もうストリップには行かないかも知れない。2
浅草の列をさんざんディスった様相となってしまったが、もちろんそんなことばかりじゃありません。
見る限りにヤバげな、「アンタは脱がないのデュヘヘヘ」とか言い出しそうなパライさんはほかにも数人おったけど(偏見を多少お詫びする)
「おねえちゃん、これなに並んでるの?」「ストリップて女の人も観るの、へえ~」「俺行ったことないのよ、今度行ってみようかなあ」
なんてつぶやき、酒引っさげていなくなる、だけである。昼中の浅草に、その背はむしろ清々しい。
つまりあの出来事はワイの待機列人生においてもまこと稀有、だめゆりパライとイキリキッズの、奇跡のコラボレーションだったのだろう。
2.ワイはどうにもジェイソンステイサムではない
ひさしぶりに絡まれたなあ。
先の浅草待機列事案をそう済ませ、ワイはかわらず零細客をつづけていた。最近はポラ館でも女性客をよく見かけるし、グループで来ている人もいる。コミケみたいなイベントもあるらしい。
なにせコロナ禍直前にスマホを持ったというくらいはSNSに関心が薄く、どういう情報網が敷かれているのかあんまり知らない。ストリップ劇場お作法本、なども発行されているようで、今はこんなのもあるんだなー。
「初めて来たので、ちょっと教えてもらえませんか?」
とあるポラ館にて隣席の男性から頼まれたとき、だからネットで情報拾えないと大変だよね。わかるわかる。と思ったのだ。
初老の男性であればこと、ちょうど別れるところだろう。使いこなしまくってるかそうでないかとか。
なに渡してるんですか?
(チップです)
いくらなら大丈夫ですか?
(うーんお気持ちなので…まあ大体1000円~とか)
どういう流れなのか今一わからなくてですね
(ああ、まず、今日の出演者さんはこちらなんですけど・・・)
尋ね方も丁寧だったので、ワイとしてはふつーに礼儀的な愛想で回答したつもりだ。自分もさんざん親切にしてもらってきたわけで、だからといって無垢なるペイフォワードを気取ったつもりはない。ワイにも下心的なものはちゃんとある。
いわんや、好きになってくれたらいいなと思うから。ストリップを。
そして気に入ったら、どうかまた来てたのしんで欲しい。
あくまでのワイの感覚だけど、ソロ女性客に話しかける男性客って最近はめったにいない気がしてる。初期に話しかけられたのはワイももっと若く、そのうえ随分ぼけー。ぽつー。ふわー。
としていたがゆえのご心配かも知れないが、実際のところ『双方のための安全確認』的なものがあったように思う。
以前おじーちゃま客が「昔はあの上で本番やってたんだよ。そんであそこをこうしてああしてそうする芸が」とうきうき教えてくれたことがあり、ワイは「へー!ほー!はー!」というリアクションを取っていた。
うん。ネットで知ってる。でも実体験て、やっぱスゴいんだべさなあ。詳細なインパクトは聴いていてけっこうおもしろい。うら若き青少年時代にそんなの見ちゃったら、そりゃー刺激が強いだろうなあ。へえ。ほお。はあ。
おじーちゃまが離れると、近くにいた男性客が小さな声で「なんか嫌なことあったら別の客でもいいし、スタッフに言って」と慮ってくださった。「全然大丈夫です、皆さん親切で」本心を述べると、紳士は苦笑した。
「女性客とモメたら二度と来れないからね」
―なるほど。
あの、ワイが入って来た瞬間、気配りとともにそこはかとなーくピリ…というのが走るのは、気のせいじゃないんだな。
つまり、語弊ありきだが女性客とはやはり『腫れ物』なのである。
なんらか誤解でも生じ、女性客が「この人にさわられた」なんて申告したら、出禁もありえるかも知れない。この紳士はワイだけでなく、おじーちゃまのことも気にかけていたのだろう。この人の居場所を、ワイから守るために。
心底からの感謝とともに、ムダな緊張感走らせて申し訳ない…
と思いつつ、朝の駅では満員電車では、もしかしたらこの紳士もおじーちゃまも、遠慮なくぶつかりぐいぐい押してるんだろな。なんてふと、考える。あれ戦場だから。男とか女とかないから。
ワイもそこでは人形みたいにもみくちゃされているけれど、そしたらやっぱり、踊り子さんて守護天使であり女神なんじゃああるまいか??
