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相田樹音さんのこと。

私がストリップ劇場に行っているというと「男性が行くところですよね?」と言われることがたまにあるのですが、そんなときは「すべての性別の方が楽しめる場所です」と答えています。

「裸になるんですよね?」とも訊かれます。最終的にはもれなく脱ぐんですが、私にとってストリップの踊り子さんはどちらかというと「着ている」イメージのほうが強い気がします。
演目に合わせて趣向を凝らした衣装、小道具、音楽、ダンス。踊り子さんがどんな役を「着る」のか、ひとつのステージごとに考えられたテーマを軸にそれぞれ違う表情を見せてくれるのがとても楽しみなのです。一糸纏わぬ姿になってもなお、プロである彼女たちは「素」になることはありません。客席にいる私からは、肌が露出されていくごとに、踊り子さんだけが手にすることができる目には見えない特別な衣を身に着けていくように思えるのです。

むしろ脱いでいる(脱がされていく)のは観ているだけの私のほうで、「ああ、こんな感情が自分の中にあったのだ」と気づいたり、「そう、私もうんと前に、そんな気持ちになった」と物思いにふけったり、これまで劇場の中で何度涙を流したか知れません。もちろん、楽しくて楽しくてたくさん笑うことも。ひとつの演目が終わってステージが暗くなった瞬間、乾燥したかさぶたがはがれていくような、あるいはちょっと熱めのシャワーを浴びたような、いろいろな現象が起こります。

新井見枝香さんの紹介で知り合った踊り子の相田樹音(あいだ・じゅね)さん。私の小説『ただいま神様当番』に登場する「愛和ネネ」という踊り子さんは、樹音さんをモデルにさせていただきました。

読書家で、人情深くて、クラシックでもあり斬新でもあり、見ている人をあっというまに惹きこんでしまう不思議な人。愛和ネネと相田樹音さんは、私の中ではほぼ同一人物といっても過言ではありません。

そんな樹音さん、これまでも私の作品をすべて演目に取り入れてくださっています。今回、神奈川の大和ミュージックで『お探し物は図書室まで』を舞ってくださるとのことで、編集担当・三枝さんと観に行ってきました!

優しいメロディの音楽が流れる中、ステージの奥にいる樹音さんにライトが当たるところから、この演目がスタート。

樹音さんはベージュのワンピースを着て頭をお団子に結い、椅子に座って本を開いたり、ちくちく、ちくちくと羊毛フェルトに針を刺したり……。
そうです、小町さんです。

出来上がった(という設定の)羊毛フェルトは、客席にいる三枝さんへプレゼント。ステージにいる小町さんから差し出されたふわふわの「付録」を受け取る三枝さん! 
三枝さんは何をお探しだったのでしょうか。見つかったかな。

そのあと曲に合わせ、本を手に踊りながらほほえむ樹音さんは、本って素敵なんだよ、みんなに力をくれるんだよということを、体いっぱい使って表してくださっていました。舞台の上で小道具として使われていた本はもちろん、『お探し物は図書室まで』。嬉しかった。
演目は20分ほどです。図書室だった舞台は桜の枝で演出され、樹音さんも私たちも春の景色の中に飛び出していくかのようでした。

これは私なりのイメージですが、
途中からは「小町さん」というよりは「大切な何かを伝えること」「想いを受けとる喜び」「自分で見つけていくこと」というメッセージや、悩んでいたことから抜けて次の季節に向かっていく、リスタートの躍動を感じました。

ものすごい読書家でもある樹音さんの本に対する愛情も伝わってきて、私も三枝さんも大感動……。自分たちの作品を大切に読み込んでいただけたこと、こんなにすてきな舞台にしてくださったこと、感謝でいっぱいです。

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ポラ撮影タイム。(※許可を得て掲載)
このとき樹音さんは衣装替えをしているので赤いドレスですが、頭にはちゃんと小町さんの「かんざし」も刺さっています!

実は私、11月にこの作品で
「第1回相田賞」をいただきました。
樹音さんが「今年読んだ約300冊の中で最も感動した一冊」として選んでくださった賞です。

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本当に光栄なことです。何度読んでも胸が熱くなります。

樹音さんの手作り帯も嬉しいです。
何枚も作ってくださって、すべて一点もの。

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ラベルデザインを再現したものも!!
樹音さんのこういうところ、あったかいなぁ……と思います。

そしてこの日は、新井見枝香さんとのチームショーもあるという豪華な香盤でした。
演目は桜木柴乃さんの『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』。

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もう、すごかったすごかったすごかった……!!!
私も本を読んでから観たのですが、え、小説と舞台、どっちが先だっけ?とわからなくなるくらいにハマっていて、ほんとうに素晴らしかったです。
うう、あんまりネタバレ書けないのがくやしい。

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シャンソン界の大御所、「ソコ・シャネル」となる樹音さん。
なんという迫力。なんという美しさ。さっきまで小さな図書室にいる無口な司書さんだったのに~!
(写真提供:武隈周防氏)

後ろにちらっと見えているのは新井見枝香さんです。
ロングヘアのウィッグに大きなサングラスが新鮮でした。このステージではひとりで数役こなしていて、おどけたマジシャンになったりセクシーなダンサーになったり、あらためて彼女の豊かな表現力や柔軟性を思い知ったのでした。

と、ここまで書いて、ストリップを見たことのない方に誤解のないように補足しておくと、演目にすべて「原作」があるわけではありません。そのほうがずっと少ないと思います。踊り子さんそれぞれの世界観で、オリジナルのドラマ仕立てだったり、曲の歌詞に合わせたり、布やリングを使ったエアリアル、ポールダンス、伝統芸能などなどなど、本当にいろいろです。

樹音さんや新井さんにしても必ず小説をテーマにするというのではなく、この日たまたま2作重なっただけなのですが、本を愛するふたりならではの舞台、圧巻でした。

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コロナ禍はまだ落ち着かず、やみくもに「劇場へGO!」とは言いづらいのですが、お客さんとスタッフの検温、消毒、マスク着用はもちろん、席を間引いたり飲食や声を出すことを禁止したり、この状況下でのルールを作ったりと、劇場もしっかりと対策をしてお客さんや踊り子さんを守る努力をされています。それはストリップというカルチャーを守ることでもあると思うのです。

ストリップ劇場は法令上の制約が厳しくて新規開業がとても難しく、この文化を残していくために必要なのは、今ある劇場を存続させていくことです。私ひとりが時々足を運ぶくらいではたいした力にはならず何かができるわけではないのですが、ただこうして、ストリップが好きなんだよと、この機会に書き残したいと思いました。

うれしかったこのひとときに感謝しつつ、また日々励んでいこうと思います。