もうストリップには行かないかも知れない。3
ワイはベッドでもだえていた。
こんなこともう耐えられない。
どうしてこんな責苦を受けなきゃならないの。もうむり。限界。
「ストリップに…行きたい…!」
3.ワイはどうしてたってジェイソンステイサムではない
浅草にもポラ館にも行かなくなってしばし。
ワイはベッドの上を右に左にローリングしながらうめいてきた。紳士淑女の皆さまにおかれましては、憶えのきっとあることでしょう。
禁断症状である。
「ス。ストリップに。ストリップに。
ストリップに行きたい。ストリップに行きたい…!」
のり塩ポテチをチョコラBBローヤル2で飲み下す。コーラじゃないのでもろもろきっとセーフだろう。むしろチョコラのパワーでリカバー可能なはずだ。バリバリ食ってはゴロゴロしながら考える。
ストリップに行きたい。ワイはやっぱりストリップに行きたいんだ。見てよこの香盤。あ、浅草もやばいなー。ああこれ行かんで如何とするつもり?観たい行きたい息したい。ストリップに会いたい。
いやでも。運かタイミングの問題か。なんかもう、今後、平和に観れる気がしないんだよな…
ワイは落ち込んでいた。
すごく行きたいけど、行きたくない。どうにか自分を納得させるか、しかるべき対策を立てないとワイは金輪際ストリップに行かないかも知れない。
それはとても怖ろしいことだった。
もう劇場にも行かないし、演目も観ないし、踊り子さんにも会わない。なにをどう言い換えたって、そう自分で決めることになる。
つまりは若干立てつづけだった不本意を契機としても、ワイはみずから、もう二度とストリップに行かなくなるかも知れない。ワイの精神年齢なんて幼稚園児と変わらない。意気揚々と出かけても小石につまづく一瞬でうそのようにヤル気をなくして泣きわめき、帰る帰ると駄々こねる、そんなレベルの人間である。
ワイはストリップに行くのか、行かないのか。まさに瀬戸際だ。
どうしたらストリップに行けるのだろうか。ぼろぼろカスをこぼしつつのり塩をかっ込んでいたワイは突如、天啓を得しのび太の顔で飛び起きた。
浅草、並ばなければいいんじゃない??
なんというパラダイムシフト。フェーズチェンジ。
そう、待機列でいやな思いをしたんなら、並ばなければ、いいんじゃないか!
どうしてこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。並んで良い席座るぞー。ということを何年もつづけていたせいで、これほど単純な「並ばなきゃいいやん」に至れなかった。
他人さまからすればアホなの?とため息ものかも知れないが、渦中にあるとなかなか別視点に切り替えにくい。のだと思いたい。
ただ、すべてが上手くいくわけではない。
最近の土日祝は1回目から並ばないと立見になってしまうこともある。浅草は特に。浅草の立見は昨今ほんとうにしんどいので、避けたい。
そうなると平日だが、平日は浅草でもポラ館でも2回目の時間帯のみしかやりくりできない。
つまりは土日祝に立見の可能性含む1回目2回目か、平日の2回目のみか、という話になる。元よりタイミングによってはフラッ・・・と行けるときもあり、予約等必要ない、それもストリップの愉しみのひとつなんだけども。
…耐えられます?
せっかく行って1回しか観ないなんて。
あああああ。モダモダ。ゴロゴロ。バクバク。のり塩うめー。
どうやらここでも、ワイは考え方をあらためなければならないようだった。そうこのあいだからどうも妙なことがつづいていて、予感のように勘付いていたがちょっと、自分は、自分の良いようにしようとし過ぎていたのではないか。
浅草であのオジサンに会っちゃう可能性なんて明日チクシュルーブ衝突体がセカンドインパクトかましにくるレベルでありえない。むしろあのオジサン、ストリップに関わらない可能性の方が高い。
だってあのオジサンにはあのオジサンで「せっかく来たのにいやな思いをさせられ帰った」失意があるんだろうから。
あのオジサンはご新規一見さんのまま、お客さんにすらなっていない。つまりワイは、ストリップのお客さんとなにかあったわけではない。
我ながらいい方向性の考え方になってきた。
この調子である。
浅草だって、事件は劇場内で起きたんじゃない。ひとえに通りすがりの酔っ払いと承認欲求過剰なガキ共の、不運なサンドを食らってしまっただけである。こんなこと、そうそう再来あるわけない。大体今までの人生、へんな人には随分遭遇してきたっていうのにストリップ周辺だけは違うなんてことは、ないんじゃないか。
これは決して『所詮ストリップもそういう場所なんですよ』ということではない。
ワイの傲慢の話だ。
ストリップは、18歳以上の万人に開かれたものである。
この前提にワイは、すっかりうとくなっていたのではないか。
万人に開かれたものならば、万が万の一へんな人が来てしまうことも、そりゃーあるだろう。
なぜなら18歳以上であるなら、だれだって行っていいんだから。
だったら万が一の人に遭遇してしまうことに、ワイこそきちんと注意を払っておくべきだったのではないか?