だってこの人たちは、踊り子さんに会いたいんだから。
目当ては踊り子さんなんだから。
踊り子さんに会えなくなるかも知れないからこそ緊張感という礼節を保ち、だからといって厄介をただただ遠ざけるわけじゃない、ファンとして、結果親切にしてくれる。
踊り子さんのおかげで、ワイは脅かされずいる。ここには押してくる人も、痴漢もいない。
踊り子さんて、もう物理に天使で女神やん。
あのときのストリップ劇場は、朝の駅より満員電車より、ずっと守られていたと思う。それは劇場の神さまとスタッフさん、とりわけ巫女たる踊り子さんの神通力、そして紳士たちの礼威からなっていたのかも知れない。
まあ令和現在は遠慮なく真正面からぶつかってくる男性客もおりますが。
さもありなん。
さて、此度の新規男性はポラが気になるらしく、撮らないんですかと訊いてくる。
わたしあんまり撮らないんです、大丈夫行けば皆さん親切に教えてくれますよ。せっかくだからと楽しんでもらいたく、笑顔でうながすと
「え~ヤだよーオジサンに訊くなんて。怒られたらヤじゃない~。」
…おっと。
「踊り子さんも教えてくれますよ、いってらっしゃーい」
「行かないの?一緒に行こうよ~」
あー。しまった。
いやキャラ変早くね?
「わたしは今日は撮らないので、行ってきてください」
「え~」
ワイとしては質問に答えていただけだが、この人のなかではなにかしらの関係性が構築されつつあるようだ。
出だしが丁寧だったからつい親身に回答してしまった。不覚。
「じゃあ~チップ一緒に渡していいですか?」
「えーと、チップは自分がいいなと思った踊り子さんに渡せばいいんですよ。わたしのことは気にしないでください。」
「よく分からないからアナタの後ろについてくから、頼みますよー。誰に渡しますか?1000円でいいかな?」
「(…たしかに最初は不安だよな)わかりました、でも誰にいくら渡すってお話はしない方がいいと思います」
「やっぱりね〜そういうルールが色々あるんでしょ?僕オジサンに怒られたくないからさ、一緒にやらせてくださいよ」
丁寧紳士、だったもの、突然の甘えんぼ爺と化す。
一緒に一緒にって女子小学生か。ああ。やっちまった…。
オジサンはとてもご機嫌で「僕トイレ行ってきますね」「何時に出ましょうか、合わせます」
え、連れなん??連れてないよ?勘弁よ?
まずい。今日のワイは戻りが決まっている。2回目終わったらすぐ出なくちゃだけど完璧ついてくるでしょコレ。
ていうかなんなん?よくわかんないとか誰でもいいみたいな、自分のこころゆくまで観るんじゃなくてさも合わせるとか。なんていうか。
失礼なんよ。
ひとまず「2回目終了で出ます」と伝え、その後はワイがお心付けを渡そうと立ち上がる度後ろについてくるオジサンをやり過ごす。
オジサンは「1000円かと思ったら10000円取り出しちゃった〜」と折々楽しそうだったが、演目の感想等は一切話さない。それどころかステージ中にもコソッと話しかけてきて、ワイもうすっかり塩対応。
「どちらにお住まいなんですか〜?このへんだと〇〇?△△?」
…あのですねえ。
ワイの住処訊いてどうすんですか。
「あの踊り子さんのあそこどう思いますか〜?」ならまだしも(不適切でしたらお詫びします)ワイの住処訊いてどうすん??
