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【下北での記録】上京ができるということ

今下北沢で一人なんですが飲みとか行きませんか?

6月25日火曜日。大学は違うが、部活の繋がりで8年ほど前から知っている後輩からDMが送られてきた。

駅から歩いてすぐの飲み屋に向かうと入口からすぐ見える席に座っていたのが、坊主に眼鏡の今は落語家の彼。近況や昔話をしつつ、酒と黒いチャーハンなどを食らう。その手の界隈にいる人しか知り得ないダークな話を聞くことができ、「やはり自分はあちらの世界には飛び込まなくて良かった人間だったのかもなぁ」などと思ったりした。

ひと段落ついてから、二人で次のお店へ。

「あ!ありがとうございます来ていただいて!!」

よく行っているお店のスタッフさんの友達が働いている、お馴染みのエリア付近にある飲み屋さん。友達の友達は友達なので、つまりは友達である(この日友達になった)。その日流れていたのは坂本慎太郎。

「お、坂本慎太郎いいですね!」

「あぁ!好きですか?」

「うん、でも今度のリキッドのライブ抽選外れちゃったんですよね」

「あぁ~、私当たったんですよねぇ~」

「えぇ~羨ましい…」

フランクにこういった話題で盛り上がれるのもありがたい話である。

「〇〇君は、音楽とかどんなの聴くんだっけ?」

「俺昔はあんまり聴かなかったんですけど、最近ゆらゆら帝国とか聴くようになったんですよ」

周りの人の影響であまり触れてこなかった音楽に触れるようになったとのこと。ちなみに一番好きなのはガガガSPらしい。

そこからどういう経緯だったかは記憶が曖昧だが、出身の話になった。

「え、ご出身どちらですか?」

「僕は愛媛です」

「あ、みかん、ですよね」

自分の出身県はみかんと道後温泉以外に特にアピールポイントはないため(本当は海鮮品が美味かったりとかあるのだが)、大体こんな反応になる。まあ地元愛はこれっきしもないため(むしろ痛々しくもレぺゼン下北沢)、特に悲しくも感じない。

「どちら出身なんですか?」

「私はね、ずっと東京なんですよ。東京から出たことないんです」

都内には思ったよりそういう人たちがいる。

「どっか外出てみたいとかは思うんですけどねぇ~」

「あぁ、でも僕東京出身の人って大分羨ましいなと思ってて。ずっと日本の最先端のものを享受し続けてるわけじゃないですか。自分が都会への憧れが強いっていうのもありますけど」

「う~ん、人によるんじゃないかなぁ~」

落語家の後輩も強すぎない相槌を打つ。

「ただ私思うのが、上京できるって良いなって

「というと?」

「なんか、住み慣れた故郷を離れて、東京にやってくるっていう行為自体が羨ましいというか、上京っていう言葉がもうなんか、エモいじゃないですか。ただ私はずっと東京に住んでるから、上京という行為ができないんですよね」

言われてみれば考えたことがなかった。

落語家が続ける。

「俺出身神奈川なんですけど、渋谷まで30分で行けちゃうんですよね。ただそれってもう上京じゃなくてただの移動なんですよね笑」

東京に「住む」だけなら誰でもできるが、上京とは、地方出身者の特権だったのである。

最初に東京に行った時のことを思い出してみる。ビルに次ぐビル、行ったこともないけれども名前だけ知ってる地名や路線の数々。モダン、トレディショナル、ポピュラー、ディープなんでもござれのてんこ盛りカルチャーのジェットコースター。あらゆる作品、娯楽はここから作られているんだと強く感動し、自分がその場所にいる、ということにとてもワクワクした。人がほとんどいない、店もあまり空いていない早朝の渋谷を歩くだけで心躍ったものである。

今でこそ東京ではトータルで2年近く暮らしており、ある程度慣れ親しんでしまったため以前ほどの新鮮さは感じないものの、やはり少なからず大都会として輝いている部分を感じるのは、上京してきたから、そして、地方で生まれ育ったからなのだろうななどと思ったり。


その後も結局数十分ほど話した。

「俺『NANA』すごい好きなんですけど、あの一番最初のギターだけ持って上京するシーン、あれめちゃめちゃ好きなんですよね」

名作と名高い割に通ってこなかった『NANA』を読んでみようかと思うキッカケにもなった夜だった。





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