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もうストリップには行かないかも知れない。1

女客、スト女、たぶんそういう言葉ができる前から観に行ってました。
でも、もう行かないかも知れないな。
そう思った経緯をつらつら。



1.ワイはどうやらジェイソンステイサムではない



ワイが行き始めたころ、女性客は本当に少なかった。老若男女問わず、もっとみんなが観てくれればいいのにと心の底から思っていたので昨今の状況は素直にうれしい。
なので『古参ヅラできたインディーズバンドがメジャーデビューして人気出てきたことに妬いてるんでしょ』みたいなことではない。そもそもひっそりひとりで行ってひっそりひとりで拍手してひっそりひとりで帰ってくるのが至上、古参自慢する機会がまずない。
常連さんほど通ってもなく、ほとんど首都圏内だけだし『行けるときに行く』ライト層。踊り子さんとも話さない、ファン同士の交流もほぼしない。イベントも基本参加しない。それでも細く細くちょっとだけ長く、自分なりにファンをやってきたと思う。
人生を海として生活の波に流されているとき、ストリップは、つかまり立ちのできるいっときだった。

でも、もう行かないかも知れない。


初期には、ドキドキしながら重い扉を開けると劇場内の紳士たちにあれ、女の子が来たな…という『察し』がしずかーに広がる。ガン見はおろか、チラッとよこされた視線もすぐに逸らされる。
あえて無視されていながら、それとなく窺われているのが伝わってくる。これは大抵は、なにか困っていないかな、という紳士たる慮りである。
ステージが始まれば踊り子さんに注目しながらも、あの子引いてないかな、楽しんでるかな。とこっそり観察されている。そりゃー楽しくて仕方ないので拍手したり、お心付けを渡したりしていると『よかった!楽しんでくれてる!』空気がほっとゆるんでいく。

中には話しかけてくる紳士もいるが、にこにこしながら「今のお姐さん、綺麗でしょ。ダンスも素敵でしょ。」と『おらが推しをアピらせてくれ!』が主体だ。ポラコレクションを見せながら、踊り子さんひとりひとりの魅力を語ってくれる人もいた。
そんなときワイは、なんだかストリップ劇場って、もしかしたら世界一男女平等な場所なのかも知れない。なんて思った。

女の裸踊りを前になにを言っとると思われるだろうし、劇場によっては女性料金や女性専用シートがあるしで全然平等じゃねえ!ときっと怒られる。でもそこじゃあない。
言語化できるかわからないが、まさに『女の裸踊り』だからである。


あの場で唯一の『女』は踊り子さんだけ。
あの場で唯一『かわいい』のは踊り子さんだけ。
あの場で唯一『きれい』も『えろい』も、踊り子さんだけ。


踊り子さんの前では、客は客。
客だって、客が求めているのは踊り子さんだけ。
女性客はあの場で、言うなればなにも求められていない。あるとしたら、楽しむことだけ。
こんな場所、ワイは他に知らないんや。生まれたときから女やさかい、やっぱりどこかでずっと『女』やってんのや。嫌とか嫌じゃないとか、性別違和じゃないねん。『女』を降ろしたことがないし、降ろせない。

ときどきそれがひどくしんどい。生理がきて女ってしんどいなあ、とかじゃなくてな。
『女性客』であって『女』じゃない。
これが、どれだけ救われる状況であるか伝わるやろか。ワイらはひとしく盆上の女神を求めている、そういった平等や。対等じゃないかも知れんが平等や。伝わるやろか。伝わってくれたらさいわい也。

たとえば「新入社員の◯◯さんてなんか色気あるよね」だとか「男子だったら◯◯くんカッコいいよね」だなんて本人の聞き及ぶ及ばない問わず、もはや絶対口にしてはいけないことである。
縁もゆかりもないアカウントでつぶやいたとしても、まったく存じぬ通りすがりに「職場の人間にそんな感想を抱くことからして認知の歪み!恥知らず!特定し社会から抹殺してやる!」と炎上させられかねない。

「めっちゃえろい〜」とか「いいおっぱいだなあ」とか「◯◯ちゃんの体理想だわ」とか、思うことも許されないこんな世の中ポイズン。
しかし(口に出す出さないはともかくとして)思うどころか見つめてOKな場所がこの世にはまだ、ある。
要は、こんなふうにある種手放しで身体美を讃えることができるところ、すでにあんまりないんじゃないかなと思うんです。自分だって職場だろうとナンパだろうと容姿やセクシャル的な言及されたくないし、言わない。
それでも。