「そういえばどちらにお住まいなんですか?」
ポラタイム、ワイは回答せず、同じ質問を返してみる。
「電車で来ましたよ」「へーこのへんだったら▽▽とか✖✖あたりですか?」「いや電車で来たって言ってるでしょ!」
キレてきた。まじなん?
これ、思ったよりヤバいタイプだな。どうしよう。劇場出てすぐ「じゃあ彼氏が待ってるので」てやろうとしたけど、危ないかも知れないな。
善良な大半の男性方には想像もつかないと思いますが、世の中には彼氏やら夫やら、という単語を出しただけで、当の親密度はゼロにも関わらず「その気にさせて思わせぶりな!」と尋常でない反応を示す人がいるんです。
ああ、ほんと…
どうしよ…
相手はおじーちゃんだけど、揉み合いになってもワイじゃ勝てないだろうしなんか武器持ってたらどうしよう。時計してるな。あれ殴られたら痛いやつや。
大ゲサなほどに最悪ルートを考えるのは、海外生活からの習慣である。そうでなくても自分のご機嫌を折られたときの瞬発的な怒りって、すさまじいときがあるわけで。
ふー。
手配した正規タクシーに途中から『ドライバーの友だち。同じ会社だから大丈夫!』と称する男が3人乗ってきた4vs1の状況を無傷で切り抜けたワイであるぞ。すっかり日本でひよっているが、取り戻せあのときのキレッキレ。
こんなことで踊り子さんやスタッフさんにご迷惑かけるわけにはいかない。ワイの失態はワイが片付ける。深呼吸。
でもですね。やっぱりこわいんですよ。
予想していても、待ち伏せされたり追いかけられたりするのって、根源的な恐怖なんです。
ていうか。そもそも。
ワイはストリップが観たいんだよ!
塩のおかげか質問返しが気に障ったか、話しかけは止んでいる。しかし今後の対処も考えていて、ワイのとぼしい脳みそでは100パーセントの集中がきかない。
なんだろうなあ。このあいだからどうも妙なことがつづいてて、もしかしたらなとちょっとだけ、勘付いていることがある。それについてはまたまとめたい。
2回目終了。
帰り支度を始めたところで「やっぱりわたしもう少し観ていきますね、じゃあ今日はどうも!」と笑顔で席移動。オジサンはぽかんとしていたが、そのうちに出ていった。
ヨシ!
いや、これワンチャン待たれてるかも知れん。あの様子だと待ち伏せもありえる。だども終盤塩したし、もう少し観ると言われてあきらめたかも?いやいや。
もはや心理戦である。いやしのポラ館が朝の駅、満員電車、まさかの戦場と化したのだ。
ギリギリまで粘り、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら演目途中で退席する。そろっと外を確認すると、見えるところにはいない。
杞憂であれ。
きょろきょろし過ぎるわけにもいかず、足早に道を歩ああああああああああああああああああああああああ
おるー。
道の先におるー。
めっちゃこっち見てるー。
くるりと進路を変え、ワイはケータイを取り出した。
110にいつでも連絡できるようにして、まずは通話のフリをする。露骨な方向転換と、電話かけてるところを見たらふつーはあきらめ
てくれないなー。
後ろからめっちゃ走ってくる音するなー。
「ねえ!ねえ!ねえ!」
ケータイにぎったおっさんが、必死の様子で追いかけてくる。
…ちっ。
「ああ、お疲れ様です今日はありがとうございました、 うん、それでね、今終わったんだけど」
「ちょっと、今日はありがとうね、次いつ来るの!?」
「あー、滅多に来れないんですよーすみません、 うん、今から行くね」
「来週とかいついますか?金曜日は?あのねえ、一緒に帰りましょう!どちらお住まいなんですっけ?」
あーん。
やっぱやべえやつだったー。
無視して走って逃げろよバカじゃねえ?と思われるかも知れないが、なんでワイが逃げないとあかんねん。手を引くべきは(今は足か)あっちやないか。
方向を変えても追いかけ、通話中と見ても話しかけてくるようなやつ、絶対あっちから去らせてやる。
こういうとき、ワイのじめっと悪いところが陽のもとにさらされ、乾かされるうち発火する。
「すみません、これから夫と待ち合わせしてるんです」
ブチギレられる可能性もあったが、勝手に夫に格上げし最後通牒的に告げてみる。
すると、おっさんは次のように怒鳴った。
「だから!駅までならいいでしょ!待ち合わせ駅でしょ!駅まで行きましょうよ!」
な ん で だ よ !
