当事者になる ⑨施設に引越をする
5月半ば、引越の日がやってきました。
その日は朝9時から作業に来ると引越業者の方は言っていました。
私は8時半に伯母宅を訪れ、いつもの応接間に通されます。
応接間には、伯母が梱包したと思われる段ボールとビニール袋に
包まれた品物が置かれていました。
「もうね、クローゼットのお洋服は業者さんに詰めてもらおうと
思って手をつけてないのよ。」という伯母。
私はあっけに取られました。
高齢の伯母を気遣って私はいわゆる「まるごとお任せパック」を
申込していました。
でも、もうこの状況だとそんなに引越に時間がかからないかも。。
そして、9時10分前に車の音が。引越業者さんが到着しました。
「おはようございます!今日はよろしくお願いいたします。」
とニコリと挨拶して応接間に入ってきます。
伯母はすっくと椅子から立ち上がり、
「今日はよろしくお願いいたします。
運んでいただくものはだいたいまとめてありますので。」と一言。
そして、引越業者さんのリーダーの方に聞かれるまま、伯母は采配
を始めていき、品物が運ばれていきます。
「2階のクローゼットの洋服は全部持っていきます。」「はい!」
「あとはここにある段ボールとビニール袋に入っているものを。」
洋服は専用の段ボール箱に詰められてすでにトラックの方へ。
残りは1階のベッドと和ダンス
和ダンスの中は荷物がそのままでしたが、引越業者さんはさすが
慣れたもの。
中身を入れたまま引き出しを抜き出し、そのまま梱包を始めます。
ベッドもあっという間に解体されて運び出されました。
「あとは忘れた荷物はありませんか?」
そう言われたのは10時半前、そして施設への移動をするべく、
タクシーの手配をするよう促されます。
タクシーの手配が済み、伯母は私とともに住み慣れた家から
施設の部屋へ向かいます。
この車中では伯母は殆ど無言でした。
60年近く住み慣れた家を離れて、新しい環境に移る。。
心のなかで家や町にお別れを言っていたのかもしれません。
そして、私は。
このタクシーの中から見た風景はきっといつか思い出す、
きっと何年も先にこの日のことを思いだす日がくると、
しみじみ感じていました。
施設に到着。もう既に引越業者さんは到着していて、私たち
の到着を待っていてくれました。
伯母の部屋でてきぱきとベッドが組み立てられ、和ダンスが
置かれ、引き出しが入れられて組みあがっていきます。
クローゼットの洋服は部屋備え付けのクローゼットに何とか
収まり、段ボールとビニール袋が置かれていきます。
前日に電気関係(テレビや電気ケトル、小型冷蔵庫)は搬入
されていたのもあり、一気に生活感が満ちた部屋が出来上がり
ました。
「それでは、次は3日後にご自宅の不要品撤去に伺います。」
結局、引越自体は4時間かからずすべて完了となります。
事前に購入しておいたレースカーテンを取り付けながら、
あまりにあっけなく引越作業が終わり、私はちょっと困惑して
いました。
そして、本当に伯母が言っていた通りに事が運んでいくこと
に「意志の力」の凄さを改めて感じていたのでした。