『ストリップは“女の業”をすべて踊り子さんが請け持ってくれている、ゆえに女性客は安全である』
『踊り子さん目的の男性客はかえって女性客をほどよく敬遠している』
『だからといってどけどけ常連さん優先だぞ!なんてことはない、男性客であろうと女性客であろうと平等に並べる』
『ここは常連さんの指定席である!のけのけ!なんてこともない、空いていれば、どの席だって自由に座ることができる』
この恵まれた環境に、いつのまにかあぐらをかいていた。
すなわち積み重なったワイの傲慢が、事態を招いたのではないか。
だって何事もなく並べば何事もなく座れるなんて、考えてみればちょっと、わがままだと思う。
並ぶだの座るだのの前に、本来、劇場を開いていただけることに、まず感謝するべきだった。
だって何事もなく鑑賞して、1回2回~それ以上観られるのも当然?
都合上プンラスできない自分かわいそうせめて2回は観たいんだけど!
ていうのも考えてみれば何様だ?
まず、公演自体があることに、もっと感謝しなければならない。そして何度も鑑賞できることを、当たり前の権利のように思っちゃ、いけなかった。
踊り子さんは1回1回が全力だ。
わーいよっしゃもう1回観よう!なんて、ワイにかぎれば敬意に欠け、気軽すぎていたのではなかろうか。
その1回を観せていただけることに感謝し、たった1回と思って集中していれば、万が万の一の障壁だってものともしなかった。かも知れないし、その障壁は、ストリップ劇場にもストリップの観客にもほぼほぼ関係しないことなのだ。
並びたいだの良い席座りたいだのオジサンもガキも嫌だだの行ったら2回は観たいだの。
これすべて、ワイの勝手なご都合やんか。
自分は、ストリップとその周辺をいつのまにか、自分の良いようにしようとし過ぎていた気がする。
これが前回も述べた『勘付いていること』であり、このあいだからどうも妙なことがつづいていたのはワイの傲慢をいさめようとした、ストリップの神様からの差し向けかも知れない。
すべてはワイの欠ける真摯さ、思い上がりの結果だったのだ。
いやそんなことはないやろ。
とも思いつつ、ワイは自分の理屈に大概納得した。
簡単に言えば「ワイにも悪いところはあったかも知れんな。あんまわがまま言わんとこ。気をつけるとともにもうちょっと真面目に向き合お。」てことである。
ワイにとってストリップは『たかが』ではないが、今日間に合うやん!行っちゃお!きゃー!かわいい!えろい!うつくしい!泣けるー!