だってえろいものはえろいでしょ?きれいなものはきれいでしょ?
えろがえろくてきれいで存在してるだけ。
扉の向こうのステージの上、唯一それをひけらかし、許される場所がストリップ。


そうワイは、よくよく救われてきたわけです。ストリップに。
それがもう、行かないかも知れないのは、完全なる主観体感実体験ですが『自分にとって治安が悪くなったから』です。


一大地浅草なんかではたしかに、行く度にインバウンドさんがケータイ出して注意されてるなあみたいなことはあるけどそれは『わたしに対して』ではない。自分にとっての治安はここ3〜4年、雪崩れるように悪くなっている。端的に言うとこわい。
より数年前なら「ストリップはいいよ〜」と気軽に友だちに言っていたが、もう言えない。行きたい子がいたらソロ鑑賞派のワイでも絶対ついていく。心配だから。
「ひとりでも大丈夫!みんな紳士だよ!」無責任に言えない。


浅草を出したのでそこから話す。浅草は元々、館内より、並んでいるときの治安が悪かった。
どういう因果か、ワイの言う『治安が悪くなってきた』とコロナ禍がなぜかかぶっているが、その3~4年以前から治安の悪さを感じるのは、浅草の待機列である。

ある日は、ワイの背中を再三なにかが擦っていく。気のせいかなーと思ったが何度目かでハア?と見返ると真後ろの、貼り付く位置に妙な体勢のおじさんがいる。目線はあくまで手に持った文庫本を凝視したまま、そのページを、ワイの背中にかすれるようにしてめくっていたのだ。
スサ…スサ…て、これか!妖怪かよ!
妖怪ページせなかスサスサ。
本ごと振り払うとおじさんはひどく驚いていた。本に夢中で気づかなかった、というそぶりを示すがいくらなんでも白々しい。イヤァスミマセン〜とは言ってはいたがこのまま会話をこころみられたら面倒なので応答せず、イヤホンを付けて存在を抹消。

ある日は前に並んだおじさんが、どうしてもワイの存在が気になるらしく何度もふり返り、顔をのぞき込もうとしてくる。そのうち完全に体ごと後ろ向きになり、ワイと向かい合うかたちになってしまった。
ワイは絶対に顔を上げず、ひたすらケータイを見つめ、イヤホンをちょっと直したりする。
『顔のぞき込みおじさん』はこのときだけでなく、ちょいちょい存在していたが向かい合っちゃうやつまではそういない。
怪異として、無視がいちばんである。

他にも『ひたすら独り言のように話しかけてくるおじさん』は前後ともに出現率が高く、こういう怪異的なおじさんの中にはひとりだけだが、劇場内をついて回ってきた人もいる。
隣に来るんだろうなあと座ってみたら案の定だったので、開演直前に反対側へ移動した。更についてきたら次の手を考えようと思ったが、さすがに来なかった。
ワイがすく!と立ったときの動揺した様子、マジざまぁであった。


浅草においては単純に人数が多く、新規さんも入りやすい結果として変わった人が多いように感じるんだろう。
と思っていたが、ワイをしんどくさせた要因①はまさに、その新規さん集団である。どうも新規の、ソロでない男性グループは『おれたちはカネを払わないと女の裸が見られないワケじゃないんだ!!』ということを、強く強く主張したいらしい。もちろん、ごく一部ではあるが。

他の男性客に対して見栄を張っておきたいのか、グループ内の力関係確認および誇示だろうか。ワイ主観で申し訳ないが特に女が近くにいた場合、なおのこと大人しくなれないようである。
それまで静かに待っていた男性陣の後ろに並んだ途端、なにやらぎゃあぎゃあ言い出したことも一度ではないし、後ろに来た男性陣が強迫観念に駆られたように、ひたすら女性経験をしゃべりつづけたことも一度ではない。

それでも内容としてはほとんど、たわいない。
いちいち「えっwちょw女性いるんだけどw誤解されるw」「マジでw童貞と思われたらやべえw」とひそひそしたり「下心とかさあ!ないんだけどさあ!」「な!ゲージュツらしいもんな!いや先週おれ彼女とヤッたし!」「おれ昨日~!」と主張し合ったりしている。
このイキり、学生さんのような人たちがやっているならともかくおじーちゃん手前の男性陣まで行っているので、もしかしたら新規マニュアルみたいなものがあり『浅草では、おれたちはカネを払わないと女の裸が見られないワケじゃないんだ!!ということを並んでいる間に周囲に主張しておきましょう』とか書いてあるのかも知れない。知らんけど。

