【ショートストーリー】カレンへの贈り物
クリスマスの夜、残業のあった夫のハリーがやっと帰って来た。カレンは二人の子を寝かしつけたあと、ジョニー・ミッチェルを聴きながらダイニングテーブルで本を読んでいた。
「遅くなってごめんね。走って走ってやっと終電に飛び乗ったんだ。よかったよ、間に合って。はい、これ君に。メリークリスマス!カレン」
ハリーはカレンに2つのプレゼントの袋を手渡した。一つは、コムデギャルソンの包み、もう一つの袋には知らないお店の名前があった。
「ありがとう。なにかしら?」
夫のセンスは信頼できる。私によく似合うセーターを選んでくれたのかしら?カレンの心ははずんだ。
ギャルソンの包みには、黒のカシミアのカーディガンが入っていた。デザインはオーソドックスだが、とても上質な感じがした。小柄で知的なイメージの君にはギャルソンの黒が似合うんだ、とハリーはいつも言っている。
「素敵ね。大事にするわ。こっちも開けていい?」
カレンが無名のお店の包みを開けると、艶のある黄土色のブラウスが出てきた。光沢がありゴールドのようにも見える。襟ぐりが深く、立ち襟の感じが華やかだった。コンサートやお呼ばれのディナーに着ていくのにぴったりだわと思った。思いもよらない色!胸踊るデザイン!ーーそれをハリーが私のために選んで来てくれたなんて!カレンの胸は高鳴り、頰が紅潮した。
◇
翌朝それがすっかり帳消しになるようなことが起こった。キッチンにいたカレンにハリーが申し訳なさそうに切り出した。
「あの黄土色のブラウスだけど、ほんとうは姉さんに、と思って買ったんだ。仕事が無事片付いて、終電に間に合って帰ってこれたのが嬉しくてね。興奮して二つとも君に渡しちゃったんだよ。ごめんね、あれは君の好みではなかったね」
「そうだったの」カレンはそれだけしか口にすることができず、タオルを片付けにいくフリをしてバスルームでちょっと泣いた。
義姉のミアに嫉妬してるわけじゃない。カレンは思った。私はあの黄土色のブラウスがよかったのだ。きらきらが眩しかった。夫が私に選ぶものはいつも上質で確かで正しい。そういうものに私が満足する、と夫は信じている。でも私がほんとうに夫から欲しいものは違う。夕べの高揚感はもうどこにもない。そのことに彼は気がつかないだろう。
プレゼントが逆だったらよかったのに。でもカレンはそれをハリーに伝えない。いつかミアがあのブラウスを着ているのを見てハリーは言うだろう。「似合うよ、姉さん」と。そしてその時、カレンはまたもや置き去りにされてしまったと感じるだろう。