と、たしかに月日の進みとともに軽率になっていった面は否めない。
ここで凶あればきっかけとし、みずから変わるときなのだ。
気合を入れ、注意し、気をつかい、真摯であり、綿密になり、欲を捨てる。
…これでやってみて、ダメだったらまた考えよう。
このときワイは『自分にとってのストリップ』を『娯楽』から『修行』にしてしまったことに気がついていなかった。
園児マインドのワイにはたして、いつまでこのスタンスがつづけられるだろうか。言わずもがなであったのだが。
さてそろそろとストリップに戻りはじめたワイは、ちゃくちゃくと元通りになっていった。
並ばない。良い席を求めない。充分周囲に注意する。感謝と敬意を忘れない。障壁をものともしないほどの気力体力があるときのみ行く。
以上の約束事を守っているからか、妙なことも起こらない。帰すればアレらは、ワイの傲慢がかたちを成してあらわれたモノノ怪だったのかも知れん。
都合上前ほど気軽に来れなくなったし、行けるかも!というときも、全方向失礼ないほどの気力と集中力がそのときの自分にあるかを自問し、本当に今の自分にストリップを観る資格があるのかを熟考し、見出せなければあきらめる。
行く前からちょっと疲れてしまうルーティンが加わったが、それでおのれの平穏を得られているならしかるべきだ。
そして、しみじみ。
ストリップていいな。
自分で決めたことだけどいろいろ気構え必要になって、疲れちゃうけど、行ったら観たら吹っ飛ぶもんな。
ワイ、ストリップだいすきなんなあ。
もしかしたら、これのこう、こうなったのって、成長のうながしだったのやも知れん。今までだくだく過ごしてきたさかい、神さんからの忠告としてありがたく受け取って、ワイのストリップ観劇人生はネクスト次章開幕や。
変わらずワイはニコニコしながら、ときにハラハラし、ドキドキし、ポロポロむせび泣き、ストリップに行っていた。
そうしてある日の浅草、2回目のことである。
皆さん好きな劇場しぐさってなんですか。
ワイは「席どうぞ」である。
初期に「もう帰るんでここよかったら座ってください」にはじめて出会ったとき、なにか見返りを求められるんじゃないかとビビり、アワアワ首をふってしまった。
何人かの紳士たちを苦笑させてようやく、どうやら見返りなど必要ない、紳士同士でも丁寧に声をかけ合っていることがわかって随分、感動したものだ。「次こっちから観たいんで交換してもらっていいですか」等、皆さま実にスムーズである。
みんな、踊り子さんが観たいんだな。
自明のそれをはっきり把握しほっとして、以来必要なときはありがたく座らせていただくことにした。
ワイのためというよりは「せっかく来たんだからなるべくいいところでステージを観てくれ!そしてストリップを好きになってくれ!」という、心地好い圧があったのだ。
余談だが『だれに声をかけようか問題』みたいなものがいくらか発生するのでは、と、ちょっと思っている。もちろんそのときの混み具合や立ち位置にもよりますが。
女性客が少なかった時分にはわざわざ声をかけに来ていただいたりしていたが、基本は近くに立っている人や隣の人に声をかけるものなのかな、と。
ワイ、なにせコミュ障。自分から声をかけようとしていつも、カサカサカサ…と立ち去るのみ。
自分がこんなものなので、声をかけてくださる方の中にはもしや、勇気をふり絞っている人も、いるのかも知れない。
そうある日の浅草、2回目である。
自分的にはけっこう良席、今日ここ座れてラッキーだなー。今日来てよかったなー。
と心の中でにまにましながら、この日もストリップを観ていた。
浅草の幕間っていいですよねー。トイレ立ったらもったいないよ!とついご新規さんらしき方々に言いたくなっちゃう。言わないけど。
とりわけワイは「この踊り子さんてこういうお声してるんだー」と新鮮な気持ちになっている。
あまりポラを撮らないからだが、なんなら各景解説で「読むのうま!」と更にファンになったり、「めちゃくちゃ下手やな!」で更にファンになったりしている。
(劇場さん的にはポラ撮った方がもちろんいいのはわかってるんですけど、演者さんと話すの吐きそうになるほどにがてなんです)
(ステージ写真やプロマイドあったら買ってます。許して。)
踊り子さんに限らず、役者さんなり映画なりでも、人となりや作品の裏側、監督さんの意図などを進んで知りたいと思わなくてですね。あくまで、目の前にお出しいただいたものがすべてというか。
つまりワイにとって各景解説は踊り子さんの『個』が垣間見える数少ない機会であり、毎回楽しみにしている。
その日、もうすぐ踊り子さんのお声が聴こえるなーと待ち希んでいたとき、隣の席の男性客が「よかったら席交換しましょうか」と声をかけてくださった。
ワイにとっては前述どおりそこまで悪い席でなく、こと途中であまり位置を変えたくない、と思っていた。その日そこに座ったのなら、一旦は最後までそこで観てみる。位置悪いかなーと思ってもなにか発見があるかも知れないし、どの演目がここからどう見えるかは、見終わらないと評せない。
人生はチョコレートの箱。開けて食べるまで中身はわからない。ストリップ自体、何度観てもいつも、新しい気づきをくれるのだから。
「絶対ぜったいゼッタイ移動しません!!」と特段ものすごくこだわっているわけではなく、1席ズレるだけでも見え方が変わることはむろん認識していたが、この日の席が『自分にとっては』悪くなかった。だけである。
「大丈夫です、ありがとうございます」
なので、笑顔で辞退した。
「いや、1回目からここで観てるから、変わるって言ってるんですよ」
お。おお。
えーと、この人がワイのとこに座りたいって解釈?1席ズレると変わるからって?