まーじーでうざいながらも、うざいだけで害はない。
ワイにとってはまだまだ許容範囲だったし、こういう連中がいざ幕間や終演後に「なんか思ってたのと違った…凄かった…」と魂奪われているところを見ると、心の中で「そうだろうそうだろう~」と後方彼氏しぐさでうなづき、「このままもう1回観よう・・・」やら「また来よう・・・」やらになったらコッチのもの。
「よしよし!いいぞいいぞよかったな!」と、バシバシ彼らの頭をはたいている。心の中で。

いわんや、好きになってくれたらいいなと思うから。ストリップを。
次にあなたが連れてきた友だちが「おれはカネを払わないと女の裸が見れないワケじゃないんだ!!」て言ったら、そういうんじゃないよ。て、できれば言って欲しいから。


コロナ禍のある日後ろに並んだ男性陣は、たしかに周囲と違っていた。
「女いんだけど、女」「え、なんでいんのかな?」「見て興奮すんのかなあ、女もAV見てるっていうし」「え、え、最近えっちしてないですかーぷーくすくす!」と、あ、これ、あきらかにわたしに言ってますよねー。
ということを延々くり返し、そのうち「先週ヤッた女マジあそこ汚ねぇの」「お前ほんとハズレ引くなー俺マジ最近まん運いいわ!」「ていうか最近の女って貞操観念みたいなの気取ってるくね?アレなに?」「なんだよソレぷーぷーくすくす!やりまんと付き合えばいいだろ!」と、これも延々くり返す。
なんなら自慢のひとつみたいで、大学名までくり返していた。さすがに許容できず、耳を防御しようとしたがこんな日にかぎってイヤホン忘れる最悪。

同じ話をリピートしつづける若者たちの必死さは、正直異様だった。一体なにと闘ってるんだキミたちは。いい加減なんか言おうかな。でも逆ギレされたらワイなんてワンパンである。若者たちは2人組、ワイとは体格も段違い。「アンタに言ってませんけどぷーくす!」てなるだろうしなあ。
いつかのように席まで近くに来られたら対応したいけど最近の混みようでは移る席自体瞬殺だろうし、どうしようかな。良い席座りたいから並んでるのに、並んでてもこうで、入ってももしかしたら良席、あきらめなきゃならないのかな。

なんだかなあ。
ワイ、ストリップ観たいだけなんだけどな。

気づいてはいけないことに気づきそうになっていた、ところでここは浅草。朝から晩まで酔いどれ可能、月曜から夜ふかしにも常連の浅草である。
視界の隅に、まっすぐ見なくてもそうでしょうねというような酔っ払いがあらわれ、一歩一歩と近づいてくる。完全にロックオンされていることは対象のワイにはわかっている。缶酒を手に持ち、布切れのような服を着たいかにもな風体で、ぐりぐり顔をガン見しながら寄ってくる。後ろの男性陣が、ぴたりと黙った。
酔っ払いはワイの真横に立ち、のぞき込んでくる。無言。ワイも無言。男性陣も無言。

…どうしたんだキミら。ここは「え、ちょ、なにこのおっさんww」てやらんの?貫かんの?そのスタイル貫かんの?酔っ払いのほうは体格ワイといっしょくらいだけどもしかして恐いの?こんだけイキって、それなの?

「ねぇ~~ねぇ~~ダメでしょぉ~~ゆりこちゃんがぁ~~ダメって言ってるでしょぉ~~」けっこうな音量でしゃべり出すおっさん。むろんワイに向かって近距離で。「病気になっちゃうよぉ~~しんじゃうよぉ~~ゆりこちゃんがぁ~~言ってるでしょぉ~~」
このコロナ禍に並ぶようなマネをするな、と言っていることは正論である。どちらで呑んだくれていたのか、当のご本人が不審者かつノーマスク、でなければ説得力も増したか知れないが、とにもまことに正論である。

