【下北での記録】どこまでも純粋な
4月12日木曜日 午前0時半頃
しばしばお世話になっている下北のこちらのお店。
いただいたウーロンハイを飲みながら、談笑したりお店に置いてあるギターをみんなで回して弾いたりしているとその女性は自転車に乗って颯爽とやってきた。
その日の店員さんがかつてベースとして所属していた、バンドのボーカリスト兼ギタリスト。
初めて会った時に店員さんに楽曲を勧められたため後日Spotifyで聴いてみると、その強い声と強い言葉に強く心を打たれた。
こんなに早く本人に出会えるとは思わなかったため、そして酔いやすい体質の癖に4杯目だったため、やや前のめりになって話しかける。
「ファンです!」
「あぁ、そうなん。ほなおごってくれる?」
目が座ってなかった。きっと自分の倍以上飲まれたのだろう。知っていたのは歌声だけで他人と会話するところは聞いたことがなかったのだが、どうやら関西の方らしい。
「あぁ、全然奢りますよ!!」
「ありがとぉ~」
突然のハグ。
酒に飲まれると不思議と肝が据わるのか、自分の中で驚きより嬉しさが大きく勝っていた。
その後は酔いに任せて、少し悲しそうな笑顔で支離滅裂なことをひたすら話し続けたその女性。
会話の内容で覚えているのはこれくらい。
この「死にたい」に対しては、頷きもしなかったし首を振ることもしなかった、というよりできなかった。
人の「死にたい」に対して共感すること、ましてやズバ抜けた感性を持っている人に対してのそれはおこがましいことだと思う。
そもそも「死にたい」自体に色んな種類の「死にたい」がある。
その人のどこまでも素直な、命を絶つよりむしろ消えたいに近いように思えた「死にたい」は、これまで聞いたあらゆる「死にたい」よりも美しく感じた。
あそこまでキラキラしていて純粋な人は見たことがない。
それが音楽を通して伝える言葉の強さにつながってるのだろうとも思う。
自分の質問に答えてくれたのも嬉しかった。
おそらくウーロンハイを飲み干したその女性は、投げキッスを数回かますと千鳥足のまま自転車にまたがり、
車が横切れば轢かれそうで、通行人がいれば避けれずぶつかってしまいそうな、危うさと共にフラッフラしながら通りを登っていった。
「事故らないかすごい不安なんだけど」
常連さんの一人が言ったのでこう返す。
「大丈夫、神様がそうさせないから」
「ハハハ。でも人って急に死ぬからね」
うん。
本当に急に死ぬ。
最近特に、みんな急に死んでる。
ただ自転車で帰っていったあの人は、不慮の事故でポックリ死にそうな危うさを抱えながらも、「死にたい」と言っていながらも、絶対死なない人であってほしい。
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