それ、こういう言い方になるん??
「あの、大丈夫です…ここからも良く見えるので…」
「いやだから、こっちの方が見えるでしょって言ってるんですよ。だから交換しますって言ってるんですよ」
ど、え、ど、どうすりゃいいの?
「席どうぞ」を辞退して、こんなに粘られたこと人生でない。
この人が本当に思いやりから申し出てるにせよ、この人がこっち座りたい思惑にせよ、ワイくみ取らないといけないんかな??
正解がわからず、ワイは静かにパニクった。
もう踊り子さんのお声なんて入ってこない。劇場のたった2席間、ワイとオジサンの間にてピリピリ走る緊張感。
オジサンは眉間にシワを寄せ、顔をそむけて「ハーやれやれ」の様相だ。
ワイは、この不機嫌をケアしなければならないのだろうか。
せっかくお声がけいただいたことに感謝し、オジサンの言うことを聞かなければならないのだろうか。
だけど…この人、なんかおかしくない??
こんな圧かけられたことないんだけど、席どうぞで。
この人、こないだみたいにおかしい人だったらどうしよう。
そしたらそもそも、おかしい人の隣で大丈夫かな。
もはやこの席自体移動した方がいい?
でももうすぐ後半始まるよ、ほぼ満席だしあ、ぜんぜん幕間の内容入ってこない。
ぜんぜん、踊り子さんのお声、聴けてない・・・
気持ちに蓋して瞬時にいろいろ考える。
「そうですよね、ごめんなさい!その席座りたいです!ぜひ交換してくださいありがとうございますうれしいです!」てやるべき?
期待されたふるまいを、ワイはこのオジサンに提供しなければならないだろうか。
なんで??
このオジサンがへんな人ぽいから?
その方が身の安全をはかれるから?
ワイ、充分注意するって決めたよね。それってこういうときの、こういうことだよね。
選択を誤らないようにしないと。
ワイがワンパンされるだけならともかく劇場さんや踊り子さんに迷惑かけるのだけは嫌だ正解。正解を、引かないと。
一生懸命フル回転したが、ワイのいやしい脳細胞はつまるところ、結論を変えはしなかった。
…ワイ、ここに座っていたいだけだよね?
…ここに座って、ストリップ観たいだけだよね?
今日、ワイはここに座ったんだ。そんで、最後までここで観たいんだ。
ただそれだけ。
オジサンの真意は読めないし、単に押し強いだけの善い人なのかも知れんけど、少なくともワイがこの席に居つづけることは、悪いことじゃないと思う。
「この席で見たいので、大丈夫です。ありがとうございます。」
再三辞退の意を示すと、オジサンは舌打ちしかねないほど顔をいがめ、肘置きにバン!と腕を置き、ガ!と脚を開いた。
あー。
これねー。
やる人いるよねー。
不機嫌アピールでねー。
領域展開する人ねー。
あんなに楽しかった前半から一転、ワイは隣のフキハラオジサンにどんどん手足の置き場を奪われながら、後半の鑑賞をすることになりそうだ。
…しかたないのかな。
せっかくのご厚意を無下にしたんだから、その責任、てことなのかな。
「こっちは譲るって言ったんだから、断ることないでしょう」
まだ言ってくる…
こわい…
もう立とうか。でも立ったら立ったで刺激しちゃうかも知れない。どうしたらいいんだ。
せ、正解がわからない、と本日何度目かに思ったとき、オジサンはガン!と椅子をはね上げ、去っていった。
それは後半直前で、アンテナを張っていたであろう他の男性客があざやかにさっと座りにきたが、ワイは固まっていた。
帰っちゃった。
オジサンからしたら親切で声かけたのに、固辞されてそりゃー怒るよね。きっと後半も観たかったと思うのに、悲しくなって帰っちゃったんかな。
これワイのせいかな。
いやでもさ。
そもな。
これ妄想杞憂かも知れんがな。
隣に女が来たからっていうの、ワンチャン、あったりしない??
