名前も知らない、挨拶だけのコミュニケーションでも信頼関係はつくられる
今朝、住んでいるマンションの管理人さんに久しぶりにお会いしました。毎日午前中に通いで来られている方で、顔はわかるものの名前は知らず、すれ違うときに挨拶をするだけの間柄です。
その管理人さんに「あのね、明日から休みなんだ」と突然言われ、最初は意味がわかりませんでした。普段、出勤されないときも特に告知はなかったのにどうしたのかなと思いましたが、体調を崩されて本日を最後にお辞めになるということでした。
朝の「いってらっしゃい!」がうれしかった
私がこのマンションに引っ越してきたのは3年前。母が亡くなり、実家に父が一人になってしまったので少しでも実家に近い場所に住もうと引っ越しました。
母がいなくなった実感はふとした瞬間に私を襲いました。実家に住んでいた頃、私が出かけるときは母は必ず玄関で見送ってくれました。直前までケンカをしていても必ず「いってらっしゃい」「いってきます」の挨拶を交わしてから出かけるのが日課でした。
母の「いってらっしゃい」の声がもう聞けないのだと思うと、急に心細くなることが多かったあの頃、私にいつも変わらぬ挨拶を返してくれたのが管理人のおじさんです。
私が仕事に出かける時間は、管理人さんはたいていゴミ収集の準備か植え込みの手入れをしている時間。タイミングが合わない日もありましたが、すれ違いざまに挨拶をすると、いつも片手を大きく上げて「いってらっしゃい!」と声をかけてくれました。
私はその挨拶になんだか救われるような気がして、おじさんと挨拶を交わせた日はそれだけでいい1日だと思えるようになりました。
いつも挨拶はひとことだけ
顔を合わせるのはいつも朝の出かける時間なので、何か話をするわけではありません。私が「おはようございます」と声をかけると「いってらっしゃい!」と片手を上げて返してくれるのがいつものパターン。一言加えるとしても「暑いですね」とか「雨が降りそうですね」とかお天気にまつわる言葉を交わす程度。
名前も知らないし、住んでいる場所も年齢も、どういう人なのか何も知らない相手。建物内で会ったことはなかったので、おそらく管理人さんも私がどの部屋の住人なのかはご存じなかったと思います。
それでも、何度となく顔を合わせるうちに信頼関係のようなものができてきましたが、私が会社を辞めてからは決まった時間に出かけることも減り、管理人さんと顔を合わせることはほとんどなくなりました。
ひさしぶりに挨拶をした日が、最後の日
この1か月ほどのあいだで挨拶を交わしたのはおそらく片手で数えられる程度。後ろ姿や遠目に見かけることはあっても、それまでのように目を見て挨拶をする距離でお会いする機会は減りました。
今日はたまたま管理人さんの仕事のタイミングと私の出かけるタイミングが重なったらしく、ひさしぶりに挨拶をしようとしたところ管理人さんのほうから挨拶を飛ばして「あのね、明日から休みなんだ」と言われたのです。
「すごく痩せたでしょ」いつも一瞬だけしか顔を合わせないのではっきりとはわからないものの、言われてみれば管理人さんの身体はひとまわり小さくなったようでした。「体調を崩しちゃってね。今日新しい人に引き継いで、明日からはずーっとゴールデンウイーク。そのままシルバーウイークだ」そう言って今日が最終日であることを教えてくれました。
体調を心配する私に「せっかくあなたと話せるようになって残念だけどね。でも心配しないでいいよ。これが僕の人生なんだから。あなたも元気でがんばってね」管理人さんはそう言って笑い、いつものように片手を大きく上げて「いってらっしゃい」と送り出してくれました。
もうお会いすることはないだろうと思います。正直、どこかでお会いしたとしてもわからないと思います。それでも、管理人さんと交わした挨拶は私にとってとても大切な思い出です。
管理人さん、お身体に気をつけてお過ごしください。今まで本当にありがとうございました。
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