日系フィリピン人で溢れかえっていた。
これから祖国へ帰省するのだろう。
みんな、騒がしくて笑顔で明るかったが、この人たちは自分の祖国についてどう思っているんだろう?
安全安心便利な日本から、危なくて怖くて不便な「悪い」国に帰るってどんな気持ちなんだろう?
とそんなことばかり考えていた。
飛行機の窓からフィリピンの街並みを眺めて「意外と灯りついてんじゃん」とか「どんなやべえやつが住んでんだろ」とか思いながら、マニラに到着。
時間は深夜1時。
空港で、泊まるホテルの迎えを待っている時も、こいつらと目合わせたら殺されんじゃないか、だって銃持ってんだべと思って視線は空中浮遊。
荷物だっていつ盗られるか分かんないからがっちりガード。
迎えに来てくれたホテルの兄ちゃんは陽気な男だったが、走る車の外に見える街にたたずむ男たちのギラギラした眼に完全に心を折られながら到着したホテルは完全に廃墟。真っ暗。
ホテルのWi-Fiが繋がって、まず親に「マニラの夜はやばい。怖すぎるんでホテルにこもります。」とLINE。
情けないほど、フィリピンに怯えていた。
そんな怖さに、(一緒に行くはずだった台湾出身の英語堪能な女の子がビザの関係でまさかの入国できないというアクシデントがあり)だれも英語が話せない状況がプラスされ、もはや戦意喪失。
「フィリピンの4泊5日、ホテルにこもりっきりでもこのメンツだったら楽しいんじゃね」と謎の開き直りをみせながらも、フライトの疲れで爆睡。朝はすぐにやってきた。
朝、寝ぼけ眼でタバコを吸いながら見るマニラの景色は、昨日の夜怯えながら控えめにタバコを吸いながら見た景色とは全く違っていた。
遠くには立派な高いビルも見えるし、ホテルの周りには、バスケをしながらキャッキャキャッキャ遊んでいる笑顔の少年たち。
そこには、カンボジアで虜にさせられた東南アジアの「純粋にその時を楽んでいる」人々の姿があった。
なんだ、やっていけそうじゃん。ちょっとワクワクしてきた。
ホテルから出ると、朝から賑やかな集団が興味津々にこっちを見ながら、「メリークリスマス」と笑顔で手を振ってきた。
おーこれこれーこれだよーとか思いながら手を振り返す。
それだけでもう、通じ合った気分だ。心が温まる。
そっかあ今日クリスマスなんだーと思い出して、「メリークリスマス」って声を掛けると、満面の笑みで入れ墨の入ったおじさんが「メリークリスマス」って返してくれた。
おいおい。聞いてた話と違うじゃん。
こいつらいい奴じゃん。
トライシクル(オートバイの横に屋根付きのサイドカーを取り付けた乗り物)に乗ったおっさんはもちろん仕事だから、乗ってくれよ!連れてくよ!って声を掛けてくるけど、ごめんね乗らない〜けどここら辺で美味しくて安いレストラン知らない?って聞くと、3つくらい知ってる店を道順まで詳しく教えてくれて、バーイって笑顔で去って行く。
フィリピン人。どこまでいい奴なんだ。泣
人の事がすごく好きなんだろうなあ。
もう完全にフィリピンの虜になっていた。
おっさんでも抱きしめたくなる衝動に駆られたが我慢した。
数時間前の自分の、浅ましい偏見に悲しくなった。
でっかい情報の波に躍らされて、それがほんの一部分であることを疑うこともせず、勝手に納得していた。
旅に出て、街を歩けば、その国の本当の姿が分かる。
「百聞は一見に如かず」
まさに、そう感じた旅でした。
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