だってあの人おかしいでしょ?
なんで断っただけであんな不機嫌なって、ガン!て帰るの。あの様子だと後半も観る気だったわけだし。
幕間で席チェンジ言われることって、ワイはあんまり経験ない。
つまりさ、1回目終わって帰るかなーてときに女が隣に来たから、幕間で話しかけてみようかなって。
ワンチャンね。
なんかそう思ってたとしたら、ちょっと、オエー鳥じゃない??
いやいや、オジサンはオジサンなりに、常連さんがやってるのを見ていつか自分もやってみようとドキドキしながら、やっとの思いで「席どうぞ」してくれたのかも知れないやん。
それが断られてショックだったのかも知れんよね。
もしくはワイが存ぜぬだけで顔役的なものすごい常連さんで、彼の席どうぞ人生で断られたことなんてついぞなく、プライドどころかその完璧な席どうぞ歴にワイのせいでキズがつきついつい態度が粗く…
ワイはしゅくしゅくとその意を組んで寛容に…
寛容…
感謝と敬意…充分注意して…
しかし、好きな席に座りたいって、そういえば自分の約束事をやぶってしまった。
我を通し、傲慢に居座り、都合を譲らず、固執したから。
どうやらワイは、座った席に座りたいという資格すら、失いつつあるらしい。
まじか…
身から出た錆、なのか…?
きらきらかがやくステージを観ながら、でもそんなに駄目なことしたかなあと往生際悪く、ぼんやりする。
とっくに集中なんてできるわけない。
ストリップの神様、ワイ、そんな駄目でした?
座った席に座りたいのも、あかんとですか?
今、泣きそうなのは、ステージがすばらしいからじゃない。自分の都合だ。
ステージ以外で涙なんて使いたくない、とこらえたが、それでも視界に濡れひかるパフォーマンスはすばらしく、そのためこの世でもっとも思いたくないことを、ついに思ってしまう。
ただ椅子に座って観に来ただけのワイがこんな理不尽に遭うなら、
ステージの上で踊る踊り子さんは、どんな目に遭ってるんだろう。
すでに嗚咽をこらえきれず、ワイはステージを観もせず泣いていた。
同じ女だからわかる~。なんて嘯くつもりはない。
でも、イヤなこといっぱいあるんだろうな。
そのうえで、踊って、脱いで、裸になって微笑んで。
どんな理不尽があったって。
こんなふうに考えることを、たぶん踊り子さんは望んでいない。だってまずは、磨き上げたステージを観て欲しいハズだから。
だから今、ステージを観てもいないワイが、勝手に妄想して勝手に同情して勝手に泣いているだけだ。
申し訳ない。唯々、申し訳なかった。
障壁をものともしないほどの気力体力があるときのみ行く、と決めたのにワイはあっさりくじかれた。
初めからいろいろ足りていなかったのかも知れない、自分に甘く、よくよく考えずに来てしまった成り行きがこれだ。
座るどころか、もう、二度と、ストリップに行く資格を得られないのではないか。
喪っていくものを、どうしたらこぼさないでいいのか見当もつかないこの日の後半は、ほとんど憶えていない。
やはりどうしたってわたしは、ジェイソンステイサムじゃないんだろうな。ワイは思った。
わたしがジェイソンステイサムだったら、最初っから立見するし。ステイサム、座らないし。わたしがジェイソンあ、でもムリかも。
もうムリかも。
わたしがジェイソンステイサムであっても、ムリかも。
だってワイのメンタル、絶対ステイサムれないやん。
体は死ぬ気になったら万が一ステイサムれても、ワイは心をステイサムれない。
だからもう、ムリかも。
先生ワイ、ストリップ行きたいんですよ。
つづきはつづけたいとは思う。