思わず先制パンチを食らわせたくなったがこんなやつのおかげで犯罪者にされたらたまらない。いやまじで、あんさんワイの夫に会ってどうすんの???そのこころは?
道行く人の視線が痛い。パパ活モメだと思ってます?もしくは痴情のもつれ?ちがいますよー。これはねー。瞬間湯沸かし3分ストーキン行為なんですよ~~。
モームリ。なんかわらえてきた。
だが。
ワイは立ち止まる。なんだかうれしそうなおっさんに、にっこりほほえみ
「夫に会うんでメイク直さなきゃ。じゃあわたしはこれで。」
指差す先の女子トイレに気がつくと、おっさんはえ?と息を吞んだようだった。
何年このへん来てると思とんねん新規爺。地の利があるんさワイには。進路を変えたのはこのためよ。身の程を知りな!
と心の小鼻をふくらませ…今って、心が女性だと入れるんだっけ。そういう手使ってくるかな…
おっさんは追ってこなかった。
ああ、そう・・・とフテたようにつぶやき、去っていく。
余裕のようにその背に手をふり、ワイはレストルームにしゃなりしゃなりと
こ
こわかった
待ち伏せも追いかけも、何度経験したってビビッてしまう。いっちょまえ覚悟決めたつもりでも、ほんとはこわい。
根源の悪魔だよまじで。どんなに虚勢張ったってしょせんワイは狩られる立場。そして相手の獲物は、いつチェンソーになってもおかしくない。
やだなあ、あのオジサンとまたどっかのポラ館で会っちゃったら。
そういえば今度女性を連れてきたいって言うから、浅草すすめちゃったな…すごい確率で会っちゃったらどうしよう…
機嫌とプライドをいっしょくたにしているタイプは、根に持つ。恨まれてるかも知れないな。
ワイはまだ、ビビりながらトイレを出、念入りに前後を確認しつつ、警戒しながら帰路につく。
いつだったか、『サブカル女子を落としに美術館へ探しに行こう!』みたいなくそくだらねー記事が出回ったけど、それのストリップバージョンでも出たんかな。『女性客増量!自分だけは感性が違う!?男に混じれた気でいっぱいのチョロカル女子多め!』とか?
出てたとしても元ネタ以下だ。美術は多少でもお勉強するようクソバイスあったと思うが今度コレ、ぜんぜんストリップ関心ないやん。
ワイに起きたことなんてどうでもいい。くやしい。もう少しで劇場や踊り子さんに迷惑かけかねなかったかも知れないことや、せっかくのステージを観もしないやつに親切しちゃったことが。
ワイはまだ、腹立たしい。
ワイの住んでるところなんてどうでもええやろが。
チップの渡し方がなんだってんよ演目も観んで。
ワイがいつ帰るかなんてどうでもいいやろが。
あそこで気にかけられるべきは踊り子さんたちだけなんだよ。見られるべきは踊り子さんたちだけなんだよ。
あともうひとつ。
「アンタもオジサンですからー!!」
やはりどうにも、わたしはジェイソンステイサムじゃないんだろうな。ワイは思った。
わたしがジェイソンステイサムだったら、きっともっと尚早殴り倒せてる。わたしがジェイソンステイサムだったら、そも質問オジサン寄ってこない。
わたしがジェイソンステイサムでさえあったなら。
でも、わたしがジェイソンステイサムじゃないなら、もしかしたらずっと、こうなのかも知れない。
先生ワイ、ストリップ行きたいんですよ。
つづきはつづけたいとは思う。