16歳の北海道一周旅行記 #2 本州脱出編
1日目の朝
午前6時20分。僕の乗っていた夜行バスは定刻通りに本八戸駅前に到着した。どうやら彼はこのあと青森まで行くらしく、僕含めて数人の乗客を降ろしたあと、非情にも北へ進んでいった。自宅から600km離れた、知らない街に一晩でついてしまったのはなんだかあっけなかったが、同時に日本の高速道路網の威力を実感した。
始めてきた八戸では、上空には雲が広がり、小雨が降っていた。僕は準備万端で来たつもりだったが、案の定雨具を忘れていた。何なら家を出る前までは雨という概念すら失念していた。駅の周りには民家や個人商店があったが、今夜のフェリー出発まで時間を潰せるほどではなかったので、駅併設のNEWDAYSで小さいビニール傘を買い、駅から少し離れた八戸市の中心街、「六日町」へ向かった。僕は家に持ち帰ったあともずっと使うであろうこの傘に「ほんぱち君」と名前をつけた。旅に出る前に想像する目的地の景色は大抵の場合晴れである。ほんぱち君に守られて六日町に着き、想像とは違う天気に若干弱気になっていた僕は、気分転換のためまずは朝食をとることにした。
青森県八戸市は、人口22万を擁し、中核市にも指定されている、青森県下第二の都市である。バスや鉄道(八戸線)も時間数本は確保されている。要するに、意外と都会である。
ドトールコーヒーで朝ごはんのツナチーズトーストを食べ、雨が晴れるのを待ってから、種差海岸へ向かうため本八戸駅へ引き返した。
種差海岸
本八戸駅でもたもたしているうちに列車を逃し、50分ほどホームでソシャゲをして過ごし、午前9時37分、久慈行の汽車が到着した。非電化単線の鉄道とそれに似合わない立派な高架橋で広い八戸市街を抜け、鮫駅をすぎる頃には左手の眼下に太平洋が広がっていた。松林の隙間から覗く白い浜と青い海。いつのまにか晴れていた空と、この見事な車窓はこれからの旅路に多少の不安を感じていた僕を前向きな気持ちにした。来てよかったと、駅についてから初めて思った。本八戸駅を出発して30分、汽車は大久喜駅に停まった。駅前は何の変哲もない海街だったが、東京育ちの僕にも懐かしく感じられるような、そんな場所だった。日本人の頭に共通する「おばあちゃん家」の風景を平均して濾過したみたいな街並みだった。
大久喜駅から、北に向かって歩いた。松林の中に入ると、外部の音はしなくなり、するのは自分の枯葉を踏む足音だけだった。種差海岸の芝生群生地は最高だった。広がるのは緑と青のツートンカラーの風景。司馬遼太郎に「どこかの天体から人がきて地球の美しさを教えてやらねばならないはめになったとき、一番にこの種差海岸に案内してやろうとおもったりした。」と言わしめた種差海岸は、僕のまだ16年しかない人生のうちで1,2を争う絶景として記憶された。
海岸沿いのおしゃれな店でカレーライスを食べ、白浜を歩く。この白浜の北にある「芦毛崎」をかなり楽しみにしていたのだが、8kmを歩いてきた僕を見下し笑うように空は曇り始めてしまった。芦毛崎の美しい眺望はお預けである。いいところで「続きはFANBOXで」と言われているような気分だった。諦めつつバスで鮫駅まで向かう。バスの車窓からも海が垣間見え、バス旅も悪くないと感じた。案の定ロシアかどこかの予算0サメ映画に出てきそうなサメのオブジェが置いてあった鮫駅から再び列車に乗り、本八戸駅に帰ってきた。8km歩いたため自慢の健脚は棒のようになっていて、高速バスの疲れを癒すためにもカラオケに入って仮眠をとった。お邪魔したビックエコーではLINE友達登録をすると200円引きになるキャンペーンをしており、ブロックするのも気が引けたため東京に帰りこの文を書いている今でも僕の携帯にはビックエコー八戸三日町店の公式LINEが健在である。
八戸の夜
日が暮れる頃カラオケを出ると、街から太鼓の音がしていた。いつのまに千と千尋の世界に来ていたのかと不安になっていたが、その音は今日ちょうど八戸で行われていた祭りの音だと気がついた。知らない街の屋台で夕飯を食べ、知らない街の知らない子供たちの知らない踊りを遠目で眺めた。地元の高校生(=同学年)がぞろぞろやってきたが、僕は話しかけられるはずもなく方言で話す彼らに勝手に、気色悪くも親近感を沸かせていた。
船出ー本州脱出
フェリーの時間が来た。フェリーターミナル行きのバスが本八戸駅前に来る。いつのまにか雨がかなり強く降り出していて、ほんぱち君の本領が発揮された。
ターミナルに着き、乗船手続きを終え、桟橋を渡るときには21時を過ぎていた。ついに本州を脱出する。荷物を人権がない代わりに値段が安い二等船室に置いて、甲板にあがる。出航の時間である。小雨の降る八戸港から眺める八戸の夜景。汽笛が時刻を告げ、係留綱が外され、ゆっくりと船は横滑りをして大地を離れた。本州脱出。船が出る瞬間がこの世で最も「旅してる感」を演出する。
遅いと思っていたフェリーだが、ぼんやりしているうちに八戸の灯りは小さくなり、僕は船室に戻りエンジンの音と小さな波の揺れを感じながら眠りについた。
本記事に使用した写真は注釈のない限り著者自身が撮影したものであり、著作権に基づき一切の無断使用・転載を禁止します。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?