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【下北での記録】そんなこと言ってるうちは出会えないよ

5月19日日曜日 0時回ったあたり

その日は確かお店を3軒ほど回ったのだが、まだ飲み足りない、というかなんだか寂しい。酔いが回ると人に会いたくなるのは性である。正社員として働き始める前の最後の日曜日、というのも大きな要因だったかもしれない。普段はそれほど行かない建物四階にあるバーへ足を運んだ。


「えぇ!お疲れ様です。珍しいね」

普段は下北沢の別のバーで働いている女の子。日曜日の0時ということもあり店内にお客さんはゼロで、締め作業を行っていた。ややご迷惑かとも思われたが入って何も頼まずサヨナラの方が余計迷惑極まりない。とりあえずお茶ハイを注文しつつ尿意が我慢できなかったためすぐトイレへ向かう。あとその子へテキーラ(良い飲みっぷり)。

店内で流れていたのはビートルズ。両親もビートルズが好きだということで繋がったらしく、ご自身もビートルズで胎教されていたとのこと(羨ましい)。レコード集めも趣味の一つで、その日はお店に置いてある私物のビートルズレコードたちを見せてくれた。

「あ、これ俺一番好きかも」

「じゃあ、かける?」

DJブースもあるこちらのお店。その子が取り出したマジカルミステリーツアーのレコードをパイオニア機材へひっつけ、PCから流れていた音源を切り替える。

片付けを進めながら雑談に付き合っていただいた。大分酒が入っていたため喋り過ぎなところがあったかもしれないのが今考えれば申し訳ない。僕が最近気になってる本の話(みどりいせき)から、その子が傘をどうしても斜めにしか刺せないからどのみちずぶ濡れになる話(その日は雨だっただろうか)。何がトリガーだったかは覚えていないのだが、それから異性に求めるものの話になっていった。

「ヒゲはマストですね。それから、坊主か長髪」

「それはなんか理由はある?」

「う~ん…フェチだから?」

野暮なことを聞いてしまった。そこに理由はないのだろう。

酔いが回りすぎていれば聞かれてもいないのに自分のことを喋ってしまう。

「俺はね、俺のことを好きな人が好き。デンジ君と一緒」

「それはちょっとよく分からん」

恋愛経験の少なさや自信の無さからだろうか、他人からどんな種類のものであれ好意を寄せられたらすぐ好きになってしまう傾向が強い人間である。ただ人を好きになる理由としては歪んでいるのかもしれない。

「まあ何であれ素敵な人に出会えるとええなぁ~」

などと大分恥ずかしいセリフを吐くと、やや食い気味に返された。

「そんなこと言ってるうちはね、出会えないよ」

それにはかなり強い説得力があり理屈なしに納得できた。

無理に理屈に当てはめたら、それを言うだけで満足してしまうからなのか、引き寄せの法則的なものに当てはめるのであれば、「恋人がほしい」という事実自体を引き寄せているからなのか。なんにせよしっくり来るのであればそれは自分の中では真理になる。

これからはそういったことを言わないようにしようと心に誓ったのであった。


数週間後に他のお店で飲んだ時に、その時は男性の店員さんだったが、同じような話題になった。

案外「別に恋人とかいいかなぁ、なんて思ってた時にふと現れたりするんだよね」

経験則でそうだから、これからもそうなのだと思う。


長居しすぎても申し訳ないので、一杯飲んでからお会計をお願いする、その前に僕が切り出した。

「ジャンケンしよう」

「え、なんで…」

あまりノリ気でないその子に無理矢理ジャンケンをしてもらった。

僕がグー、その子はパー。

「…ジャンケン勝ったからもう一杯テキーラ飲んでいいよ」

「やったぁ!!」

満面の笑みで一瞬で飲み干す。

面倒くさいと思われるのを承知で、こういうのが人生のスパイスだと思って時折用いながら生きている。








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