だったら、なんでワイにだけ言うんだろうか。なんでワイだけ真横に立たれて、なんでワイだけ唾が掛かりそうな位置で、なんでワイだけ言われてるんだろ。
まあ、言わずもがなよな。

おっさんは、ひたすら同じ話をくり返す。若者たちも、ひたすら同じ話をくり返していた。おっさんは『女』にだけ主張する。若者たちも『女』に主張していた。そして今は、ビビッて黙り込んでいる。
…この若者たち、話しぶりから、自分らのこと相当イケメンだと思ってるんだろうなあ。(ワイは彼らの顔を見ていない)
ヤバイやん。やってることは完璧このおっさんといっしょだし、あげく気圧され敗けしとる。
圧受けてるのはワイなんですけどね。つまりキミらは勝手に敗けているわけだ。ワイを笑ったように、おっさんのことも笑ってやれよ目の前で。
しかしながらおっさんが視界に映った一瞬でワイは、こうなるだろうなーと予想していた。結果そうなっていることは、ぶっちゃけおもしろい。

こういったシチュエーションは初めてではない。すなわちイキりまくっている男性が瞬時にビビりちらかす状況。
たとえば自身の偉大さを電車の中でも語りつづけていた知人は、乗り込んで来た酔っ払いがずかずかワイに声をかけた瞬間「ボクたち他人ですぅ!」と言わんばかりに背を向け、石化した。それに思わず笑ってしまうワイ。
次の駅でいっしょに降りようよ~とぺたぺた触ってくるパライをいなして「ほらほら着いたよじゃあね」とソイツを降ろし、扉がきっちり閉まって走り出したところでくだんの知人はくるりと向き直り「なーんで相手にしちゃうかなーそういうところなんだよねーああいうのは無視しないとー」と説教たれてきたので「うるせークズ」と笑顔で言ったら狼狽も狼狽すぎるほど狼狽していた。女性陣にも念のため話流しといたから、その後イキろうとしても「でもさ、酔っ払いに絡まれたあの子を無視したんでしょ?」と遮られるうち、見あたらなくなった。
繁華街からの終電はなかんずくトラブルも多いので「嫌なら終電前に帰りなさい」というのは正味、一理ある。


ただ今はさ。
ワイ、ストリップ観たくて並んでるだけだよね?

おっさんに絡まれながら、このときワイは気づいてしまった。
ワイは、この浅草で、ストリップを観るために、今も以前も闘ってる。ストリップを観る列に、ただただ並んでいるだけで、ワイはずーっと闘っている。そういえば「今日はなにもないといいなあ」て思って並ぶし、帰るときには「やーっぱストリップ最高!そういや列なにもなかったな、よかった」て思ってる。

なんで?
ストリップを観るためだけに、なんでワイは、闘わないと並ぶこともできないんだ?
ワイにとってストリップは『たかが』じゃない。
『たかがストリップ』じゃないからこそ、ワイは試練を受けつづけないとならないの?
これからもずっと?

うっかり真理に覚醒めてしまった気がして、ワイの意識はすこーん!と浅草の地面にめり込んだ。
だめだめゆりこちゃんbot化していたおっさんは女の虚無的態度に飽きたのか、ヨタヨタ去っていく。たっぷり姿が見えなくなると後ろの若者たちは「っあー、アイツまじヤバかったわーねえわー」「まじヤベエまじ頭おかしかったよなー」「俺ああいうのワンパンしそうになっちゃうんだよね」「俺も俺も」とイキリ劇場を再開したが、とってもヒソヒソ声になっていた。これまでのように、ほほえましいと思うべきだったのかも知れない。
だがこのときのワイは「ああ、わたしがジェイソンステイサムだったらな」ということしか、考えていなかった。


わたしがジェイソンステイサムだったら、今までどれだけ並んでいようが迷惑ジジイにはきっと、出遭わない。わたしがジェイソンステイサムだったら、現後ろのクソガキ共も最初から、まっとう静かだろう。
わたしがジェイソンステイサムでさえあったなら。
でも、わたしがジェイソンステイサムじゃないなら、もしかしたらずっと、こうなのかも知れない。



そのときの公演はすばらしかった。すばらしいを観る度に更新していくすばらしいなんですよやっぱり。
ワイの感涙もぶじに記録更新していって、ストリップないとやってらんねえなこの世はほんとに!と心の底から思っている。









先生ワイ、ストリップ行きたいんですよ。











つづきはつづけたいとは思う。